自然のルール
飯をちゃっちゃっと食い終えた後、俺は観察に戻る。
今のところは観察対象も食後ののんびりタイムのようで目立った動きはない。と言ってもやはり見張りは必要なようで一部のブラッティーホーンが見張りとしてうろちょろしている。
中には子連れのホーンもいるのでどうやら雄だけが見張りをしたり、戦っているようではない。
やはり家族全体が一つの巨大な戦力のようだ。
普通の草食動物ならある程度散らばっていることが多いがホーンは完全に一塊となっている。なんだか冬場のペンギンみたいだ。
子供を中心に集め、大人がその周りを囲んでいる。
さらに言うと先ほどまで見張りをしていたホーンが別のホーンと交代するように草を食べている。
交代制も取り入れているのか、やはり魔物系は頭がただの野生動物よりも発達している。
そりゃある程度生きる知恵のようなものはあるだろうが魔物に比べるとやはりちょっと違う気がする。
「……マスター暇~」
「ドラバカとでも遊んでろ。今お仕事中だ」
「え~んマダス~、マスターが冷たいよ~」
「あいつ集中してるときは冷たいからな。こっちに来い、お菓子あげるから」
「ねぇなんで私のところに来てくれないの?」
「しつこいからじゃない?王女様はドラゴン相手に目がないから」
ルビーには悪いがこれだってれっきとした仕事だ。
そこにいる金持ちとはいろいろ違うんだよ。研究成果を出さないと金が入らん。
そう思いながら観察を続けていると雰囲気が変わった。
当たりの動物たちすべてが何かに警戒するように耳を立てている。
ホーンの群れも立ち上がり警戒する。子供たちは大人の陰に隠れて怯えている。
その原因は何かと俺も双眼鏡から目を離し、全体を見渡す。
目立った異常はない。おそらくどこかの肉食動物が潜んでいるんだろう。
俺も気配を探るために聴覚や嗅覚を集中する。
そして感じた気配はガゼルの群れの近くにいた。
そして動物たちは逃げ出した。
再び双眼鏡を覗いて様子を見る。
動物を狙っていたのはライガーである。
ライガー、ネコ科・ライオンと虎の雑種である。
確かに以前いた世界では人工繁殖でのみ成功しているはずの動物だがこっちの世界では普通に野生の世界で繁殖に成功していた。
教科書にも載っている。
この世界では普通に繁殖に成功しているし、レオポンも生殖可能な状態で見つかるそうだ。
どうして元の世界でキメラ動物と呼ばれる生物が普通に繁殖しているのかは不明だが、これがおそらくこの世界の不思議なところなんだろう。
野生化した犬や猫が勝手に繁殖しまくって雑種犬ばかりになっているというのはたまに聞くが、まさか大型動物にもそれが適応されているとは初めて知ったときは驚きだ。
逆に珍しいのはその動物たちの純血種。こんな世界だからこそ逆に何の混じりっけのない動物たちが珍しがられるんだろう。
今じゃ王族とかのペットにされたりもするらしいが、その辺は前世とあまり変わらないか。
そのライガーはガゼルを群れで追い込み仕留めようと走っている。
ライガーの群れはどれも雄の3頭のみ、おそらく成人して間もないのだろう。メスと出会う前だとそういうこともあるようだ。
で、追われるガゼルは当然子供。理由は仕留めやすいから。
ガゼルの子供は逃げ回っているが自身が仲間のもとに誘導されている事に気が付いていない。
ガゼルの子供は必死に逃げていたが待ち伏せしていたライガーに襲われ、地面に倒された。
そして追いかけていた2頭も交じってガゼルの子供に牙を立てた。
「………………よく何も感じずに見てられるわね」
ライガーの狩りをつい夢中で記録し終えたら後ろからドラバカの声が聞こえた。
「何も感じないって言われてもな……当然の行為だろ」
「頭ではそう分かっていても何か感じるでしょ。可哀そうだとか頑張れとか」
「そういうのは確かにないな」
「…………冷血男」
「そういうなよ。当然の行為だから仕方ないだろ、肉食動物が草食動物を食う。これは誰にも、どうすることができないこの世のルールだ」
俺は当然の理に従っているだけだ。
というか従わざる負えない。
「マスターなら助けられたでしょ?」
「助ける助けないの話じゃない。俺はこの辺から見ればよそ者だ。だからこの辺の動物を殺して食うつもりはないし、必要もない。一応十分な食料は持ってるつもりだしな」
「……でも、私は納得しきってはいないわよ。やっぱり可哀そうって思っちゃう」
「…………それも多分必要な感情だろうさ。でもそれだけじゃ生きていけない」
3頭で1つの肉を食っているライガーを見る。
あいつらだって生きるのに必死なんだ。
食うために殺す。殺さなければ生きていけない。
「………………善だ悪だくっだらねぇ」
「ん?今何て言った?」
「何でもない。くっだらねぇ事言ってた奴を思い出しただけだ」
ライガーの食事からホーンの方に双眼鏡を戻すと全員生き残ったようだ。
ブラッティーホーンの群れの近くに居るのは草食動物だけではない。その恩恵にあずかろうとする動物たちを狙う動物もいる。
これに正義などないし、悪などもない。
そう思っているとあいつの顔がちらつく。
正義感に溢れていた奴、そいつは俺を気に入っていた様だが俺は気に入らなかった奴。
何かと弱者を護る的な事を言っていた。
何かと王道、正義の味方が悪をくじく的な話が大好きな奴だった。
と言ってもそれは前世の話、もう二度と出会う事はないだろう。
「へぇ。なんか意外」
「意外って何が?」
「そういう風に思い出す相手が居る事」
「たまにはいるさ。親とか学園時代の連中の事とか」
「友達は私たちだけのくせに」
「はいはい、そうですね」




