飯
マダスの料理が完成し、静かに食べているのだが……何故か視線が突き刺さる。
突き刺さると言ってもドラバカからのみなんだがやはり落ち着かない。
それにルビーは今回初めて道具を使っての食事となるので簡単なマナーぐらいは注意しないといけない。と言ってもスープ1品とパンにハムを乗っけた程度の簡単な食事だが。
それでもスプーンを齧っていたりと所々注意している。
「マスター、何で直接飲んじゃダメなの?」
「口がべとべとにならないため」
「器に直接口を付けるのは?」
「スープの入った器は平皿みたいなのもあるから持っちゃダメな。文化によってはいいんだけど」
「今はみんな持ってるけど?」
「……テーブルのない場合はやむなしだ」
具体的には前世の日本とかでは茶碗と汁椀は持ってたからな。
「……ふ~ん。あ、マダスおかわり」
「はいはい」
ルビーがマダスに器を出すとマダスは直ぐによそってルビーに返す。
ルビーは一応マナーを気にしながらスープを飲んで、パンを食べているのでまぁいいだろう。
「ねぇマスター」
「ん?どうした?」
「あっちは何か凄いね」
「……王族とその護衛だ。貧乏研究者とは違うんだよ」
隣で食べているドラバカと野良猫はまた魔道具から取り出したのか、キャンプ用とは思えないテーブルと椅子を使って食べている。
皿もどこから持ってきたのか木皿ではない皿だ。絶対重いしかさばる。
そしてその足元にはキュイとリーグが小さな器で魔物用フードを食べている。
魔物用フードとはよくスーパーとかで見る犬とか猫用のエサだ。カリカリとか言ってるあの小さい奴。
しかもあれ、確か最高級のフードで体内環境だけじゃなく毛並みとかも整えてくれるって噂の奴じゃね?スンゲーの食ってるな。
ここまでくると収納系魔道具を持っている者と持っていない者の差がはっきりと出ている。
実際便利そうだし今度購入も考えてみるか。いくらするのか知らないけど。
「と言うかルビーは本当にそれっぽっちで足りるのか?」
「よく分かんないけど人間の状態だとそんなにお腹減らないよ。ドラゴンの姿だったら全然足りなかっただろうけど」
その理由は何だ?代謝やカロリー消費も人間と同じぐらいになるものなのか?
そうなると見た目だけではなく遺伝子レベルで人間とほぼ同じになっていると考えられるんだが……流石にそこまで検査できる物は無いからな。
一応魔法や魔術はあるが使えるのは魔物だけだ。
基本的に魔物使いが魔物に指示して火を起こしたり水を出したりするものが一般的で、ゲームや漫画みたいに人間単体が魔法を使える事はない。
使えたとしても魔法に特化した種族、悪魔や精霊の類だ。正確に言うと精霊の力は悪魔の力とは違うが。
そういった存在と契約した魔物使いが作った道具こそ魔道具であり、生産性も低く、希少な品と言う訳だ。
先程簡単に購入するかと考えたが魔道具を売っている店も少なければ作っている者の数も少ない。
単に悪魔と契約できる存在が少ないという原因もあるがその辺は愚痴ったところで仕方ないだろう。
悪魔と契約できるほどの才能持ちは滅多に現れないし、契約できてもその悪魔を好きに使える程となるのは難しいだろう。
つまりドラバカの姉が特殊なだけで普通はそんな簡単に扱える様な相手ではない。
それに悪魔にルビーの事を調べさせるのは何だか危険な感じがするし、慎重にいこう。
「それならいいけど。腹減ったら素直に言えよ」
「うん。分かった」
そう言ってルビーは硬いパンを食べる。ああ、久しぶりに日本の柔らかいパンが食べたい。
白いパンってだけでこっちじゃ高級品扱いされるんだもんな……
少しだけ前世に思いをはせてから飯を食い終えた。
「ごちそうさん。今日もありがとなマダス」
「これでも助手だからな。それより何か考えていたみたいだが何考えてたんだ?」
「臨時収入があったからな、その金で収納系魔道具でも買いたいな~っと思って」
「一応言っておくが相当高いぞ」
「1番安いのでいくらなんだろうな?収納する量も気になるし、収納する量によってピンキリじゃなかったっけ」
滅多に魔道具屋には入らないのできちんとは覚えていないがそんな感じだったはず。
思い出しながら言うとマダスはため息を付きながら言った。
「確かにピンキリだがお前が求める様な収納系魔道具は多分今入る袋の容量で金5数枚ぐらいになるぞ」
金5枚は日本円で約50万円だ。
え、この袋新品で銀4枚と銅5枚、約4500円で買ったんだけど。え、マジで?
「金5枚ってマジ?」
「マジだ。この間王都で確認した時にそんな説明貰ったよ。と言っても1番いい奴がだけどな、1番悪い奴で銀27枚、重さも感じるし保存状態も悪い。普通の食料を入れたら普通に3日もあれば腐るだろうな」
「収納量は」
「お前が使ってる袋とそんなに変わらん」
ボッタクリにも程がある。
「唯一のいい点はかさばらないって所か。と言っても限界まで入れれば当然中に入れた物どうしがぶつかるけどな」
「なら今のままでいいな……」
緊急で入った金はまだ別な物に使うとしよう。ルビーの分の食費も改めて考えないといけないし。
改めて頭の中で金をどう使うか考えながら腹を落ち着かせる。
目線をあっちこっちに動かしながら思考する。自分では気付いていなかったのだが以前マダスや野良猫に指摘されたから今もしてるんだろう。
「ごちそうさま」
「おそまつさま」
ルビーも食べ終えた様で俺の隣にゴロンと横になる。
「ねぇねぇマスター、腕貸して」
「何するんだ?」
「いいからいいから」
そう言われて左腕を貸すとルビーはその上に頭を乗っけた。つまり腕枕にされた様だ。
というかルビーの腕も俺に絡みついてきたし、腕枕どころか抱き枕だなこりゃ。
「なんだ、眠かったか?」
「と言うより人間の身体で寝るのが初めてだからすっごく違和感あった。うつ伏せじゃ人間の身体だとキツイね」
「地面に顔を付ける事になるからな。そりゃ寝苦しいわ」
ルビーの頭はどんどん俺の方に寄ってきて、腕枕って言うより肩枕みたいな感じだ。
それからドラバカの方から何だか嫌な気配がする。
どうせまたドラバカがルビーに甘えられている俺に嫉妬でもしてるんだろう。あんまりルビーの事ばっかり見てるとキュイに怒られるぞ。
「人間って無防備だね。お腹を出して寝るなんて」
「その辺は仕方ない。そういう身体の構造なんだから」
そうしたいと思って進化した訳じゃないんだ。俺じゃなくて遠いご先祖様にでも聞いてくれ。
「変なの~」
そういうわりにはあまり嫌そうじゃないな。
とりあえず抱き寄せるようにしながらルビーの頭を撫でる。そうすると気持ちよさそうに目を細める。
もう少しゆっくりしたらまた歩かないとな。