服問題
服をどうにかすると言っても俺は女性物の服なんて当然持っていない。だが後ろには野良猫とドラバカが居る。
…………ドラバカから服借りるか。
「お~いドラバカ、この子に服貸して――」
「なに裸の女の子を前に普通にしてるのよバカ!!」
野良猫の大声が響いた。しかも耳元で叫ぶ必要あったか?
俺は耳が痛くて抑えている間にルビーを連れて行く。そして隣に居たドラバカは既に服を取り出していた。
ルビーは戸惑いながらもされるがままといった感じで呆然と連れて行かれた。
「……なぁ、ドラゴンが人型になったのって俺の見間違いじゃないよな?」
「俺も見たから現実だよ。どっかの魔物が催眠系の技を使ってなければな」
男二人女の子の着替えを手伝える訳がなく、着替えているのを見ない様に後ろを向いている。
にしてもまさかドラゴンが人型に化けるとは。伝承とかではよく聞くが本当に人型に化ける魔物は初めて見た。
一応化けれる魔物は何度か見た事がある。
特にドラバカの姉の1人である次女は悪魔使い、元から人に近い姿をしていて人ではない部分を幻術や催眠で誤魔化しているのは知っているし何度も見た。
しかし体格や骨格ごと人に変化する魔物を見たのは初めてだ。
「ルビーの奴あんな事出来たんだな」
「と言うか何でルビーなんだ?結構さらっと決めたみたいだけど」
「ま~鱗がルビーみたいで綺麗だったからってのが理由だな。単純だろ?」
「理由を聞けばな。でもたまに魔物に変な名前を付ける連中に比べればまともだろ」
そういうのとは同じにしないで欲しい。
あんな中二病みたいな名前をルビーに付けたくない。無駄に長いルビだらけの爆死キャラにしてたまるか。
「……苦戦してるな」
「そうみたいだな。というか今まで全裸みたいなものだったんだし服を着る習慣が全くなかったんだろ、俺は今でも犬とかに服を着させるのは違和感あるし」
後ろでワーワー騒いでいる声が聞こえる。恐らく野良猫とドラバカが服を着させようと頑張っている様だが……上手くいってないらしい。
「シルフィ、手伝ってきてくれ」
「いいよー」
マダスがシルフィを援軍として投入した。これで上手くいくんだろうか?
「にしても……まさか俺が契約するとはな……」
「え、あんな事言っといてか?」
マダスが驚いた様に言う。
「別に契約したくなかったとかじゃなくってさ、単に俺野生動物大好きだろ?その俺がとうとう契約するとはな~っと他人事のように感じてな」
「そういう意味じゃ確かに意外だとは感じたけどな。気に入った子ほど契約したがらないと思ってたし」
「俺自身もそう思ってた。人生どうなるか分かったもんじゃないな、しかも番としてだってよ」
自分で言うのも何だがまさかドラゴンの方から求婚されるとは思っていなかった。というか想像すらした事ない。俺の方から求婚するのは妄想してたけど。
そりゃ重度のケモナーとして綺麗な生物やら魔物やらに彼氏彼女の関係になってみたいなーなんて妄想はしていたけど現実に起こるとは思っていなかった。
まぁ実際に求婚されてオッケーだしたけど。
「それより……大分時間掛かってるな」
「結構抵抗してるみたいだな」
後ろでワーワーからギャーギャーに代わっている。いつになったら着替え終わるんだろう。そう思っていると突然背中に柔らかい物が押し付けられるような感触がした。
後ろを見てみると俺の後ろにルビーが引っ付いていた。
見て分かっていた事とはいえ、やっぱりすげぇ存在感がある。
「服ヤダ!!」
初めて聞く……でいいのかな?後ろでギャーギャー聞こえてたのはノーカンでいいよな?とにかくルビーの声はかわいらしく感じた。
そしてすぐ野良猫やドラバカが追い掛けて来る。
「ルビーちゃん!!服着てないのにマスターにくっ付いちゃダメだよ!」
「ヤダ!服もぞもぞしてヤダ!」
「せめて下着は着て下さい!!」
「ブラジャーヤダ!キツイの嫌い!」
「マスターも言ってあげてよ!このままじゃ大変な事になるから!」
う~ん、大変な事になってるのは今まさにそうなんだが……むっつりスケベとしてはもう少しこの感触を味わっておきたい……
でもルビーの裸を他の男に見せるのも癪だ。今はマダスが見ない様にしてくれているからいいが他のスケベたちは絶対に無理、絶対に見てくる。
そうならないためにはやはり服を着させるのが1番だ。と言っても下着も嫌がってるし……
「なぁルビー、服を作る魔法みたいなのないのか?」
そうなると自分で用意した物を着てもらうしかない。
これは人型の魔物、天使や悪魔、精霊、妖精などの魔物がよく使っている魔法だ。と言ってもデザインとかはあまり凝った物にし辛く、単純な物になりやすい。
そのせいか服を初めから着ている、着るのに慣れている魔物の多くは服を買う。金があればオーダーメイドで作ってもらえるし、服屋で普通に買ってもいいのだ。
実際シルフィの服は買った物だったりする。
その事を前提にあったせいか服を作る魔法の事をすっかり忘れていた。
野良猫もドラバカもすっかりその事を忘れていた様だ。
「……それならいいけど……服全部見せて」
そう言って女性陣の元にルビーは戻って行った。先程の様な騒がしさはなく、静かに進んでいる様だ。
少し声に耳を傾けてみると色々相談している声が聞こえる。
「それにしてもマダス、お前我慢強いな」
「突然どうした?」
「だってルビーの事全く見ようとしないじゃん」
そういうと少しだけため息を付いた後ぽつりと言った。
「だってそんな事したらティナに殺される」
そう言う事か。確かに彼女の前で他の女を見てたら怒られそうだな。
「案外彼女持ちも大変なんだな」
「大変って程でもないけどな。基本的に俺ティナ一筋だし」
「一途だね~ま、俺もこれからそうしていかないといけないんだろうけど」
後ろに居るルビーの事を考えて言う。
魔物を見て美人かどうか吟味していたがこれからはしてはいけなさそうだ。
「マスター、マダス、もういいわよ」
野良猫の声が聞こえたので後ろを振り向いてみると、そこには制服を着ているルビーが居た。
制服は俺たちが学生であった頃の女子生徒用の冬服用の制服、所々翼や尻尾のために穴が開いていると思うが根元に合わせているので穴が開いている様に見えない。
そしてよく似合っている。
「どうかな、マスター」
「よく似合ってるぞルビー。綺麗だ」
そういうとルビーの尻尾が左右に揺れる。喜んでいる様だ。
「って言うかよく制服なんて持ってたな。かさばるだろ、どっちが持ってたんだ?」
「私、お姉さまがたち色々便利な魔道具を持たせてくれたから。その中に私の衣装部屋と繋がる魔道具があるからそれを使って見せた時にこれがいいってルビーちゃんが言ったの」
そんな魔道具を持ってたんかい。てかそれ絶対高い魔道具だろ、他にはどんなもん持ってきたんだが……
「マスター、これなら良い?」
「ちょっと確認、下着付けてるよな?」
「パンツだけは履いてる。ブラジャーは胸は苦しいからしてない」
これは……ギリギリ大丈夫なのか?
一応ブレザーとか着てるから透けて見える様な事はないだろうが……
女性目線ではどうなのか一応聞いておこう。
「大丈夫なんだよな?」
「ブレザーとかは着てるし一応かな?夏服でシャツに直接って時はダメだけど」
「今は大丈夫だと思うわよ。この辺に居るのは私たちだけだろうし」
一応確認したが今は問題なしと。
それじゃいいか。
「なら出来るだけその恰好でいろよ。人間の姿になっている時は」
「はーい」
いい返事と共に俺に抱き着く。二つの柔らかい物が俺の腕に押し付けられる。
いい感触だ。腕が幸せ。
そう思っていると野良猫とドラバカだけではなく、シルフィやリーグ、キュイからもジト目で見られていた。そんなに分かりやすく顔に出てたかな?
「それじゃ意外な事に時間使ったし、飯にするか」
マダスの一言により飯の時間となった。