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フィールドワーク再開

 彼女も居ない、家族も王都に居ないのでただただ暇潰しぐらいにしか過ごしていなかったここ数日。

 再び旅に出る事になったのだが……


「何でお前らがいるんだよ。仕事はどうした」


 相乗り馬車に居る顔見知りはマダスだけではなく、何故か野良猫とドラバカが居た。

 運よくだと思っていたが馬車に居るのは俺たちだけだ。


「これも仕事なの」

「王女様が相乗り馬車で移動するってどんな仕事だ。で、野良猫の方は」

「私は王女様の護衛。本当はもっと戦闘向きの宮廷付き魔物使いが来るはずだったんだけど王女様からの指名でここに居るのよ」


 野良猫の方は納得。

 そして野良猫とここ数日一緒に居たであろうマダスに目線を向ける。


「どこまで知ってた?」

「いやお姫様と仕事で遠出するってのは聞いたけどまさか同じ馬車に乗るとは……」


 男2人ひそひそと話し合う。


「遠出って具体的には」

「各国に今回の事件について説明するとか。その護衛としてお姫様と一緒に国を出るって話も聞いていたんだが……」

「まさかこの馬車とんでもないギミックついてたりしないよな?正直不安しかないんだけど」


 今までのん気な男2人旅……って言う程の旅ではないが同性しかいないというのは本当に気楽なものではあった。

 実際に異性が居るとフィールドワークは出来ないとまで言われる事もある。

 組んでいても夫婦だったりと既婚者である事が多い。結婚もしていない若い男女が組んでフィールドワークをするというの本当に稀だ。


 色々理由はあるが大抵は間違いが起きやすいという事。

 俺としては大自然の中でそんなことしてる暇はないだろっと言いたいところだがそういう風評があるのだから仕方がない。

 しかも男の方が我慢できなくなってと言うところまでが風評なのでどうにか潰したい。


 そしてもっとヤバいのがドラバカの姉たちなのだが……絶っ対に会いたくない。

 あのシスコンたちにこの事がバレたらある事ない事適当に罪を着させられて死刑にされる!それだけは絶対に回避しなくては!!


「……それで仕事って何だ?」


 一応ドラバカに聞いておく。

 馬車だけ同じで後から別々になる可能性は高いはずだ。


「はっきりと言うと私もマスターの助手をするから付いて行くだけよ」


 ……………………マジか。


「俺そんな契約した覚えないんだけど」

「だって押しかけ助手だもの、覚えている訳ないでしょ」

「ちゃんと家族に言ったんだよな!?」

「当然言ったわよ。魔物使いとしての修業の旅に行くって」

「俺たちと一緒ってのは?」

「いう訳ないでしょ?お姉さまたちがとてつもない勢いで反対するに決まってるじゃない」


 言ってねぇのかよ!!

 ただでさえ学生時代にあの家族に色々勘違いされてるってのによ!!

 ドラバカに興味?ねぇよそんなもん!今も昔もただのダチだよこんにゃろう!


「俺のためにも言ってくれよ!前にお前の長女に拉致られた事あんだからな!!」


 勝手に勘違いされて妹に手を出したとか訳わかんねぇ事を言われて天使やら悪魔とかに拷問の一歩手前まで言った事がある。

 特に次女の「拷問用悪魔使うか……」のセリフには本当にビビった。あの時は本当に怖かった。


 だからいまだにあの姉妹がトラウマなんだぞ。末っ子大好きシスコン共。


「そ、それに関しては謝ったじゃない。お姉さまたちの暴走を止められなくてごめんって」

「本当に止めてくれなかったら何されてたんだろう……ああ、そう言えば最低でも去勢はしとくとかって言ってたな……」


 遠い目をして俺は言う。

 でもこれはある意味チャンスかもしれない。今回の旅でドラバカに全く手を出さなければ去勢コースは完全に潰せるはずだ。ここでドラバカに手を出さなければ済む問題なんだ。

 よし、よし!むしろこれを機にドラバカとはそういう関係を持つ気もないと示してやろう!


「……前途多難ね王女様」

「……お姉さまたちのせいで……」

「マスターはマスターでバカだよな。相変わらず人の心が分かってない」


 おいマダス、今回俺はそんな悪い事を言った覚えはないぞ。

 むしろ悪いのはドラバカの姉たちだろ。


「とにかく。今回俺は全く何も悪い事はしていないんだからお前の姉共が襲って来た時はお前が責任を取れ。いいな」

「流石にあれ以上の事はないと思うけどね。あれは他の生徒が流したデマに踊らされたようなものだし」


 あいつらドラバカの事になると沸点低いからな……何をしでかすのか全く分からん。

 ああ、またあんな目には合いたくないな……


 -


 再び4日使ってとりあえず草原に舞い戻ってきた。そこにブラッティーホーンの群れは当然居ない。

 捜索からまた始めるか。


「シルフィ、ブラッティーホーンの群れはどっちの方に居るか分かるか」

「う~ん……この辺には居ないみたい。なんだかんだで1週間以上いなかったし多分遠くに行っちゃったんじゃないかな?」

「やっぱりか。そうなると仕方ない、歩いて探すぞ」

「マスターちょっと待ってくれ」

「どうしたマダス、トイレか?」

「そうじゃなくてあの2人、俺よりヤバいぞ」


 俺たちの後ろに居る女性二人が肩を激しく上下しながらついて来ている。


「……おい。あいつらあそこまで体力なかったっけ?」

「大方宮廷付き魔物使いとして働いている内に体力落ちたんでしょ。もう片方は王女として執務ばっかりだったろうし、基本運動と関係のない生活だったんでしょ」

「あ~なる程。てかよくそんなんで付いて来るとか言いだしたな」


 手をポケットに突っ込みながら平然と言うと恨みがましい声で野良猫が言う。


「あ、あんた達みたいな貧乏と、一緒にするな~」

「こっちは、色んな仕事やってるのよ~」


 怒りで大きな声を出そうとしている様に見えるが全く出ていない。出ているのはかすれた声だ。

 一応2人とも大きなリュックを背負っているが俺たちのと比べるとまるで量が違う。


 マダスは調理器具に水や食料などと言った生活に必要な物を背負っているし、俺は研究で使う機材や双眼鏡、方位磁石などを詰め込んだリュックを背負っている。

 どちらもそれなりに重い。ちなみに俺は寝袋とテントも背負っている。マダスの寝袋はマダスが背負ってはいるけど。


「それじゃいったん休憩入れるか。マダス、コーヒーくれ」

「おう。ティナとお姫様も飲むか?」

「お願い」

「します」


 2人で言うとは本当に仲がいいな。

 1度リュックを置いて首から下げた双眼鏡で周囲を見渡す。周囲には魔物ではなく普通の動物しかいない。安全と言う程ではないが魔物が居るよりは安全だろう。


 マダスがリュックからマグカップや携帯用コンロを取り出して湯を沸かす。そして取り出したのはインスタントとしか思えないコーヒーの粉、それを人数分に入れて湯が沸くのを待つ。


「にしても宮廷付き魔物使いになってから野良猫は本当に体力落ちたな。学生時代じゃこの程度じゃつかれなかったろ」

「年なのかな~」

「そのセリフは子供が成人するぐらいにまでとっておけ、どうせいつか使う事になるんだから」


 まだ20代前半で言うセリフじゃないだろ。とりあえずもう少し待て。

 ずっと足元を歩いていたリーグは野良猫の近くで丸くなったが疲れている様子はない。キュイもずっと飛んでいたが疲れてはいなさそうだ。


 疲れているのはこの2人だけ、二人とも学生時代の方が体力あったろ。

 これだから事務仕事は不健康なんだ。


「全く、今日はいい方なんだぞ。草原で緩やかな斜面ぐらいなんだから」

「逆に悪い方は?」

「岩山をクライミングしたり足場の悪い洞窟の中を歩いたり。あ、でも魔物同士が食いあいだったり喧嘩している様な所を避けて歩くのに比べればマシか?」

「あ~あれはヤバかったな。グランドリザード同士の縄張り争いを避けて通る時は大変だったな」


 俺が思い出しながら言うとマダスがしみじみと言った。

 確かに魔物の縄張り争い、発情期の雌の奪い合いなどはヤバいもんな~殺気がむんむんだ。

 そういうと野生の世界をあまり知らないドラバカは青ざめる。


「そんなところに近付いたの?」

「まさか、双眼鏡で遠くから見てただけ。ちょっかい出したり敗走した際のルート上に居なければ意外と大丈夫だ」

「……だからマダスの身体、あんなにたくましく……」


 何か野良猫が顔赤くして言ってる。

 確かにマダスもこの仕事をするようになってから筋肉付いたからな。というかマダスの裸を見る様な事やっぱりしてたんだ。

 知ってたけど。


「という事でマジで危険と隣り合わせだからさっさと帰りな。この程度でへばっている様じゃこの先付いて行けねぇぞ」


 一応優しさのつもりで言う。

 人にはそれぞれ適した仕事があるんだ、何のつもりだか知らないがさっさと帰った方がいいと俺は思う。

 しかしドラバカは強い眼差しで言う。


「それだけは嫌。絶対付いて行くから」

「何でそんな付いてきたがる?俺の他にも魔物研究者は普通に居るし、外国にはドラゴン専門の研究機関だってあるって言うじゃねぇか。そこに行った方がお前のためでもあるだろ」

「そうじゃ……ないの」


 少し声が小さかったが確かに否定した。

 自分のスキルアップの様な目的じゃないなら何のためにいるんだ?

 そう思ていると決心したようにはっきりと言う。


「マスターと同じものが見たいの。それじゃダメ?」

「何で俺と同じものが見たいんだよ。同じものを見る必要はないだろ」

「……本当に鈍感。とにかくマスターと同じ事をして少しでもマスターに追いつきたいの!!それが私の夢に継がる事だと思ったからここに居るの!!だから意地でも帰らないからね!!」


 なんか強い決意があるならいいか。


「まぁそんなに強い意志があるなら頑張れよ。俺も帰れとか言わないからさ」

「うん」

「コーヒー出来たぞ」


 マダスがインスタントコーヒーを淹れてくれた。

 このコーヒー大分苦いが我慢する。この世界じゃ砂糖は高級品、滅多な事じゃ手に入らないし高いから買わない。


 しかしこの苦さは本当に目が覚める。

 辛いガムを噛んで眠気を吹っ飛ばすなんてCMがあったがこのコーヒーの苦さで眠気なんて簡単に飛ぶ。そのぐらい苦い。


 とりあえず女性陣が回復するまでのんびりしようと思っていると、大きな影が俺たちを覆った。

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