平和
中心に居るドラゴンを決して怒らせてはいけない。これが最低限の条件のつもりだったが既にキレてる。しかも1体だけじゃなく4体もだ。
他のドラゴンたちも中心の4体ほどではないが全ドラゴンが怒っている。マジで泣けてくる。
「これ本当にこの国終わるんじゃね?」
「諦めるなよ!お前がここに残るって言ったから俺たちも残ったんだからな!最後まで弱音を吐くな!!」
「うるっせぇ!!あいつらがあそこまで怒ってるとは思ってなかったんだよ!!これじゃ城から一応1番遠いここでも被害が出るぞ!野良猫!ドラバカ!防衛はどうなってる!?」
「城や城下町にの方に力を注いでいるからこの辺は雑魚同然の魔物使いしか居ないわよ!迎撃しようって言った過激派も居たけど却下されたしここにはそんなに戦力はないわよ!!」
「どちらにせよ逆鱗に触れたドラゴン100体以上、戦力になるのはお姉さまたちぐらいでしょ。どちらにせよ無理でしょうね」
軽いパニックを起こしながら話す俺たちの中で唯一冷静に言うのはドラバカだ。
でも本当にどうするんだよ!!
シルフィもリーグもキュイも直接戦闘には向いていない、いわばサポート系の魔物ばかり。そして直接戦闘できる魔物は居ない。
いや、居ても多分簡単に迎撃されるぐらいの戦力差だけどな。
それに攻撃して更に怒りに触れる様な事になったら更に危険は増す。八方塞がりって奴だろこれ?
唯一希望があるとすれば……この子だけか。
俺は嬉しそうに群れを見るドラゴンを見る。この子が群れに帰り、元居た棲み処に帰ってくれる事を願うしかない。
「おい。お迎えが来たぞ。帰んないのか?」
一応ドラゴンに帰る様ちょっと促す。
ドラゴンはもういいのかと聞くかのように俺に顔を近付ける。
俺は頷いて顔を抱き締めた。
「家族が心配してる。早く行って、安心させて来い」
そういうと一度だけこの子が俺の顔を舐めた。
俺は笑いながら撫でると不意にこの子が首を後ろの方に動かした。
鱗の手入れだろうか?背中を掻くように顔を擦り付けた後、一枚の綺麗な鱗を咥えていた。
その鱗を俺の前に持ってきたのでそっと持つと鱗を離した。
単に綺麗だなと思い鱗を様々な方向から見て居るとドラゴンが大きな咆哮を上げた。
そして翼を大きく広げ、群れに向かって飛び出した。
少し群れに受け入れられるか不安ではあったがもうこの先は信じるしかない。
じっと群れを見て居ると少しずつ遠く離れていく。
どうやら受け入れられたようだ。
「…………ふう」
「た、助かった」
「マスターが危惧していた事態にはならなかったわね。よかったじゃないマスター」
「……ああ」
マダスは息を付き、野良猫は腰を抜かしてへたり込む。
最後まで冷静だったドラバカの言葉に、貰った鱗を夕日にかざしながら言った。
群れは夕日の方向に向かって飛んで行っている。
色んな意味で良かった。
1つはあの子が無事群れに帰れた事、もう1つはこの国に被害が出る事なく無事済んだ事、そして個人的な事を言えばあの子と仲良くなれた事。
俺は変態紳士ケモナーだ。生き物は生き物らしく群れの中で仲良く生きてくれると嬉しい。
そりゃ熊みたいに単独行動をする動物もいるが子供なら親の愛情を注いでもらいながら幸せに生きてくれる事を願う。
思わぬプレゼントも貰ったしな。
そう思い鱗を見ていると不意にドラバカが興味深そうに俺の鱗をじっと見ている。
「なんだよ」
「それ売ってもらえません?」
「はぁ!?何ふざけた事言ってやがる!!これは一生もんのお宝じゃ!!くれてやるかよドラバカ!!」
「だってそれ一生に一度出会えるかどうかって言うドラゴンの鱗じゃないですか!!大金はたいてでも手に入れるべき鱗なんですよ!」
「知るかボケェ!!これは俺のもんだ!!」
余りにもバカな事を言うのでドラバカと俺の喧嘩が始まった。
直接殴ったりはしないが醜い言葉のぶつけ合いだ。
「……なんか、一気に平和になったな」
「そうだね。…………ちょっとだけこうしてていい?」
醜い争いをしている間にマダスと野良猫は夕日の中イチャイチャしていた事を俺は知らない。
-
あの子が親元に帰って数日が経った。
その間に色々な事があった。
まずは金の事。今回のドラゴンの世話によって得た給料は破格の給金と言える。
ほんの2日程度しか働いていなかったのにとてもいい金額が入った。
と言ってもこれはほとんどマダスと野良猫のおかげ。マダスと野良猫が国に対して強気に動いてくれたからだ。
俺はこういった交渉事は苦手なのでマダスの隣に座ってじっとしていた。そうしている間に金額はどんどん増え、とんでもない額になったという事だ。
お陰でマダスに給料をたんまりと払えた。マダスは多過ぎると言ったが普段少ない給料を払っていたのだ。こういう大金が入った時ぐらいはサービスする。
残りは旅の資金として節約、今日も貧乏暮らしで乗り切る。
そして少しの間だけ王都に留まる事にした。
具体的には2、3日程、その間マダスに彼女サービスしとけよと言っとくと「余計な事言うな」と怒られた。
それから俺とマダスは会ってない。宿も別だし恐らく野良猫とイチャイチャしてるんだろう。
それからドラバカは王女として頑張ってるらしい。
詳しい事は分からないが、頑張ってるらしい。
そして俺は今ぼんやりとただ空を見ていた。
次はどの魔物を観察しに行くかをぼーっと考えている。今1番の有力候補はこの間のブラッティーホーンの群れをもう一度探し、観察したいと考えていた。
それから例の鱗は当然俺が大事に懐に入れている。
放っておくとドラバカが盗みに来そうだし、それになんだかんだであの子が恋しい。まさかこんな短期間で1体のドラゴンにぞっこんになるとは思ってもみなかった。
可愛くていい子だったからな……やっべ、思っているより重症だ。何かで頭の中切り替えよう。
そう思い次の旅のために長期間の保存に優れた食料のチェックを行う。
乾パンにチーズ、干し肉に干した果物の類。あ、乾パン少なくなってる。今度買いに行こう。
この世界じゃ前世の様に缶詰が売っている訳じゃない。そう言う時は氷系の魔物と契約したりと方法は色々あるんだが……現在それが出来るのはシルフィだけだ。
シルフィに頼んで水の精霊でも紹介してくれないかな……そしてマダスが契約すれば食材の長期保存が可能なのに……
ああ、何か頭は切り替えられたけどなんかむなしい。主に自分の生活力が足りない様な気がして。
ま、今度行った先でレアな魔物を見付けられればそれでいいか。