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お迎えが来ました

 正直言って親が来るのは別に問題じゃない。

 いや、国的には大問題なんだろうけど俺としては早くこの子を引き取ってくれるのならその方がいいと思っている。

 この子も親元に早く帰りたいだろう。


 しかし問題はその親以外の存在も居るという事だ。端的に言えば降りてくる場所がない。

 この子が空中で会うというのなら問題ないのかも知れないが降りてくる事を考えると、とても広さが足りない。

 今ぱっと思いつく広い場所は……


「ごめんな、ここじゃ狭いから小屋の方に行かないか?」


 グロークはこの国で1番広い牧場だ。全てのドラゴンとはいかないだろうがそこでなら親と会うぐらいの土地はあるはずだ。

 そういうとそっと俺の事を咥えた。俺はマダスに言う。


「先にグロークに行ってる!」


 そういうとこの子が羽ばたいて空を飛ぶ。

 空に居る間に街の様子を見ていると人が大慌てで移動しているのがよく分かる。アリのように小さく見える人が少ない荷物を持って我先にと門に向かって走っていたり、荷車を引きながらゆっくりと移動している人もいる。

 混乱している様だが思っていたよりも人の数は少ない。事前に避難していた者の方が多かったようだ。


 まずそれには一安心する。

 だが問題はその次、しかもそれはドラゴン次第だ。怒りの具合によっては直ぐにブレスをぶっ放す可能性だってある。何事もなくこの子を連れて帰ってくれるならそれが1番いいのだがどうなるかは分からない。


 飛行中この子は小屋の前に飛んで行こうとしていたようなので言う。


「今日は牧場の中心に行かないか?そこなら広いし、何もないからすぐ親に気付いてもらえると思うぞ」


 そういうと方向を変えて牧場の中心へ向かう。

 そこにはただの草原で木1本生えていない。その中で赤いこの子はよく目立つだろう。


 直ぐに親が来た際に飛び立てるようギリギリまでオーラを分けて体調を万全にしておく。これは考えようによっては良かったのかも知れない。

 夜中に寝ている時や、早朝に来て飯も食ってない状態で帰すよりはだいぶいいと魔物使いとしては思う。けれど国としてははた迷惑な話だろう。

 予想していた時間より早く来たし、国の人間が全員逃げた訳じゃない。その状態で来たのだからそりゃパニックにもなる。


 あとは……綺麗に洗っておくか。水はないので乾拭きになるが鱗傷付いたりしないよな?

 ちょっと考えたが多分問題ないだろう。


 俺はこの子の身体を綺麗に拭く。

 どこかくすぐったそうに時折身体を捩る。でもどこか気持ちよさそうだ。


 丁寧に拭いていると足音が聞こえる。

 慌てたような足取りで走って来たのはマダスに野良猫とドラバカだった。


「おうお前ら、どうかしたか?」

「どうかしたかじゃないでしょ!!ドラゴンが来てるのに何のんきにここにいるの!?さっさとに逃げるわよ!」

「いや逃げるって言ってもどこに逃げるんだよ?もう既に目と鼻の先だろ?」

「飼育小屋です。一応あそこが最も頑丈な建物ですのでそこに逃げ込みますよ」

「何で当然のようにドラバカがいるんだよ。いの一番に逃げないといけない人トップ10には入るだろ」

「私もお姉さまもいざと言う時の戦力として残っています。これでもドラゴンや悪魔と戦闘向けの魔物と契約関係にありますから」


 そういやそうだったな。

 ドラバカはドラゴンと、そしてその姉たちも希少な魔物と契約関係にある。なのでこの国で一番戦闘向けの魔物を持っているのは王族だ。

 確か長女が天使、次女が悪魔、三女は精霊、四女は神獣、そして五女のドラバカがドラゴン。というすんごい家系なのだ。


 確か女王の天使を引き継いだのが長女との噂もある。女王自身も初めは平民だったらしいがその魔物使いの才能で宮廷付き魔物使いから玉の輿になったらしい。

 現在はその才能を娘である王女たちが引き継いだという形になるのだろう。


「もし戦闘となった場合は私とお姉さまたちも参加します。それだけは覚悟しておいてください」

「……マダス、ドラゴンたちはあとどのぐらいで着く?」

「あくまで音だけで判断してるから正確には分からないがあと数分だろう」

「…………よし。お前らは逃げろ。俺はここに残る」

「はぁ!?」


 マダスが驚きの声をあげる。

 他の2人も驚いた表情でいる。


「何だって逃げないんだよ!いくら規格外でもそれは人間の範囲内でだろ!人間じゃ魔物に勝てない!」

「どっから勝つ負けるってのが出たんだよ。俺はただ責任を最後まで果たすだけの話だ。それに本当にヤバい時は思いっきり逃げるさ」

「責任とか今はそんな状況じゃないでしょ!!その親が今向かってくるんだから!」


 野良猫も言ってくるが俺の懸念は二つある。


「それでも心配なんだよ。1つ目はこのどさくさに紛れてこの子を狙う人間がいないか心配なんだよ」

「こんな状況になる魔物をとっ捕まえる奴がいるかな……」

「2つ目は親の方がこの子を引き取らなかった場合」

「え?あ」

「思い出したか。野生生物の1部には人間の匂いが付いている事で子育てを放棄する存在がいるんだ。そういう状態になったらこの子が頼れるのは俺だけだ。その時は俺がこの子を育てる」


 別にこの現象と言うか習性と言うかそんなものはよくあるものだ。

 危険な動物の匂いが付いた赤ん坊を捨てて他の子供を育てるなんて話はよくある。


 例えば巣から落ちた鳥の雛を巣に戻す際に触れた部分から人間の匂いが付いて事で、親鳥が逆に雛を巣から意図的に落とすなんて事もある。それと似た状況でこの子が親から否定される可能性は捨てきれない。


 それが俺が1番の懸念だ。


「その可能性は……確かに捨てきれないが……大丈夫なのか?エサ代とかどうするんだよ」

「野生動物を食わせて凌ぐしかないさ。もしくはドラバカに預けて養ってもらうとかな」

「お前はそれでいいのか?」

「この子の幸せを1番に考えれば当然の考えだと思うけどな。ま、俺と一緒に居たいって時は連れて行くさ」


 一応契約(ティム)した魔物に野生動物の肉を食わせないのが魔物使いの暗黙のルールだし、病気にならないための当然の行動なんだが……こればっかりは仕方がない。

 この子の身体がようやく拭き終わり、綺麗になったと思う。

 ちょっと自己満足して3人に向き合う。


「という事で俺はここに残る。お前らはさっさと逃げろ、どうなるか分かんねぇぞ」


 そう言って3人に逃げる様に言ったがマダスはその場に座り込んだ。


「全く。そういうつもりなら先に言え。俺はお前の助手なんだから」

「いや、でも流石に危険じゃ」

「その危険に堂々と突っ込んでるお前に言われたくない」


 そう言うマダス同様に全く動く気のなさそうな2人を見る。


「なら私も残ろうかな。バカ2人を残して避難したら逆に心配でどうにかなっちゃいそうだし」

「私も残るわ。ドラゴン使いが居れば向こうも少しは信用してくれるんじゃない」

「お、お前らまで」

「私たちの事も忘れてもらっちゃ困るぞマスター」

「ニャー」

「キュイキュイ」


 二人に続いて主張する3体、お前らにも無茶させるな。

 そう思っているとドラゴンとシルフィが同時に同じ方向を向いた。


「来たのか」

「来たよ。本当に、とんでもない軍勢だよ」


 そのドラゴンの群れが見えた時、俺は背筋が凍った。フィールドワーク中危険な魔物も当然遠くから観察していた。

 当然恐怖もあったし、決して悟られないように慎重に慎重を重ねて観察していた。


 けれどこの緊張感はそれらを大きく上回っていた!

 感じるのは大きな怒り、そしてその中で特に大きな怒りは4つ感じる。


 群れの中心に居る10メートル以上のドラゴンが1体、一回り小さな9~8メートルのドラゴンから1体、そしてこの子とそんなに変わらない大きさのドラゴン2体からとてつもない怒気を感じる!


「……今更かもしれないが逃げてもいいぞ」

「じ、自分で残るって言ったんだ。残るさ」

「で、でもあれ本当に被害を最小に抑えられるの?王女殿下全員が集まってもさ」

「厳しいとしか言いようがないわよ。強力だけどそんなに数がいる訳じゃないんだから」


 ……こう言う状況が死線を潜るって奴なのかな?

 マジで泣けてきた。

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