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女の子達の会話は脱線してこそ

前回のあらすじ:Oh、バレテーラ



「……しかし儂も耄碌したものじゃなぁ、よりによってスキル持ち(ホルダー)に攻撃してしまうという愚を犯すとは」


 どうやらまだ区切りをつけるには早かったらしい。


(……これは……どうするべきか)


 ミサキがスキルを持っている事は三人にとってなるべく知られたくない事柄であり、故に少女――マルレラがそれを知ってしまっているのも喜ばしい事ではない。これで酒だけ回収してサヨナラ、という訳にはいかなくなった。

 本来知られたくないのであればスキルだとバレないように使う等の何かしらの対策をすべきだったのだが、スキルがそんな扱いになっている事を知ったその直後に使う羽目になった訳で、対策を考える暇なんて到底無かったのだ。

 まぁそもそも対策をしたところで隠し通せたかは怪しくもある。マルレラの攻撃はこの上なく正確で的確であり、対するミサキのスキルは発動すれば確実にミサキ本人へのダメージをゼロにするモノ。さして強くもないミサキが完璧な攻撃をノーダメージでやり過ごすという不自然極まる光景に、攻撃したマルレラ側が違和感を抱かない筈はないのだ、

 とはいえ、違和感を抱かれようと確信を持たれようとこの場はとりあえずシラを切るという最終手段が無い事も無い。この世界の人より表情の動きの少ないミサキである、トボけるのはお手の物と言えよう。


「……スキル? 何の事?」


 ……しかし、そんなすっとぼけの演技は結局不発に終わった。

 ミサキのすっとぼけ力は確かに高かったのだが、隣に立つ親友二人が逆にメチャクチャ低かったのが原因だ。具体的に言うと二人とも表情を強張らせて武器に手を添えているのが原因だ。ミサキを案じるが故のその行動が。

 言うまでも無いがその構えは『口封じも辞さない』を意味する。積極的に口封じしようとしてるのは片方(お察しください)だけだが……何にせよそれはすっとぼけとは真逆の正面からの力技。よってミサキの演技はただ浮いてるだけのものにしかならず、不発となった。

 しかし無意味だった訳ではない。二人が緊迫した空気を放つ中で一人が浮いているその奇妙な、しかし誰もが等しく肯定しない光景からマルレラはうっすらと事情を察する事が出来たのだ。結果オーライってやつである。


「これは……知らなかった事にした方が良いやつかの……?」


「「「………」」」


「むぅ……。スキル、それはすなわち英雄の力、神の領域。あの時実際にこの目で見た身としては誇っていい物だと思うのじゃが……だからこそ逆に隠したい者もおるのかもしれぬな」

「………あの時?」


 つい先程の事ではないのか。そう引っ掛かりを感じ、少し悩みつつもミサキは問い返す。


「うむ、遠い昔――そう、魔人が封印された時の事じゃ。儂らは敗れて呪いを受け、しばらく後に呪いを解く為に再戦に挑み、しかしやはり歯が立たず……今度は命を奪われる事も覚悟した、そんな時に『彼女達』が現れた」

「………」

「彼女らは様々な種族の外見をしておったが誰一人として名乗らず、ただ『スキル持ち(ホルダー)』と己を表した。そしてその得体の知れないスキルで魔人を圧倒し追い込み、封印。間近で見ていた儂らはその強さに生き物としての格の違いを思い知ったものじゃよ」


 スキルを持った英雄達が魔人を封じる、このあたりの話の流れは魔人伝承として語り継がれているのでミサキ以外は皆知っている。ただ、ドラゴニュートがその場に居た事は伝承では語られていなかったりと所々食い違う点もあり……伝承をよく知るリオネーラやエミュリトスも興味を惹かれ始めた。


「ねぇマルレラ、今あなたは「彼女達」って言ったわよね? 伝承にある封印の英雄達のうち、人間族の英雄は確か男だったハズなんだけど?」

「はぁ? 誰ぞが捻じ曲げて伝えたんじゃろ、儂が見たのは確実に全員少女じゃったぞ、スカートも穿いておったし。まぁ、スカートを穿いた美少年だったと言われたら……ちとショックではあるが受け入れよう」

「いや、普通にカッコイイ青年って言われてるから変な心配はしなくていいんだけど」


 そんな特定の層を狙い撃ちするかのようなマニアックな伝承ではない。残念ながら。


「リオネーラさん、逆かもしれません。カッコイイ青年にしか見えない凛々しい女性だったのかも」

「な、なるほど、その可能性も……?」

「いや少女じゃったと言うとるじゃろうが」


 残念ながらそういうヅカ的な伝承でもない。


「……ところでセンパイ、カッコイイ服装とかに興味ありません? いや決して今のセンパイがカッコよくないって意味ではないんですけどあくまで話の種として何か着てみたい服とかあればって話でですね」

「……まぁ、着てみたい服は色々ある。カッコイイのも面白そう」


 前も言ったがミサキはコスプレ願望を多少持っている。せっかく目の前にファンタジー世界が広がっているのだ、誰でも多少は形から入って演じてみたくもなろうというものだ。勿論エミュリトスの問いはミサキのそんな胸中を思い遣ってのものではなく純粋な私欲から来ているが。


「じゃ、じゃあ次の休日にでも服屋さん行きませんか! いや何ならわたしが服を作りましょうか! あぁでも裁縫はドワーフは専門外なんですよねぇ、でもセンパイの為ならッ!」

「……落ち着いて。服を買うお金も無いし、エミュリトスさんが裁縫を極めるにしても時間はかかるだろうし、次の休日は無理だと思う。約束はするけどもう少し待って欲しい」

「や、約束していただけるだけで充分です! ちゃんと待ちます! わん!」

「……犬?」


「……便乗して質問したあたしが言えたコトじゃないけど、どんどん話が逸れていくわねぇ……」


 そこの犬に至ってはもはや口封じの件も忘れているのではないだろうか。

 しかし意外にもその件について誰よりもハッキリさせておきたがっているのは口封じされる側のマルレラだったようだ。


「その、なんじゃ、とりあえず儂が言いたいのはじゃな、そういう訳でドラゴニュートは――いや、()()スキル持ちに命を救われたと思っておる。時は流れ、当時のスキル持ちはもうこの世にはおらんじゃろうがその恩は忘れておらん。スキル持ちの不利益になるような事は決してせぬ。忘れろと言うなら今すぐに忘れてみせましょう」


 プライドの高いドラゴニュート全員がそう認めているとは限らない。しかし、一族のそういう面に振り回されてきた若輩者(マルレラ)は確かに恩義を感じているのだ、と、彼女はそう言う。先程までの平身低頭っぷりもそう考えると腑に落ちた。

 ここまでで窺えた彼女の人柄(竜柄?)を鑑みれば、その言葉はミサキ達から見ても信じるに値すると言えよう。二人は警戒を解き、ミサキが「お願い」とだけ告げる事で今回の件は円満な解決を見るのであった。今度こそ。



ようするにこの世界でスキルと呼ばれるものは他で言うユニークスキルとかオリジナルスキルとかギフトとかそんな唯一ぬにのモノという扱いなのは確定的に明らか

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