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やられたらやり返すが倍返しまではいかない

前回のあらすじ:ドラゴニュート一族「魔人は見敵必殺」


 全ての弁解を終え、少女は静かに頷いた。怖くない訳ではないが覚悟だけは出来ている、後は結果を受け入れるだけだ――といった空気で。


 だが当の少女以外の三人は知っている。彼女は言い訳しようと思えばもっと言い訳を並べ立てる事も出来たのだと。

 当時の彼女が酔っていた事は誰の目にも明らかだ。更に彼女が近くに居た二人を護ろうと動いたのもミサキは見ていたし、護られた二人も当然気付いてはいる。親友を攻撃された怒りが先に来ていた時はそこから目を逸らしていたが、事情を知り若干頭の冷えた今なら認め、受け入れられる筈だ。

 よって少女はそれらを言い訳に使おうと思えば使えた訳で。まぁ酒を理由に言い訳するのはとてつもなくダサいので別としても、二人を護ろうと動いた事は主張してもいい筈だ。なのに彼女はそれをしなかった。恐らくは自身の勘違いから来た無駄な行動だったという理由から。

 最低限しか言い訳をしない、そのなんというか下手すれば漢気すら感じるような少女の姿勢を目の当たりにして、ミサキ以外の二人は少し困惑しながらもようやく敵意を全て引っ込めた。

 ミサキもそれを感じ取り(コミュ力無しにしては頑張った)、話を振る。


「……命まで取る必要はないと私は思う。二人はどう?」

「ん、まぁ、そうね……」

「……センパイがそれで良いなら……」


 反省の意を示しながらも潔く差し出された命を躊躇無く奪えるほど彼女達はスレてはいない。結果的にミサキと同じ結論に親友二人も至り、落とし所に一歩近づいたと言えよう。っていうか半分達成された。


「……ありがとう、二人とも」

「いいわよ。あたしもちょっと頭に血が上ってたわ」

「そうですね、わたしもセンパイの意志を最優先とするべきでした」


「……じゃあ、後はあの店員さんに何をさせれば今回の件が丸く収まるかだけど」

「あ、良かった、そこはキッチリするのね。このまま終わりそうな空気になってたけど」


 死にかけたのだから当然である。表情に出ていないだけでミサキだって結構怖かったのだから、そこはキッチリしないと気が済まない。

 ついでに言うならこういうのは形だけでも相手に償わせておかないと相手が負い目を感じ続けてしまうものだ。相手が心から反省している良い人であればあるほどに。

 ただ、償わせようにも何をもって償いとさせるべきなのかが難しい。先程の説明を聞く限りだと通報してギルドに丸投げすれば正しく裁いてくれるのだろうが、今のミサキ達に必要なのは正しい裁きではなく都合の良い落とし所だ。よって自分達でケリをつけなければならない。


「……リオネーラ、一応聞いておくけど、ギルドへの通報は義務?」

「え? いや、別にそんな事はないわ。手に負えない、あるいは規模の大きいトラブルならギルドが受け持つけど、当人達の間で解決できるならそれに越した事はないって言われてる」

「……良かった。……それともう一つ」

「何?」

「……今更だけど、私が「店員さん」と呼んでるあの子、もしかして店主?」

「………」

「………」


 今更というか、何故このタイミングでそんな事を気にし始めるのだろうかこの子は。相変わらず変な所でマイペースである。


 しかしその推測自体は良い線行っていると言えた。ゴタゴタしすぎていてそれどころではなかったせいで誰の頭の中にも店主という発想が浮かんでこなかったが、店内に居た唯一の存在である事、ドラゴニュートという長寿っぽい種族である事、そして店名から考えるとその可能性は割とあるからだ。

 リオネーラと無言で見つめ合い、その後エミュリトスとも見つめ合い、三人で同時に少女の方を向けば彼女は申し訳なさそうに頷く。


「……一応、そうなります」

「……店員扱いしてごめんなさい」

「い、いえ、そんなお気になさらず……どうせ儂一人でやっている店です、店主も店員も大差ありませぬ」

「……店長さん、失礼ついでにもう一つ。ここは結局何屋なの?」

「鍛冶屋でございます。武具の販売に加え、打ち直しや鉱石からの加工も承っております」

「……わかった。ありがとう」


 かねてからの疑問だった「ここは何屋なのか」も判明し、ミサキは少しスッキリした。


「……で、どうやって丸く収めるかだけど」

「あ、あぁうん、そうね、そういう話だったわね……」


 変な所でマイペースで、いまいちテンションが読めず無表情。故に時に周囲を振り回す。そんなミサキだが――


「……二人は何を望むの? 何を要求すれば満足する?」


 今回は彼女なりに真剣に問いかけた。落とし所の為の三つ目。最後のパーツを。

 彼女達の為の落とし所に必要なモノは、結局彼女達自身の中にしかない。そう考えて。


 ……ただ、アホな問いからマジメな問いへの落差が酷すぎて二人はちょっと置いてけぼりだったが。ちょっとだけ。


「……え? 急に何?」

「え、ええと、わたし達は別に何でも……センパイが決めた通りに従いますよ? 口を挟むつもりはありません」

「そうよ、被害者はミサキなんだから。ミサキが望む物を要求すればいいのよ」


 二人はそう言うが、ミサキは気付いている。恐らく自分の要求を通すだけでは二人の気持ちは完全には晴れないのではないかと。自分と二人の怒りの温度差を見る限り。


 ミサキの与える報いは自身の受けた被害相応のものに留まる。相手が悪人ではないとわかった今は尚更そう留めないといけない。それがミサキのポリシーなのだから。

 しかし恐らくそれは二人の考えている要求の下を行く。それでも二人はああ言った手前、口を挟みはしないのだろう。黙って不満を胸の内に溜め込んでしまうのだろう。それがミサキは嫌だった。

 ならば先に二人の要求を聞いてみて、それを通すしかない。店長の少女の負担はミサキの要求を呑んだ時と比べて大きくなるかもしれないが、二人がそれが適切だと判断したのならミサキに異論は無い。自身にポリシーがあるのと同様に二人にも判断基準がある筈であり、それを押し付け合う事はあってはならないからだ。

 今なら二人も冷静に自身の判断基準と照らし合わせて考えてくれる。ミサキはそう信じていた。なら二人の要求を先に通し、その後に自分のポリシーと照らし合わせて自分の望みまで通すかどうかを判断する。それでいい。


「……望みは無い事もないけど、それ以上に私は二人の望みを優先する。そう決めてる」


 その為に長々と落とし所を探してきたのだから。


「……二人が私を心配し、怒ってくれた事が嬉しかった。いい友達を持ったと思った。だからこそ友達にはその感情を全部ここに置いていって欲しい。後腐れなく終わらせたい」


 その感情に報いなくては、友達だと言い切れないから。


「だから、二人が望みを叶えて。それが私の望み」




 ミサキのその真剣な言葉を受けた二人はしばらく無言で考え込んでいたが……先に動いたのはエミュリトスだった。

 言葉を発するよりも先に動いた。ミサキの胸の中へと飛び込むように。


「……本当は……」

「?」

「あんな風に言いましたけど本当は、センパイの命に見合うだけのモノをキッチリ要求すべきだと思ってました。でも……なんか、もう、いいです」

「……どうして?」

「……もうこれ以上怒れないからですよ。ここに来る前にも同じ事言ったじゃないですか、街中で」


 街の人々がミサキを遠巻きに見て恐れていた時の一件である。あの時も怒るエミュリトスにミサキが礼を言い、エミュリトスは怒りを引っ込めた。……こう言うとミサキが計算して口を開いたみたいだが当然そんな事は無く、彼女は単に礼を言いたいから言っただけに過ぎない。


「あの時以上に怒っていた筈なのに、あの時以上にもう怒れません。なんというか……こうやってセンパイがわたしの自分勝手な怒りの感情も大切にしてくれるから、もうそれだけでいいかなって思えて……」

「……自分勝手なんかじゃない。エミュリトスさんは私の為に怒ってくれた。ならそれに私が応えるのは当然」

「……本当に……もう、充分です、センパイの言葉だけで。わたしは充分満たされました。後はセンパイが納得できるように、満足できるように好きにしてください」

「……わかった。ありがとう」


 実はミサキにああまで言ってもらってもエミュリトスにはやはり自分勝手な怒りにしか思えていなかったのだが、しかしだからこそミサキの言葉に満たされる。自分勝手な感情からの行動で相手が喜んでくれていたという事実は、相手の事を想って行動した時とはまた違うベクトルで嬉しい事だからだ。

 よってエミュリトスはあっさり陥落した。そして同様に自分勝手な感情で怒ってしまったと考えているもう一人の親友もまた同様に満たされている……のだが、こちらはエミュリトスほどチョロくはない。面倒見が良くてしっかりしているので。


「……ミサキ、誤解されたくないから先に言っておくけど、あたしも本音はエミュリトスと同じよ。もうあたし達の事は気にしないで好きに要求すればいいと思ってる」

「うん。ありがとう」

「……でも、それでも、良ければ何をするかだけは教えて欲しい。聞かせて欲しい、何を要求するのか。ミサキを疑う訳じゃないけど、こういうのは上手い具合に相手に償わせないと遺恨が残るわ」

「わかってる。元より相談はするつもり」


 同じような事はミサキも考えていたので、あえて忠告してくれたリオネーラを不安にさせないよう即座に頷く。この世界の人から見てもここはやはり相手の為にも何か要求しておくべき場面らしい。

 本気で二人の望みを優先するつもりで問いかけたミサキにとって二人が具体的な答えをくれなかったのは想定外ではあったが、それでも心から自分の意思を尊重してくれた事は理解している。自分のした事がその場で返ってきてしまっただけだ、混乱もしないし拒みもしない。

 つまり、今から何を言っても二人は受け入れてくれる。先程までの自分がそのつもりだったように。そう確信し、ミサキは既に決めていた彼女なりの望み――要求について二人に相談する。小声で。


「……死にかけてもらおうと思う」


 物騒な相談である。



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