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ココロバキバキ

前回のあらすじ:Zランクこわちか


 一つ目のパーツは結果的に空振りに終わった。ならば二つ目だ。落とし所の為の二つ目のパーツ。こちらは落とし所を『作る』というよりは落とし所に『向かわせる』タイプではあるが間違いなく役に立つ。少女がちゃんと語ってくれるなら、だが。


「……ねえ、店員さん」

「は、はいッ! 何でしょうかッ! 何でもしますッ!」

「……私を攻撃した理由を教えて。恐れられるのには慣れているけど、ここまで敵視されたのは初めてだった。何故?」


 そこに何か相応の理由があるのは確実なのだ。あとはそれが彼女に同情出来るような理由でありさえすれば、未だ敵意マシマシ殺意ビンビンの親友二人もそれらをダブルで引っ込めてくれるかもしれない。


「……儂に言い訳の機会を与えてくださるというのですか」

「そう受け取ってもらって構わない。だけど(隣の二人が)許すとは限らない。全て理由次第。そして……嘘と隠し事は許さない」

「っ……!」


 こんな事を言っているがぶっちゃけミサキ本人はまだ異世界人の嘘や隠し事を見抜ける自信は無い。でも隣の二人が見抜いてしまえば事態が悪化するのは目に見えているので念の為言っておいた。あくまで念の為。

 少女もこの状況で嘘を並べ立てるつもりなど毛頭無かったのだが、しかしそれでも実は全てを話すつもりまでは無かった。命と引き換えにしても守らなければならない『秘密』があったのだ。なのにミサキが心を読んだかのようなタイミングで『脅し(念の為)』をかけてきたせいで出鼻を挫かれ、あっさり心が折れ、全てを話す覚悟を決めてしまった。

 弱い筈のミサキからの『圧』を(勝手に)感じ取った少女はたっぷり時間をかけて深呼吸して心 (すでにバキバキ)を落ち着かせ、語り出す。


「……儂はドラゴニュートなのですが、魔人とドラゴニュートには深き因縁があるのです。一族総出で秘してきたので他種族の方は知らぬと思いますが」


 ミサキが目線を向けると親友二人が頷いた。少女の言う通り因縁なんて聞いた事も無いらしい。

 少女に目線を戻し、続きを促す。


「実は儂らドラゴニュートは元はドラゴンなのです。ドラゴンの中でも一部の、魔人に挑んで敗北し人の身に堕ちる呪いを受けし者達、それがドラゴニュート一族です」

「呪い……?」

「はい。その呪いは魔人を倒し封印しても解けず、恐らくは彼奴を滅さねば解ける事は無い。よってドラゴニュートは一族皆で誓いました。いつの日か必ず奴を滅ぼすと。遠い昔にそう誓ったのです」

「……それで私に攻撃してきたと」

「魔人は見つけ次第討つ、それが一族の定めです。呪いを解く為にも、これ以上儂らのような被害者を増やさぬ為にも、そしてリベンジを果たす為にも、儂らが討たねばならぬのです」

「………」


 とりあえず攻撃してきた理由はわかった。その因縁はなかなか重い物だったがかえって好都合と言える。実際、親友二人から敵意が引っ込みつつあるのがミサキにもわかる程だ。

 あとなんか話のついでに魔人が一度倒され封印されている事まで明らかになってしまったがこれはミサキ以外は誰でも知っている。少女の言う通り遠い昔の出来事ではあるものの、伝承の中にしっかり残っているからだ。封印という半端な状態だからこそミサキが蘇った魔人なのではないかと皆に恐れられている面もあるし、少女もこうして早とちりしたという訳だ。

 ともかくそんな訳で少女の話は説得力があり、尚且つ充分に同情出来る内容でもあった。少なくとも親友二人には効果は抜群。しかし、ミサキにはひとつだけ腑に落ちない点があった。よりによってミサキに。


「……それは、ドラゴニュートが自らの手で魔人を滅ぼさないと解けない呪いなの?」

「……はい? あっ、いえ、術者がこの世から消え去りさえすれば解けると思われます。呪いとはそういうものです故」

「それなら――」

「わかっております! 決して隠そうとしていた訳ではございません! 儂の口から説明させてください! どうかご慈悲を! どうか!」


 見ていて心が痛むくらいに少女の心はバキバキである。ミサキとしてもこれは単なる疑問であり、隠し事として責めるつもりで聞いた訳ではないのでとっても反応に困る。


「………続けて」

「ありがとうございます! 貴女様の疑問は恐らく「魔人を滅ぼしさえすれば呪いが解けるのであれば何故他種族と協力しないのか?」という点でしょう。それはごもっともです」


 その通り、どう考えてもそれが一番効率的なのだ。効率という考え方は現代人(異世界人)特有のものだとしても、一度負けた相手に自分達だけで挑もうというのは誰が見ても無謀が過ぎる。ドラゴニュート達にもそれがわからない筈はない。


「ですが、ドラゴニュートも元ドラゴンというだけあってプライドの高い種族なのです。同族以外との協力など考えません。しないとは言いませんがドラゴニュート側から歩み寄ることは無いでしょう。ましてや個の力に劣る者との共闘など絶対に」

「あぁ……なるほど」

「見ての通り儂は若輩者なのであまり理解出来ませんが、どうやらそういうものらしいです。ドラゴニュートが元ドラゴンである事も一族総出で隠すくらいですからな。あぁそうだ、共闘するとそのあたりがバレてしまう可能性がある事も一因でしょう。誰にも知られずドラゴンの姿に戻りたいし、バレるくらいならこの姿のまま死ぬ。そういう考え方なのです、ドラゴニュート一族は」


 要するにドラゴニュートは典型的すぎてコテコテなほどに高慢で自分大好きな一族であり、故に他種族と協力どころか交流すらせず、敗北の歴史までも隠そうとしたらしい。謎の多い一族な訳である。

 あとどうやらドラゴニュートの外見はドラゴンとしての年齢と比例しているようだ。「見ての通り」と言ったという事はそういう事だろう。


(……っていうか「誰にも知られず」って言ってたけど……あれ、この話は聞かなかった事にした方がいい所謂『ヤバい話』では……?)


 隠さず話せと言った本人が結構ビビっているのは面白い光景だが、実際ここまでの話はドラゴニュート一族の秘中の秘であり、喋った少女も聞いたミサキ達三人もまとめて一族総出で消されかねない内容である。ちなみに少女は最初は元ドラゴンである事を隠して説明するつもりだった。当然そういう掟があったのだ、破れば同族といえど処刑される一族の掟が。

 これは絶対に他言しない方がいいし、これ以上掘り下げる事もしない方がいい。正確に危険を察知したミサキは軌道修正を図る。後で二人(特にエミュリトス)にも釘を刺しておく事を胸に刻みながら。


「……話を戻す。要するにドラゴニュートには魔人との因縁があり、そこから生まれた一族の掟があり、貴女はそれに従い私を攻撃した、と」

「……はい。儂には一族のプライドはあまり理解出来ませぬが、魔人は討たねばならぬ存在なのは確か。……それでも結論を急ぎ、相手をよく確認しなかったのは儂の落ち度。どう詫びたところで許される事ではないのは理解しております」

「……言い訳は終わり?」

「はい。後は全てそちらの決定に従うまでです」


 全て吐き出してスッキリしたのか、ミサキの相変わらず冷たく取られかねないストレートな物言いにも怯む事無く少女は頷き、肯定の意を示した。



ブクマがまたもや節目を迎えました。全て読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございます。

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