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今のはファイヤーボールではない…ブレスだ…




「――ま、とりあえず起こしてみれば? っていうか起こさない事には始まらないでしょ。気になるなら種族もその時に聞けばいいだけだし」


「……正論だ」

「正論ですね」


 すぐに合流したリオネーラがすぐに話を進める。まぁ何の為に来たのかを考えれば当然だ。

 結局店内にはこの眠っている少女以外に人の姿は無く、更にこの子は見た目通りの年齢ではない種族だと思われる。つまりこの子はれっきとした店員の可能性が高く、起こさない事にはクエストが進まないのだ。もし店員じゃなかった場合は……それはそれで問題なので結局はリオネーラの言う通り起こさないと何も始まらないのだが。

 ちなみにそんなリオネーラの合流が遅くなった理由についてミサキが聞いてみたところ「散らかりすぎてて気を配る場所が多くて……」と疲れた顔で言われた。とりあえず労っておいた。


「……さて――」


 まぁそういう訳だからひとまず起こしてみようか――とミサキはカウンターの中の少女に近づこうとしたが、思い直して足を止める。


「……センパイ?」

「思ったんだけど……私が起こすと顔を見られた瞬間に面倒な事になりそうな気がする」


「「……あー……確かに」」


 納得されるのも少し悲しいものがあるが、ここは警戒しておいて間違いはない筈だ。

 気持ちよく眠っている所を起こされて、目を開くとそこには伝承に残る恐ろしい魔人(の特徴を持つ顔)が――! なんて状況になったら驚き、怯え、混乱する人は多いだろう。既に起きている人にさえ怖がられるのだから。

 まぁ一応クエスト内容は『脅してこい』ではあるのだが、驚かすのはやっぱり違うと思うので。


 ……といった感じに今回のミサキはちゃんと過去の経験から学習し、先を読み、そして的確な判断を下した。この場は二人に任せるべき、という判断を。


「という訳で……ごめん、任せていい?」

「謝る事はないわ、正しい判断だと思うわよ」

「そーですよ、センパイに出来ない事はわたし達がやります! 役に立ってみせますよー」

「……ありがとう、二人とも」


 いい友人を持った事に心から感謝し、ミサキは二人と入れ替わりつつ状況が窺える程度に距離を取る。が、


「もっと下がった方がいいんじゃない?」

「そうですね、起きてすぐセンパイの姿が目に入ったら同じ事ですし」

「……確かに」


 ダブルダメ出しを受け、結局入り口の扉の脇まで後退した。その姿はもはや戦力外通告を受けた窓際族にしか見えない。まぁ窓際でも入り口脇でも話し声さえ聞こえれば状況は掴めるだろう。きっと。


「おーい、起きなさーい」

「店員さん(仮)、朝ですよー」


「………zzZ」


「……声だけじゃ起きないわね。酒樽抱えてるし、今気づいたけど微かにお酒の匂いもするし、酔い潰れてるのかしら」

「恐らくは。顔に水でもかけますか?」

「え。いや、ひとまず普通に揺さぶって起こしてみればいいじゃない……なんでいきなりそんな乱暴なのよ」

「あー、ドワーフの男達は酒好きばかりなもので……手っ取り早く目を覚ます為に自分から水を被ったりしてたんですよ、しょっちゅう」

「そ、そう、ワイルドね……。でも流石に見知らぬ他人にいきなり水をかけるわけにもいかないから今回は普通に揺すって起こすわよ」

「しょうがないですねぇ。ゆっさゆっさー、っと」


「……ん、んあぁ……?」


「あ、起きましたよ」

「そうね……えーっと、おはようございます。あなたはこのお店の店主、あるいは店員ですか?」


「んー……そうじゃよぉー」


「「……じゃよ??」」


 あの見た目で老人言葉とは相当お年を召されているのだろうか。ミサキは好奇心が刺激されるのを感じたがちゃんと踏み止まり思い留まり、その場でジッと待ち続ける。無言で。


「……あの、酔ってますか?」

「酔っとらんよぉー」

「………意識はハッキリしてますか?」

「しとるよぉー」

「…………ちょっと驚くような変なものを見るかもしれませんが、慌てないでくださいね?」

「慌てんよぉー、この儂を慌てさせたら大したもんじゃよー」


 ミサキが『変なもの』扱いされている件についてはともかく、酔っていると思われていた少女だったが一応受け答えは出来ている。……若干不安は残るが、一応は。

 これ以上言葉で何を言った所で同じだろうし、一応とはいえ受け答えが出来ている以上顔に水をぶっかける訳にもいかない。相手を信じて話を進めるしかないだろう。

 不安は残るものの、三度も確認を取ったリオネーラの努力は認められるべきである。変なもの(ミサキ)についての忠告もちゃんとしているし。満点とまではいかずとも充分認められていい努力の筈だ。


 しかし――残念な事に、結論から言えばその努力は無駄に終わった。


「あたし達はここの店主に話があって来たのですが……あの、立てますか? 手を貸しますね」

「ういー、助かるわい――」


 リオネーラに片手を引かれ身体を起こした少女は、カウンターにも手を置きつつしっかりと立ち上がり……正面を向いた。入り口の方を見た。ミサキの方を見た。バッチリ目が合った。


「ッ、魔人!?」


(……結局こうなるのか……)


 リオネーラが忠告をして、ミサキ本人もあまり刺激しないよう距離を取ったのにも関わらず結局いつも通りの反応である。落胆半分、諦め半分でミサキは口を開こうとしたのだが――



 ――ここから先は『いつも通り』とは少し違った。



「まさか封印がもう解けたというのか!? おのれ、今度は何を企んでいるのか知らぬが、お主の好きにはさせんぞ!」


(……「封印」? 「今度は」? この人……)


 やたらライブ感があるというか、いかにも事情に詳しそうな語り口である。伝承にある魔人を恐れている人達とは違い、この少女が敵視するのにはなにやら相応の理由がありそう、とでも言おうか。


 そんな風にミサキが興味を惹かれている間に、少女は素早く今の状況を把握した。先程まで酔い潰れて寝ていたとは思えぬほど瞬時に把握した。

 遠く、入り口の近くに立つ魔人。カウンターの側に立つ自分。そしてその間に挟まれている形となる二人の可愛らしい女の子。これは良くない配置だ、と酔いの残る頭で少女は咄嗟に判断する。そして純粋な善意で――この上なく澄み切った純粋な善意で――二人の少女を護ろうとその手を掴み、自身の背後へと引きずり倒し、その背で庇った。

 二人の『無関係な』女の子を護ろうと、彼女は善意で動いたのだ。それは正しい行いだと言える。……残念ながら状況を正しく把握は出来ていなかったが。


 もしも彼女が酔っていなかったら。

 もしもミサキがもう少し二人の近くに居たなら。

 もしも彼女が『相応の理由』を抱えておらず、リオネーラの忠告を思い出せていたら。


 どれか一つでも当てはまれば何か変わっていたのかもしれないが、上手い具合にトリプル役満が成立してしまっている現状でそんな事を言っても後の祭りである。

 つまりまぁ、この後の出来事も必然というか、不幸な事故というか、仕方の無い事というか、そんな感じのアレだという事だ。


「……あの、落ち着いて話を――」


 少女の抱える理由に興味を抱き始めていたミサキだったが、肝心の少女が結構ヤバめの敵意を向けている事にも気付いている。よって対話を試みた――のだが。


「――喰らえいッ!!!」


 そんなミサキの目に映ったのは話を聞いてくれそうな少女の姿なんかではなく、口から強そうな火球を吐き出す少女の姿。


(……あー、これは流石に当たったら死ぬかな)


 なんというか前回顔面で受けたファイヤーボールとは密度が違うというか、まぁ前回のはリオネーラが丁寧に加減したからそりゃ弱くて当たり前なのだが、とにかくこの火球は絶対に痛いでは済まないヤツにしか見えない。

 流石のミサキも勘違いで死にたくはないので反射的に『スキル』で受け流した。というか受け流してしまった。他に手が無かったとはいえ、何も考えず受け流してしまった。


 ……結果、受け流された火球によって店の入り口が派手に吹っ飛んだ。


評価点を入れてくれる人の数が増えてきました、ありがとうございます。

……「評価点を入れてくれる人」ってなんかもっと上手い言い方がある気もしますが。

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