え、リザードガールって言わないの?
短めデス
※前回のあらすじ:ミサキ は おんなのこ を みつけた!
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カウンターの中で丸くなって眠るその女の子の体格は小さく、ちょっと体の一部に特徴はあるが幼く見える外見をしてはいる。
ただ、何故か酒樽のようなものを抱えたまま眠っているが。
「センパーイ、こっちには何も無いみたいです。……っていうかこのお店、なんか少しお酒の匂いがしません?」
丁度エミュリトスがトイレ(の捜索)から帰還した。この鉄や錆の匂いだらけの店内で僅かなアルコール臭を嗅ぎ分けるという地味なチート鼻っぷりを発揮しながら。
「……エミュリトスさん」
「は、はい? どうかしました?」
「……可愛らしい子が寝てる。ここで」
「なぬっ!? その子とわたしはどっちが可愛いですか!?」
「え…………まぁ、エミュリトスさん、かな」
「ならいいです」
(何が……?)
ミサキの答えが違ったらどうするつもりだったのだろうか。一応ミサキはクソマジメに顔を見比べた後、本心からそう答えはしたのだが。
ともあれ、ミサキの答えに満足したらしきエミュリトスも隣に駆け寄ってからカウンターの中を覗き込んだ。背の低さ故に背伸びして覗き込む姿は確かに可愛くはある。姿は。
「んん~~~っ……あれ、この子、尻尾とツノがありますね、竜みたいな。珍しい……」
そう、少女の体の一部にある特徴とは、小さなツノと爬虫類のような尻尾なのだ。
どう見ても人間族ではない。いやまぁ一応仮装という可能性も無い事はないのだがまず無いだろう。ひとまずそう仮定してミサキは話を進める。
「……こんなツノと尻尾の生えている種族といえば何?」
「そうですね、見た目がもっとトカゲならリザードマンなんですが、人間そっくりな見た目なのでドラゴニュートか人化したドラゴンのどちらかではないかと」
「……どう違うの?」
前世には竜王伝承などもあったし、ドラゴニュートという名前もいくつかの創作物で耳にはしてきたのだが、ミサキの知る限りではそれらの特徴や定義は割とバラバラだった筈だ。
ドラゴンの人化とやらについても名前からして人の形をとる魔法か何かなのだろうと想像はつくが、それだけである。ドラゴニュートと何が違うのか、そしてそれらの区別が難しそうな口ぶりな理由も気になるのでもう少し詳しい話を聞いておきたい。
そんな風に考えたミサキの口下手な追撃を受けたエミュリトスだったが、彼女はとても嬉しそうに微笑んでいた。ミサキを敬愛していると豪語する彼女はそんな敬愛する先輩の役に立てるなら何であろうと幸せなのだ。
「ドラゴニュートは一応獣人の一種とされていて、人の姿に竜のようなツノと尻尾を持っています。ドラゴンの場合は人化っていう竜族秘伝の魔法で人に化けているので、魔法の上手いドラゴンなら完全に人と同じ見た目になれますね。人化に慣れてない場合やあえて竜種の特徴を残そうとした場合はドラゴニュートと似たような見た目になるそうです」
「……なるほど、だから「どちらか」だと」
「はい。一応、不完全なまま街に来たり、あえて不完全な人化を選ぶドラゴンっていうのもそんなにいないとわたしは思うんですが……」
強大な力を持つドラゴンがわざわざ人化して人里に紛れ込むというのならそれには相当な理由がある筈であり、相当な理由があるのなら完璧な人化をして自然に人間に紛れ込む方が理に適っている。
まぁ、ドラゴンがどのくらい人間達に恐れられているのかにもよるが……現地人のエミュリトスの言う事だ、そこまで的外れな推測でもないだろう。
「でもドラゴニュートも謎の多い種族なんですよ、もしかしたらドラゴン以上に。そもそも姿を見かけることすら稀です。たまたま余所のドワーフが山奥で彼らを見かけたらしいんですけど、殺気を飛ばすだけ飛ばしてきてすぐに姿を消したとか。少なくとも排他的な一族なのは確かなようで、そんなドラゴニュートが街でお店をやっているというのも考えにくくて。だからどちらかまではちょっと……」
「……わかった。ありがとう」
二つの種族についてしっかり理解でき、わからない事が多いことがわかり、その上伝聞ではあるもののドワーフ視点の話まで聞けてミサキはかなり満足したのでその場で礼を告げた。……告げたのだが。礼を告げただけなのだが。
「えっ!? 今のわたしの説明だけでセンパイには真実がわかったんですか!? さすがセンパイです!」
「……え?」
「……え?」
「……???」
「……???」
二人で同じ方向に首を傾げあって遊んでみたが、まぁ、今回のは少し冷静に考えればわかる勘違いである。「わからない」という話の直後に「わかった」と返してしまったせいで起きただけの。
「……「わかった」っていうのは理解したって意味で、謎が解けたって意味じゃない」
「……でしたか」
「でした」
「はい……」
「………」
「………」
気まずい。
ちなみにこうして長々と喋っているにもかかわらず寝ている少女は一向に起きないしリオネーラも戻ってこない。
「……えっと、リオネーラさんも呼んできた方が……いい、ですよね?」
「……うん。じゃあ私が呼んで――」
「あ、いえ、わたしが呼びに行きます! 行かせてください! センパイのお役に立たせてください!」
「……「役に」って……いつも充分助けられてる――」
「もっとお役に立ちたいんです! センパイはここでお待ちください、ね? では行ってきますっ!」
ね? とか言っておきながら返事も待たず話も聞かずエミュリトスは飛び出していった。
見ようによっては気まずい空気を嫌って逃げたようにも見えなくはないが、実際はやたら献身的な言い方をしていた事からわかるように彼女は先の失敗を挽回する機会を求めている。気まずい空気を作ってしまった事に対する償いのつもりなのだ。それくらいはミサキにもわかる。
(……エミュリトスさんだけのせいじゃないのに。私はどうすればよかったんだろう……)
とりあえず誤解を招かない程度に言葉数を増やしてみるというのはどうだろうか。




