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グーグ●アースより、ずっときれい!




(……改めて、ここが日本じゃないんだと実感するな……)


 街の景観を眺めるミサキは、ただただ圧倒されていた。


 ……あれから坂を下り、そのまま道なりに歩くだけで街のメインストリートにはあっさり合流出来た。ミサキも渡された地図を事前にチラ見していたのでその事自体は知っていたのだが、ただ真上から見下ろしているだけの地図で二次元的に見る街並みと自身の目で三次元的に見る街並みでは文字通り次元が違う。

 石畳の道にレンガ模様の背の高い街並み。そんな風にほどよく色合いの統一された街を歩く、鎧を着て剣を背負った人達。町民や商人のような非戦闘員の人達もやはり纏う雰囲気が日本人とは違ってどこか鋭く、ここは日本ではなく西洋風の世界――異世界なのだと嫌でも教えてくれる。別にミサキが嫌と思っている訳ではないが。むしろ……


(吹き抜ける風に石の香りが混ざっている気さえする……前世とは空気からしてまるで違う……すごい……)


 むしろこんな感じでテンションが上がりまくっているくらいである。

 ちなみにこうして前世と比較こそしてはいるものの日本の風景とどちらが良いかという話ではない。どちらにもそれぞれ良さがある。その上で、一度は訪れてこの目で見てみたかった西洋の光景――に近い未知の世界の景色――にテンションをグイグイ引き上げられ、好奇心を掻き立てられているだけだ。


 とまぁ、ここだけ聞くと微笑ましい光景のようだが当然ミサキの表情には表れていない。しかしそれでも互いに理解が深まり好感度も上がってきつつある親友二人はそんなミサキの横顔を見て心中を察し……かけた。ギリギリ確証が持てず悩んでいた所であり、もう少し時間があれば察せていた、という所まで来ていた。

 結局察しきれていないとはいえ、異世界人相手に4日や5日でここまで来るのは並大抵の事ではない。リオネーラのコミュ力とエミュリトスの愛慕の念が存分に発揮された結果と言える。足りなかったのは既に言った通り、時間だけ。


「……行こうか、二人とも」


 景色に好奇心を掻き立てられ、テンションアゲアゲだった筈のミサキが真っ先にそう口にしてこの時間を終わらせた。

 景色に目を奪われていた彼女だったが、それでも横顔を眺めて悩んでいた二人よりは先に気づけたのだ。何故なら『その事』は彼女にとって初めから覚悟の上だったのだから。


「え? ……あぁ、そうね……早く移動しましょうか」


 ミサキを遠巻きに探り、訝しみ、恐れるような周囲の視線に。チラチラと探る居心地の悪い視線に。


「………」


 覚悟の上だったミサキ本人にとってはその視線はそこまでのものではないのだが、親友二人がその巻き添えを食うのはやはり嫌なのでさっさと移動し始める。

 視線に対し面白くない気持ちが無いわけがないリオネーラも、ミサキの言葉に同意した以上は大人しく彼女に続く事しか出来ない。まぁこの場合はそれでいいのだ、ミサキに関する不平や不服は放っておいても大体残った一人が口にしてくれるのだから。


「……まったく、何も知らないくせにコソコソヒソヒソと……人を見た目で判断して……」


 その残った一人は時折過激な言い方をしたり、自分を棚に上げた言い方をしたりしてしまうのが玉に瑕なのだが。ともあれ、ブツブツと愚痴を言いながらもちゃんとついて来てくれている事に感謝しつつミサキは彼女を宥める。


「……むしろ何も知らないからこそだと思う。通報されてないだけ良しとしよう、エミュリトスさん」

「むぅ……センパイがそう言うなら……」

「あと、怒ってくれてありがとう」

「……そう言われちゃこれ以上怒れないじゃないですか」


 二人の言い回しが少しだけ面白く聞こえて、リオネーラは小さく笑みをこぼす。先程まで抱いていた不快な気持ちもそれだけでどこかへ飛んでいってしまった。いつもの調子を取り戻した彼女は、いつも通りにコミュ力を発揮してそこから会話を広げていく。


「通報されてないのは制服のおかげだと思うわ。貴族が良い服を着てるのと同じく、あたし達もこの制服で立場が多少保証されてるのよ。あの学院の生徒だ、ってね」

「……確かに。私もそう思う」


 制服は所属を示す物でもある。その事に関しては地球の現代社会で生きてきたミサキも充分詳しいと言え、彼女は即座に頷いた。


(でもそれなら学院内でももう少し普通の扱いをしてくれても――いや、逆か。学院内ではむしろ『内部に入り込んだ異物』と見られるのか)


 近づく事もそうそう無いであろう部外者の視点と、既に同じ組織に属してしまっている内部からの視点が違うのは当然だ。っていうか実は今も距離自体はだいぶ取られている。通行人は常に『遠巻きに』ミサキを見ているのだから。

 そして実際通報を免れているのは彼女達の推測通り制服のおかげである。休日だというのに三人とも制服姿だったのが功を奏したのだ。特に面倒見のいいリオネーラは何が起こってもいいようにあえて身分を証明できる制服を選んで着て来ていたりする。


「もしかしてミサキもこれを見越して制服着てきたの? やるじゃない」

「…………」

「……? ミサキ?」

「…………ごめん、他に服が無かっただけ……」

「……あー……そういえばジャージしか買ってなかったっけ……」


 初日に教頭から貸し与えられたお金で最低限の生活用品は揃えたミサキだったが、その『最低限』の中には街に出て行く時などのイベント用のオシャレ着は含まれていない。

 前世では特別オシャレにこだわるような性格でも境遇でも無かったし、むしろ年齢的には制服に憧れを持つ側だ。誰もがそうだとは言わないがミサキはそうだった。そして実際に制服を気に入っており、よって最初から大抵のイベントは制服装備で済ませるつもりだったのだ。初期装備でどこまで行けるかはわからないが、借金のある今はまだ衣装に課金する時ではないという事である。


「ま、まーこの制服、見たところかなりお金かけて良い生地で作ってるみたいだし? 防御力の面でも信頼出来そうだから大抵の場面はこれを着てくれば間違いはないと思うわ、うん」

「……そうなんだ」


 初期装備、優秀らしい。無課金兵の強い味方だ。


(……でも、せっかく異世界に来たんだからそれらしい格好をしてみたくもある)


 魔法使い風のローブだとか、騎士風のガチガチのプレートアーマーだとか、今までフィクションの中にしかなかったものが目の前にあるのであればせっかくだから着てみたい。

 ミサキのそんな考えはいつも通り好奇心から来ているとも言えるが、いわゆる一種のコスプレ願望みたいなものが含まれているとも言える。オシャレ願望とコスプレ願望は似ているようで人によっては違うものなのだろう。


(まぁ、機会があれば、だけど)


 それでも彼女は優先順位は間違えない。オシャレもコスプレも借金を完済した後、だ。

 よって今は何よりもクエストを完遂しなくては。ミサキはそう再確認し、歩きながら地図を開――こうとしたがやっぱり立ち止まってから開いた。

 ながら歩きは危険。ダメ、ゼッタイ。





「……ところで、ミサキが制服だった理由はわかったけどエミュリトスは? 他の服持ってるんでしょ?」

「だってセンパイとお揃いじゃないですか。きゃっ」

「…………でも制服よ?」

「何の服かは関係ないです、お揃いという事実が大事なんです。ちなみにセンパイは寝る時はジャージな訳ですがわたしも今夜からジャージで寝るつもりです。帰ったら購買部で買うので覚えといてくださいね」

「なんであたしが……」




「っていうか休日は購買部開いてないんじゃ」

「……あ」


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