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課金要素の名前にプレミアムがつく率は異常

説明回のせいで長くなったので次回へ続きます



「それにしてもすごいニオイでしたねぇ……まだ鼻に残ってる気がしますよぅ……」


 それからまた少し歩き、もう校舎は目と鼻の先。そんな地点まで来た事で一連のイベントがようやく終わりに近づいている事を実感し、精神的に疲れた声でエミュリトスが呟く。

 山に住むドワーフは火山ガスを避ける為に臭いを頼りに行動する事も多く、鼻呼吸の癖がついていると言われている。よってそれなりに鼻も利き、故に今回は結構な精神的ダメージを受けていた。


「そうだな、魔物の吐き戻しがあんなに臭ぇとはな……」


 こちら(ボッツ)も予想外の事が続き精神的に疲弊している。まぁ言い出したのが彼自身だし教師という立場もあるしであまり表には出せないが。


「そもそもありゃァどこまでいった物を戻しやがったんだ? 口なのか胃なのか……そもそも魔物に内臓があんのか? 魔物の中身を見た奴はいねぇからそれさえもわからん。アレを持ち帰って調査出来れば良かったんだがな……ああも臭いと近寄れもしねぇ。後で誰かを向かわせるが、その頃にはほとんど地面に染み込んじまってるかもしれねぇな。ったく、教頭とゲイルにうだうだ言われるのが目に見えるようだぜ……」


 ……普通に愚痴全開だった。表には出せない筈なのだが。

 まぁその、なんだ、彼は最低限大人であり教師だが、その最低限の薄っぺらいメッキが剥がれる程度には精神的に参っているのだ。メッキが薄っぺらすぎるのもあるが相当参っているのも事実なのだ。

 若干可哀想に見えてきたのでリオネーラは率先してフォローしつつ話に乗ってあげようと口を開いた。良い子である。


「えーと……あたし達も証言しましょうか? 我々はベストを尽くしましたって。まさか風魔法で悪臭を吹き飛ばしながら持ち帰れとまでは言われないでしょう、流石に」

「被害が拡大してんじゃねえか怖ぇな。……だがゲイルの野郎なら言いそうだなァ、俺を嵌めてクビにするまたと無いチャンスだ」

「あ、あはは……根が深いんですね、先生達の仲の悪さは」

「まァな……腐れ縁だよ、嬉しくもなんともねぇ、な」


 どうやら深く語るつもりは無いようだ。リオネーラもそれを正確に察し、それ以上の事は聞かなかった。

 ちなみにそんなリオネーラは相変わらずミサキを背負っている。そろそろ誰かに目撃されそうでミサキとしては恥ずかしいのだが、前回の抗議はあっさり押し切られたので二度目の抗議をする気力はあまり無かったし、どうにもさっき尻から落としてしまった事をリオネーラがちょっとだけ気にしているようだったのでここは黙って甘えるべきだと判断した。

 あの場はミサキ達に非があるのは明らかなのだが、やはり物理的にダメージを与えてしまった事には負い目があったらしい。彼女は良い子なのである、薄っぺらいボッツとは対照的に。


 ――だが、この時のボッツは一味違った。


「しかしあれだ、そもそも俺は今回ベストを尽くしたとも言えん。お前が居なければその背中の奴が直撃を受けていたところだ、礼を言う。……同時にそんな俺を庇う証言をお前らにさせる訳にもいかん。こっちの事は気にせず帰れ」


(珍しくマトモな事とお礼を言っている!?)

「珍しくマトモな事とお礼を言っている!?」


 ミサキはちゃんと心の内に留めたのにエミュリトスは心の赴くままに失言した。なおリオネーラは良い子なのでそんな失礼な事は考え付きすらしておらず仲間外れである……嘘ですちょっとだけ考えましたほんのちょっとだけ。


「お前は俺を何だと思ってるんだ……魔人に毒されてきたんじゃないか?」

「えっそうなんですか!? やったぁ!」

「なんで飛び跳ねて喜んでるんだよコイツ怖ぇな……まァとにかく、そういう訳だからお前らはさっさと帰れ」


 余計に疲れた様子で言われては流石に従う他無い。先程に引き続きちょっと可哀想である。

 まぁエミュリトスではなくミサキが失言していたら躊躇無く拳骨が落ちてきたと思われるのでリオネーラ以外は本気で同情はしなかったが。とはいえ疲れているのも事実なので言葉には素直に従う事にした。


「……わかりました。ところで報酬はいつ貰えるのでしょうか」


 素直に従うとは言ったが今すぐにとは言っていない。


「がめつい魔人め……。しかし今回は建前上は『採集クエスト』だからな、一度学院に納品してからでないと金は渡せない仕組みなんだよなァ」

「仕組み、ですか」

「ああ、学院のクエストといえど、極力ギルドの方と同じ仕組みでやる事になっているからな。あー、せっかくだから説明してやるか。そうだな……ギルドに依頼を貼り出すにも利用料が要るんだよ。依頼主がわざわざ利用料を払ってクエストを依頼する理由は何だと思う?」

「ふむ……そうですね、考えられるのは単にギルドがクエスト業界を牛耳っていてその仕組みが強制されているから……か、あるいはギルドに利用料を払う事で『楽』や『安心』が買えるから、でしょうか」

「ほう、案外頭が回る上に上手い言い方をするな。正解は後者だ。ギルドを通す事で放っておいても大体確実に要望通りの結果が返ってくる。それが何よりの『ウリ』なんだ」


 今回のような採集クエストでも、個人で誰かに依頼しようとするとなると信用できる者を探す所から始まり、納品された品物が要望通りの物かを自らチェックする所まで何かと手間がかかるものだ。下手すればそれぞれの段階でトラブルも起きかねない。

 それがギルドを通せば依頼の遂行が可能なだけの実力を持つ人員をちゃんと割り振ってくれるし、納品された品物も依頼主の元に渡る前にギルド職員によるチェックが入る。トラブルももちろんギルドが矢面に立ったり仲裁したり、そもそもギルドだけで解決してしまったりと何かと便宜を図ってくれるのだ。

 前世で言うならば中間業者のような代行業者のような、あるいはポチるだけでいろんな商品が手に入る通販サイトのような存在と言え、僅かな課金(利用料)で手に入るプレミアム特典としては破格と言えよう。


 なおミサキがボッツの問いに上手い答え方が出来たのは勿論それらが存在する世界に住んでいたからである。ちょっとだけ前世の知識が活きた瞬間だった。

 しかしせっかく前世の知識でドヤった形になったにも関わらずボッツは言うほど内心での評価を改めはしなかったし、リオネーラは元々ミサキの発想力は評価していたから驚かなかったし、エミュリトスに至ってはいつも通り「センパイかっこいい!」とか言って目をキラキラさせているだけだしで特に何かが変わったという事は無かったりする。

 まぁ、ミサキ本人には前世の知識でドヤるつもりなんて毛頭無かったので別にそれで構わないのだが。


「つーわけで想像はつくだろうが、仲介や斡旋を主な役割とするギルドは信用第一なんだ。採集クエストを依頼してもらったならば、相応のちゃんとした品を依頼主に渡さねぇと信用に関わる。よって一度ギルドに納品してもらい、そこでブツのチェックを行う訳だな」

「よってそれまでは報酬は渡せない、と。……他の種類のクエストではどうなるのですか?」

「討伐クエストも同じようなものだ、何かしらの形で討伐した事を証明してもらう必要がある。何を以って証明とするかは大抵依頼主が指示しているから依頼書をよく読んどけ。後は……そうだな、お前らが昨日受けた『雑用クエスト』のような場合だが」

「雑用って」


 ああいう誰でも出来そうなクエストを大体の人はそう呼ぶ。一応は非公式用語だ。半公式とも言えるが。


「こいつはいろいろと特殊でな、報酬に関しても依頼主が成果を自らの目で見て判断し、その場で渡してしまう事が殆どだ。理由は簡単、わかりやすく言うならば雑用クエストは『手伝い』だからだな」


 他のクエストは依頼主の代理人として遂行する事が求められる。依頼主が自身で遂行出来ないが故に金を払いまでして依頼しているのだから当然だ。討伐クエストであれば単純に力不足だったり、採集クエストでも自身で採集に向かえない相応の理由がある、そんな人が常に依頼主となる。

 一方で雑用クエストは基本的に依頼主自身でも出来るものが多い。というか前述の通り誰でも出来るからこそ雑用クエストなのであり、実際身内で助け合えばそれで充分片が付くものばかりだ。そんなものが何故ギルドを通して募集されているのか? 答えは単に『人手が足りない』からだ――とボッツは言う。わかりやすい。


「要はとにかく急いで手伝ってくれる奴を揃えたいって時にギルドに依頼が来る訳だな。金で時間を買う訳だ」


 ミサキの言い方をパク――真似しておきながらめっちゃドヤ顔のボッツ。いい性格をしている上になかなか図太いメンタルも持っているようで羨ましい限りである。

 まぁそんな汚いドヤ顔はさておき、ここまでの解説の中で大切な点は『誰でも出来る仕事(手伝い)である事』『大なり小なり依頼主が急いでいる事』の二つ。これらの理由から、雑用クエストに関してはギルド側はあまり間に入らないようにしたのだ。

 詳しく言うと、仕事の成否なんて確認するまでもない難易度だし、報酬の支払い等の細かい手続きもギルドを挟むと依頼主やハンターに余計に時間を取らせてしまいよろしくない。よってギルドは信用の置ける人を選ぶ事だけに注力し、後は依頼主の裁量に任せる――そんな現場主導のやり方になった、という事である。

 勿論トラブルが起きれば割って入るが、何も起こらなければこれが一番スマートでお互い時間や手間の面で得をする理想の形だからだ。


「……なるほど。一番簡単なクエスト種だからこそ一番最初に簡略化されたという訳ですね」

「そうだな。ゆくゆくは他のクエストも簡略化していきたいというのがギルドとしての本音だろうが、それはまだまだ難しいだろう。つーわけで今回の採集クエストも本当なら受付に納品してからでないと金は渡せん」

「……「本当なら」、ですか」

「チッ、察しがいいな、つまらん。チッ」


 さっきは褒めたのに今度は堂々と舌打ちしやがった。しかも二回も。



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