もしかして:まっくろ●ろすけ
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ものすごく雑な字で書かれた汚い依頼書を提出し終えたボッツが三人を引き連れて向かっているのは、学校の敷地内の最奥部にして隅っこ、角の部分にあたるエリアだ。
「この学院はそこそこ広いからな、数分歩く事になる。5分くらいか」
先導しながらボッツが言う。ボッツ基準で5分という事はミサキ基準だと本来なら10分かかりかねないが、そこはしっかり友人二人に手を引かれ背中を押されながら歩いているので問題ない。見た目は情けない。
その光景に何かツッコみたそうなボッツだったが、彼は珍しくそこで真面目な顔をしてツッコミではない別の言葉を告げた。
「……今日はそれなりに良い仕事だったぞ、魔人。おかげでゲイルの野郎をブン殴れた。合格ラインだ」
歩くにつれ当然校舎からは離れていき、徐々に喧騒が遠くなり周囲は静かになっていく。そんな中で普段とは違う一面を見せるボッツ。それはまるでホラー作品の導入部みたいな薄気味悪さを感じさせる。あるいはこの後むごたらしく死ぬフラグ。
ホラーだったらどうしようか、などとミサキは若干身構えつつ、しかし礼儀として言葉を返す。
「……ありがとうございます。お世辞にも作戦と呼べるような物では無かったと思っていますが、お役に立てたなら何よりです」
「……相変わらず何を考えてるのかわからんが、何故そう身構えているんだ?」
「……作戦と呼べるような物ではない作戦で評価されると居心地が悪いんです」
その殊勝な態度が薄気味悪い、とは流石に言えないので別方向から似たような疑問で返答する。実際、急に褒められて戸惑っていることには変わりないのだ。
もしこれがミサキではなくエミュリトスなら素直に薄気味悪いと言っていたかもしれない。素直なのは良い事である。
「ハッ。確かに正当な評価はしたが褒めた訳じゃない。あくまで及第点、最低限の仕事はしたって意味だ」
「……そういう事ですか。確かにもっと上手いやり方もあったと思います。思いつきはしませんでしたが」
「お前が中心になるならあれが最適解だったろうよ。頑固者達を無理に説得せず好きにやらせた所は評価する。もしお前がもっと裏方に徹し、説得力のある奴を中心に据えられたならば他のやり方もあっただろうな」
「ふむ……」
「例えばそうだな、誰かが強引に皆を従わせることが出来れば単純に待ちの戦法が取れただろう。そうして待ち同士の睨み合いになったら適当な悪口で煽ってクラス長を誘き出して潰せばいい。それだけで勝ったも同然だ」
「煽るって……」
「いくらあたしでもそんなのには釣られませんよ、先生」
ミサキの手を引いている方の親友がキッパリ答える。いくら感情的になりやすい性格といえど戦闘中にそんな見え見えの挑発に乗るほど愚かではない。それは確実に負けに繋がるだろうから。
勿論ミサキも同様に思っている。戦いに関してはリオネーラに絶対の信頼を置いていると言い切れるからだ。
「いやしかしな、想像してみろクラス長。この魔人に無表情で黙々となんかこう、明かされたくない秘密とかそんなんをバラされ始めたら冷静でいられるか?」
「……そんなのがあるかどうかはともかくとして……まぁ、想像すると少し自信がなくなってきますね」
「リオネーラ、そこは自信を持って欲しい」
絶対の信頼が揺らぎかねない。
「いやね、流石に怒らせようって魂胆が見え見えな言葉なら我慢できるわよ? ただ、こう、あたしを恥ずかしがらせる方向で来られたら自信がないなぁって」
「……狙って人を恥ずかしがらせるって難しい事だと思うし、言われる方もそういう意図が透けて見えていれば我慢できると思う。頑張って」
「えっ」
「……えっ?」
「………あー……うん……そうね、頑張るわ………ハァ……」
狙わずにリオネーラを恥ずかしがらせる事の多い張本人からそんな事を言われ、彼女はただ深く溜息を吐いた。同じタイミングでミサキの背後の人も溜息を吐いていた。
「……? どうしたの?」
「なんかよくわからんが仲いいなお前ら」
状況の掴めないボッツは適当に流したが、仮に詳細を知っていても脳筋な彼は恐らく気付かないであろう。女性の心の機微に敏感でデリカシーも兼ね備えた綺麗なボッツなんて誰も見たくないだろうし別にいいけど。
そんなどうでもいい事はさておき、なんだかんだでそろそろ歩き始めてから5分が経過しようとしている。
「さて、もうすぐ着くから本題に入るが……魔人、お前は一日で魔法を覚え、サーナスに勝ち、チーム戦でも良い働きをして、今のところ絶好調といった感じだな」
「……そうでしょうか」
「そこは頷いておけよ。調子のいい時こそ気をつけろ、って話をする流れなんだからよ」
「……はい」
「頷くだけかよ反応薄いな。まァいい。要するにだ、お前の成長自体は悪くは無いが、俺としてはどうにも体を張りすぎるのが気になってな」
初日は顔面でファイヤーボールを受け、サーナス戦でも攻撃を喰らう前提で動き、今回もまた囮となって前線に出た。ボッツからすればそれは体を張りすぎているように映るらしい。
しかしミサキ本人にはそんなつもりはない。初日こそあったがその事はもう彼女なりに反省しており、それ以降はあくまで普通に戦いとして前に出ているだけである。心配性のリオネーラが苦言を呈さない所からもそれは自然な範囲だと言えよう。
つまり、ひとつひとつは戦いの中の動きとして自然な動きではあるのだが、毎回毎回そんな事をするその姿勢は教師という先を見据える必要のある立場からは体を張りすぎているように映っている、という事だ。
そこまで理解したミサキではあるが、積極的に学びに行くその姿勢自体を変えるつもりは無い。それが強くなれる最善の方法の筈だから。しかし変えるつもりが無いからこそ、自分を気遣ってくれる教師の言葉には耳を傾けないといけないとも考えている。
たとえその結果姿勢を変える事になったとしても、だ。一見矛盾するようだが、それは先人の言葉にはそれだけの価値があるという事をミサキが知っており、そしてそれを受け止めるだけの柔軟さも有している事の証明に他ならない。
「あー、いや、別に止めろと言いたい訳じゃねぇ。その姿勢は嫌いじゃない。ただ、止めておくべき時があるというのはわかるな? 死んだら元も子も無ぇんだから」
「はい」
ボッツの言葉に親友二人は少しだけ硬い表情をしたが、先導するボッツ本人もその背中だけを見ているミサキも気づかなかった。
「よって、それをどう見極めるかが問題になるわけだ。この授業はその為にある。ん、クエストだったか? まァどっちでもいいだろ」
「ちゃんとクエスト扱いにしてください、でないとお金が貰えません」
「魔人のくせに急にがめついキャラで売ってくるんじゃねぇよ」
そうは言うが借金王にはとても大事な問題なのでしょうがない。場合によってはキャラを変える必要もあるほどに。
ちなみにこれは完全に余談だが、前回の図書館でのクエストの報酬は多少色のついた額になっていた。建前上は「予定より早く終わるくらい頑張ってくれたから」だったが実際は勿論ディアンが勝手にミサキを恐れた結果である。
とはいえ一人だけ色をつけるのも目に見えて不自然……という訳で四人全員分の報酬の水増しを強いられ(自爆だけど)、ディアンの懐は若干寂しくなったとかなんとか。
「まァなんだ、そういう訳でこれから向かう先にはその見極めのひとつの参考になるであろうモノを与えてくれる存在がいる」
若干話が逸れたが、今回の本題はここである。
ミサキの今後を案じるボッツは結局のところ教師であり、教師による授業というのは結局のところ教え伝える事以外の何物でもない。
つまりはミサキにこの場で、今の内に教えておきたい事がある、それだけなのだ。
「そいつの事をよく見ておけ。クエストの内容は建前上別に用意してあるが、本当の目的はそれだけだ」
「……見るだけでいいんですか?」
「ああ」
ボッツが鉄柵の扉を押し開く。眼前に広がるのは畑に植えられた背の低い無数の草。風に乗って流れてくるのは草木の香り。そして、その奥に――
「――なんてったって、相手は魔物だからな」
その奥にある檻の中で蠢く、黒い影を三人は見た。
まっ●ろくろすけでググったら上から二番目にクッ●パッドが出てきてすげぇと思いました




