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もしかしたらアプデで新武器が追加されるかもしれない




「――時間だな。おら、全員武器を取れ、始めるぞー」


 グラウンドの隅、校舎寄りの方にある武器倉庫の扉を開放しながらボッツが言う。

 前にも少し触れたが、模擬戦での武器は安全面を考慮して学校が準備した物を使う事となっている。生徒達が続々と倉庫の中に入っていき武器を手にして出てくる、その流れを眺めながらミサキは思案に耽っていた。


(……敵味方の装備を正確に把握できれば作戦の精度も上がるんだろうな。敵に弓術士が居る事も想定して作戦は立てたつもりだけど……思ったより多い……)


 何故か敵チームの顔ぶれに弓を持った人が結構いる、リオネーラの指示だろうか。防御を重視していると取れるから作戦プランを変更する程ではないが、囮をしている時に沢山撃たれると厄介かもしれない。

 まぁ前述の通り一瞬でも気を引ければそれでいい囮だし、それでなくとも自分が撃たれる分には当たっても我慢すればいいだけである。模擬戦用の矢なら急所にでも当たらない限り死にはしないだろうから。


(でもレン君の方は別。こちらから頼んだ以上、出来れば無傷で終わらせてあげたいところ……護衛の人に頑張ってもらうしかないか)

「……どうしたんですセンパイ? 武器取りに行かないんですか?」


 タイミングよく件の護衛役である少女がロッドを手に持って問う。レンの護衛の話は既に通してあり、渋々ではあったが了承も得た。ガチでめっちゃ渋々だったが頭を下げてなんとか了承は得た。


「……エミュリトスさん、矢が結構飛んでくるかもしれない」


 だから守ってあげて欲しい、とまでは言葉にしない。否、出来ないのだ、敵の生徒も近くにいるこの状況では。だが自分の役目を理解しているエミュリトスにはそれで通じる。


「気をつけないといけませんねー。まぁ矢が飛んでくるのなんて序盤だけですよ、乱戦になれば矢は撃てないし撃つ暇もありませんから」

「ふむ……それは乱戦だと味方の背に当たるから撃てないし、肉薄されれば弓を構える暇すらない、という事?」

「そういうことです。まぁそれで弓術士が無力化されるかといえばまた別なんですけどね、普通は何かしらの近距離戦の備えもしてるものですし」

「普通は、ね……」


 ミサキも気にしながら見ていたので、彼ら彼女らが確かに弓だけでなく短めの剣やナイフを鞘に入れた状態で腰に装備している事には気づいていた。

 そしてそんな中で、唯一そういった備えをしていない弓術士がよりによって味方にいる事にも。


「……サーナスさんはそういうの持ってなさそうだけど」

「……弓を得意とするエルフにはそういう誇りがあるんじゃないですか、知りませんけど」

「他のエルフの子は持ってるけど」

「……なんか意地があるんじゃないですか、知りませんけど」


 実際普通に意地である。いつものやつである。エルフのイメージを崩さないように頑張るその姿勢だけは褒めてあげてもいいかもしれない。でも褒めたら絶対調子に乗るので止めておいた方がいい。


「……まあ、サーナスさんくらい強ければ近づかれても魔法で追い払えるのかもしれない。最悪矢でそのまま突けばいいし」

「そうですね、弓で思いっきりはたいてもいいですしね。壊れるかもしれませんけど。壊れたら弁償なんですかね?」

「……わからないけど弁償だったら困る。今日は壊れにくそうな剣をちゃんと選ぼう」

「そういえばセンパイは剣士みたいですけど、予備の武器を持ったり盾を持ったりとかしないんですか?」


 自分の装備――ロッドを軽く振りながらエミュリトスが問う。どうにもしっくり来ないのか何度か握る位置を変えたりしながら。


「……私は単に剣しか使い方を知らないから。他にしっくり来る武器があればそちらも使う」


 もっともその場合でも剣を捨てる事は無いだろうが。初めての友達が教えてくれた思い入れのある武器を捨てるなんてとんでもない。


「なるほど……とはいえ、今のセンパイの腕力では重めの武器は難しいでしょうし……このロッド使ってみます?」

「……さっきから使いにくそうに振ってる気がするけど」

「ああ、わたしは自前の武器を持ってるので、それと比べるとどうしても市販品は使いにくくて……重心とか太さとか、何かが違う気がしちゃうんですよね」

「へぇ……そういうものなんだ」


 と理由には納得したが、だからといってロッドを手に取ろうとはしない。使い方を知らないからである。ミサキは知らない物に迂闊に触れたりはせず、まず説明書をちゃんと読むタイプであった。

 この場合、説明書は目の前の女の子以外に無い。聞いてみる。


「……ロッドはどういう使い方をする武器なの?」

「……どう、と言われましても……力任せに叩くだけですけど」

「………」

「わたしは故あってこれで積極的に叩きに行きますけど、基本的には魔法を使う人が護身用に振るう武器ですから……。あ、魔法を使う時には追加効果がありますよ。なんかいい素材を使ったやつならなんかいい事が起こるらしいです、なんか」


 具体的な事が何一つわからん。


「……エミュリトスさん、ロッド使いじゃなかったの……?」

「あ、も、もしかしてこれ失望されてます!? 違うんですよ、わたし魔法あまり使いませんし、それにわたしのロッドは適当に振り回してるだけで何とかなるくらい実用性だけを追求した渋いヤツなんですよ!」

「そうなの? ごめん。……というか、それはそれで凄い。もしかして一流の職人によるオーダーメイド?」


 エミュリトスがしっくり来る使い心地をしていて、尚且つ護身用の武器の筈なのに実用性に特化している。つまりエミュリトスがどういう使い方をするかまで考えられているという事。オーダーメイド以外に考えられない。


「はい、おじいちゃんが作ってくれました。センパイの仰るとおり一流の職人です、わたしの目標でもあるんですけど……あ」

「……? どうしたの、エミュリトスさ――ん痛ッ!」


「早くしねぇか魔人、準備が出来てないのはお前だけだ」


 雑談に興じすぎていた為、後ろからボッツの拳骨を貰ってしまった。まぁ拳骨と言っても軽いものだし自分に非がある事もわかってはいるのだが、頭を使うミサキは頭を殴られるのは好きではなかった。


「……すみません。でも同志を殴るのは酷くないですか」

「同志である前に教師だ俺は。そもそも痛くねぇだろ。さっさと武器を取れ」

「……はい」


 重ねて言うが自分に非があることはわかっている。なので大人しく従って武器倉庫へ向かう――否、向かおうとしたところで背後から声がかかった。いつも通り追従してくるエミュリトスのもの、ではない。


「あー、次からしばらくは武器を指定しての授業にしてやる。いろんな武器を使ってみるのは悪い事じゃないからな。だから今日のところはいつも通り剣にしとけ」

「……ありがとうございます」


 二人の会話を盗み聞きしていたボッツからのアドバイス。一見するとツンデレだが実際は純粋に時間の無さを気にしてのアドバイスである。だが理由が何であろうとアドバイスを受けたなら礼を言うのもまたミサキという少女だった。

 一方でそんな殊勝な意識なんて持っていない(どころか敬愛する先輩を殴られてご立腹な)毒舌娘もいる。武器倉庫の中に二人ともしっかり足を踏み入れたのを確認した後、彼女はミサキに囁きかけた。


「すいませんセンパイ、わたしとの話が長引いたせいで……」

「どっちみち私から話しかけていたと思うし、エミュリトスさんは私に教えてくれただけ。気にしないで」

「むー……先生の事は教師として評価はしていますけど、あんな醜い筋肉でセンパイを殴るのは軽蔑します。殴られた所は大丈夫ですか?」

「え……うん……大丈夫、ほとんど痛くなかったし……殴られたのも私が悪いからだし……」


 そしてそれら以上に筋肉に美醜の概念があるらしい事の方が気になってしょうがない。ドワーフって筋肉質だと聞いたけど筋肉に関して一家言あったりするのだろうか。


(後でまた聞いてみよう。リオネーラに聞いてもいいか、ついでに武器についてもいろいろ聞けそうだし)


 剣の選び方、エミュリトスの知らないロッドの特性、それ以外の武器についての色々。聞きたい事は沢山ある。

 倉庫に並ぶ多数の武器を見渡しながら、まだまだ困った時のリオネーラ頼りは続きそうだな、とミサキは思った。


 ちなみにそのリオネーラは腰の左右に一本ずつ剣を装備していたのを確認している。初日からずっとそのスタイルではあるのだが、ミサキは今のところ片方の剣を振るっている所しか見た事が無い。どんな時に両方の剣を使うのか密かに気になっていたりする。

 気になっていると言えばもう一つ、両方とも同じサイズの剣を装備している事も地味に気になっている。宮本さんを知る日本人としては片方は短い剣をオススメしたいのだ、両方の剣を同時に使うなら。まぁ異世界には異世界の型があるのだろうし、そもそも宮本さんは刀だが。


(そういえば見た感じだと刀は無い、か)


 刀は日本の女子にも人気の武器である。かつてミサキの周囲にも熱を上げている人がいたので、一度くらい使ってみたかったな、と残念に思う彼女であった。

 ……念の為言っておくが人気っていうのはファン的な意味である。使い勝手のいい武器として人気という意味ではない。らぶ的な意味である。それなのに武器として使ってみたいと考えるミサキはやはり少しズレていると言えなくもないが好奇心は止められないのだ。


(もしかしてこの世界には刀は存在しない? だとしたらとても残念だけれど……迂闊には聞けないか。他の人に聞かれたら異世界人だとバレかねないし、異世界の知識を積極的に広めるつもりもない。人助けになるなら別だけど)


 基本的には女神と話した通り「情報の発信源として名が知られると面倒そうだから」という理由からだが、武器絡みの知識は話が違う。彼女は正直、恐れている。知識が広まり、その武器でもし誰かが死ぬ事になった時、自分を責めずにいられる自信がないから。


(……なら誰にも頼らず自分で作ってみるとか? いや、刀の作り方なんて曖昧にしか知らない……それにもし作れてしまったらそれはそれで異世界の知識を広めている事になりかねない。剣がある世界で刃物の知識を広めたところで今更、という考え方も出来なくはないけど――)

「――せ、センパイ! センパイ!」

「……? どうしたの、エミュリトスさ――」


 制服の袖をちょんちょんと引かれ、考えに耽っていた意識を現実に戻す。そしてエミュリトスの方を振り返り――倉庫の入り口からこちらを覗くボッツと目が合った。全身から漂う怒りのオーラもセットで。


「 ハヤク シロ 」


「…………はい」


 流石に今回は迷惑をかけすぎたのでその後すれ違いざまにしっかり謝っておいた。



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