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教えてリオネーラ先生!




 ミサキの出番は思っていたよりも早く訪れた。一つ前の性別不詳の子や、教室で隣だった妖精族の女の子など一部の子が戦わずに降参したのが大きい。

 という訳で次はミサキの番……なのだが、今この場にいる生徒の数は奇数である。余りもののミサキの相手は誰になるのだろうか。

 

「降参したって事は疲れてないだろう、もう一回お前行くか?」

「ひいいぃぃっ!? やだやだやだ!」


 ボッツの言葉が死刑宣告だったかのように性別不詳の子は泣いて喚いて震え出す。非常に可哀想である。ミサキもそう思ったのか他の子を指名した。


「……もし良ければ……リオネーラさん、相手をして欲しい」


「「「ええっ!?」」」


「ん、いいわよ。いろいろ教えてあげる」


「「「えええええっ!?」」」


 周囲の誰もが二連続で驚いたのも当然だ。

 誰がどう見ても無謀なマッチング。そしてリオネーラからすれば得る物など皆無のはずのマッチング。しかし、それは成立した。

 ボッツも予想外の事態に目を丸くしている。ミサキとしては話の早いリオネーラに受けてもらえてありがたい限りだ。借りはどんどん増えていくが。

 

「相手をしてって事は、試合の中でいろいろ学びたいって事よね?」

「……うん。学んで強くなって、貴女に借りを返さないといけないから」

「そう言われちゃ断れないじゃない。この試合だけでレベルが2上がるくらい教えてあげるわ。いいですよね、先生?」


「あ、あぁ……」


 リオネーラ、面倒見が良すぎではないだろうか。


(……リオネーラさんに頼ってばかりではいられない。リオネーラさんはレベルを2上げると言ってくれたけれど、それなら3くらい上がるように私は努力すべきだ)


 そうミサキは意気込むが、実際はレベルが絶対の世界であるが故に短時間で沢山のレベルは上がらない。

『レベル1は不自然』という女神の言葉と矛盾するようであるが、それはこの世界での日々の積み重ねで知識を得、身体が作られ、その結果レベルが上がるから、という話だ。『短時間で』『沢山』はそう簡単には上がらない。

 女神の作ったこの世界はパラメータ――知識や身体の成長をわかりやすく数値化したもの――に応じてレベルが定められるシステムであり、更にパラメータは徐々に上がり難くなっていく。パラメータ上昇に必要な経験の量も増えていくし、上昇量そのものも小さくなっていくのだ。対数関数的に。

 最初の内こそ比較的上がりやすく、戦闘で得られる経験はパラメータにダイレクトに響くとはいえ、結局短時間でどれだけ上げられるかは学ぶ側と教える方の両方の資質が重要になるという訳だ。


 この世界はパラメータもレベルも測らなければ見れない、言わば身体測定値と似た扱いの世界だが、それでもそれらは強さの指標として絶対的な意味を持つ数値である。

 よって現地人であれば経験則や先人からの伝聞などでそれらのおおよその法則性は知っている。逆に言えばミサキには知る由も無く、無謀な目標を立ててしまったのも仕方ないと言えるだろう。


「……ところで、そもそも剣持てる?」

「……な、なんとか……」


 ……細腕でヨロヨロと剣を構えるその格好を見る限り、法則性とか関係なく無謀に見えるが。


「危なっかしいなぁ……じゃあ振り方より先に防御から教えるわね。盾や鎧で受けられるならそっちで受けたほうがいいけど、剣で受ける場合は刃では受けないようにして。手首を捻って剣を回して、腹の部分で受けるように」

「……こう?」

「そう。そして左手も剣の腹に添えて、攻撃を受ける瞬間に押し返すように力を入れる事を意識して。後は敵の攻撃をよく見て、出来る限りガードの部分に近い方で受ける……って昔は言われてたわね」

「……昔だけ? 何故?」

「昔の剣は結構簡単に折れてたからね。そして剣が折れる時は決まってブレード部分の真ん中あたりから折れてて、防御のし過ぎでその辺りが脆くなってるのでは?って言われてたのよ」

「へぇ」


「ふむふむ」「ほうほう」


「……えっと。でも最近はドワーフ達の技術を利用した剣が多く流通していて、それらは昔の人間製の剣と比べて格段に堅くなっているからそのあたりは気にしなくて良くなった、って話よ」

「なるほど……」


「勉強になるなぁ」「物知りですねぇ」「さすがレベルが高い人は違う」


「……ちょっと、なんかいつの間にか外野が増えて授業みたいになってるんだけど?」

「面白いからそのまま続けろ」

「先生まで……」


 主にミサキと同じ列の子、つまりレベルの低い子達が集まってリオネーラ先生の授業に耳を傾けている。

 しかし彼ら彼女らは基本的にミサキを恐れているので微妙に遠巻きであり、リオネーラの授業を聞きながらミサキの顔色を伺うという器用だけど精神を擦り減らしそうな授業態度になっている。

 なお当のミサキは授業にのみ集中しているため外野の事などまるで目に入っていない。ボッツが面白いと言ったのはここだ。

 なんかもういろいろと模擬戦らしくないシュールな光景だが、教師の許しまで出てしまったのでリオネーラにはどうしようもない。仕方ないといった感じで授業を続ける。


「じゃあ、一回ゆっくり攻撃するから。受けてみて」

「お願いします」

「敬語はいいから……いくわよ!」

「ッ!」

「目を逸らさないで、攻撃を最後までしっかり見て」


 ゆっくりと上段から打ち込まれる剣を、ミサキは言われた通りにしっかり受け止める。……『スキル』が発動しないように気をつけながら。

 一発、二発。少しずつ攻撃が早く、重くなっていくが、ミサキは受け止め続けた。


「……よくできました。物覚えがいいわね」

「手が……痺れる……」

「あー、基礎体力の方はどうしようもないからね……ごめんね、大丈夫?」

「大丈夫……私が望んだ事だから。続きをお願い」

「……わかった」


 引き続き防御の基礎を教えてもらう。正面上段からの攻撃だけではなく、下段、横からの攻撃など、様々な状況を想定して。

 リオネーラの言う通りミサキは飲み込みが早く、基本的な事は一度で覚えていった。元々物覚えがいい……のかもしれないが、それ以上に真剣に学ぼうとしている姿勢の賜物である。

 防御の次は攻撃の基礎を。その次は回避の基礎を。リオネーラは教師顔負けのわかりやすさで教え、ミサキは学んだ全てを一切逃さず自分のモノにしていった。


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