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マジメな話してるけどこれまだ4日目なのよね



「……よし、回復」

「はい。で、話って?」


 急かされ、ミサキはまずエミュリトスを見る。そのまま自身を指差せば彼女はすぐに頷いた。先に言っていいらしい。


「……実は、二人に黙ってた事がある」

「隠し事ってコト?」

「そう」

「ふーん」


 反応が薄い気もするが、相手はミサキの不可解な点を最も近くでイヤと言う程目の当たりにしてきたリオネーラである、今更隠し事の存在程度で驚きはしない。大きな反応を期待するのが間違いというものだ。

 もっとも、ミサキとしては過剰に身構えられるよりかは言いやすくて助かるわけであり。そのまま言葉を続けた。


「……実は私はこの世界の人じゃない」


 そう切り出し、そこからミサキはこんこんと――他二人から見れば淡々と――事情を全て説明した。

 自分が此処ではない他の世界で死んだ事。女神に会った事。スキルを貰った事。そして転生し、校門の所に放り出された事。全て包み隠さず。頭の回る彼女は正確に、かつ簡潔にわかりやすく伝え切った。

 そして、それを聞いた二人の反応は――


「……センパイがそんな凄い経歴の持ち主だったなんて。やっぱりセンパイをセンパイに選んだわたしのセンパイ直感は間違ってなかったんですねセンパイ!」


 片方はなんかちょっと何言ってるかわかりにくいがとりあえず興奮してるっぽい。


「………」


 そしてもう片方は真面目な顔で沈黙を貫いている。

 まぁこれが普通の反応だ、とミサキは思う。信じるにしろ信じないにしろ、そう簡単には受け止められないだろう。そして無理して受け止めさせるつもりもない。ましてや無理して信じてもらおうなどと思ってもいない。


「……リオネーラ、信じてもらえるとは私も思ってない。ただ私が明かしかっただけだから、あまり気にしないで」

「……んえ? あ、あぁ、いや、信じてるわよ、あたしも」

「……そうなの?」

「だってそれが一番しっくりくるもの。そんな理由でもないとミサキの世間知らずで非常識な変人っぷりは説明出来ないし」

(私のイメージってそんなに酷かったの?)


「ただ、ね……大変だったんだな、って思って。でもそれをあたしが軽々しく言っていいものかわからなくて……」


 重く受け止めるのが正解なのか、エミュリトスのように明るく受け止めるのが正解なのか。リオネーラはそこで悩んでいた。エミュリトスが明るく受け止めたからこそ、自分くらいは重く受け止めるべきではないのか、と。

 真面目で面倒見が良く空気が読めるが故の苦悩。それに加えて――


「……ミサキに剣を向けたあたしに、そんな事を言える資格は無いんじゃないかって思うのよ」


 その事をずっと密かに悔いている、心優しいが故の苦悩だった。



 しかし、それに返ってきた言葉は、


「……剣? ……あぁ。……えっ?」


 疑問~納得~再びの疑問、という浮き沈みの激しい上に間の抜けたミサキの言葉だった。


「……えっ?」


「え?」

「え??」

「え???」


 真面目な話をしていた筈なのに話が噛み合っていないかのような疑問符が飛び交っている。とてもあたまがわるそう。

 そんな事になっている理由は、リオネーラ側からすればミサキが珍しく無表情を崩して「信じられないものを見るかのような表情」と取れなくもない顔をしているからである。そしてミサキ側からすれば――


「……リオネーラ、あの時の事を気にしてたの? あれは私に原因があるって言った筈だけど……言ってなかった?」


 ミサキ側からすれば、実際信じられないような認識のズレが発生していた可能性があるからである。原因が自分だと告げた、その時点でリオネーラが思い悩む理由は無くなる筈なのだから。

 一方で、そんな目と言葉を向けられて冷静ではいられないのがリオネーラという少女だ。


「き、聞いたけどっ! 何よ、気にしてたらいけないの!? レベル50が恐怖に負けてレベル1の無実の女の子に剣を向けた事を気にしてるのがそんなにおかしい!? そんな理由で人に剣を向けたのなんて初めてだったんだから!」

「………」


 確かにそう聞くとそこまでおかしな話ではないな、とミサキも思い直す。自分の強さに自信を持っているリオネーラだからこそ、恐怖に流されて間違えた力の使い方をしようとした事を悔いていてもおかしくはない、と。

 原因が誰にあろうと、その事実は消えないと。初めての経験であれば尚更だ、と。

 ぶっちゃけミサキは異世界なら剣を向けるのなんて挨拶代わり・日常茶飯事だろうな程度に思っていたし事実その通りなのだが、リオネーラは異世界の住人である以前にいい子なのであった。


「その子は気にするなって言ってくれたから今まで気にしないでいたけど、ホントはいろいろ複雑な事情を抱えてたって聞いて……もしあの時止めてくれなかったらって思うとゾッとするのよ……」

「………」


 リオネーラが心から悔いている事はミサキにも伝わった。勘違いもすれ違いも無く、確かに伝わった。

 だが……



「リオネーラ、その後悔はもう意味が無いと思う」

「…………へっ?」


 しっかり伝わったからこそ、ミサキはそう言い切った。

 ……言い切るのはいいが、ちょっと言い方がぶっきらぼうすぎてハラハラする。もっとこう、オブラートに包めないものか。無理なんだろうな。


「だって、もうリオネーラは私に剣を向ける事は無いから。だから意味が無い。なのにそれを理由に私に遠慮するのはおかしい。資格が無いなんて言うのはおかしい」

「え、ええっ? そ、そう……? いやいや、待って、そもそもなんであたしがミサキに剣を向ける事がないって言い切れるのよ!」

「あの時は互いに素性も知らなかったけど、今は友達だから。『素性も知らない人』に剣を向けた事を後悔したリオネーラが、友達に剣を向ける筈が無い」

「っ、そ、そう言われると……」


 そう言われると自明の理である。同じ過ちを繰り返すまいと後悔した人が、それよりも犯し難い過ちなんて犯す筈も無い。


「だから、その後悔を抱え続ける必要は無い。リオネーラに必要は無く、私も全然気にしてない。なら、その後悔にもう意味なんて無い」

「……そ、そんな簡単な話?」

「そんなに後悔したリオネーラなら、もし私以外の誰かと再度同じような状況になっても今度は剣を抜かないと私は思う」


 後悔し、反省する。それが出来る人はそれだけで信用に足るものだ。ミサキはそう考えている。

 言葉足らずなミサキらしい結論ばかりを述べた説得だったが、結局は彼女がリオネーラを信用し、信頼しているという一言に尽きるのかもしれない。そして、それを感じ取れないリオネーラではない。


「……はは、随分信頼されてるのね、あたし」

「……信頼してるのは確かだけど、今回は事実を言っただけ。リオネーラは優しすぎる。だから難しく考えすぎる」

「優しい、か……自分じゃそうは思わないわ。感情的なだけよ、自分でも制御できないくらいにね。ミサキにそこまで言ってもらえても自信が持てないくらいに……」

「……そう」

「うん、まだ自信は持てない。だからあたしはもっと強くなる。二度とこんな事が起こらないように。あの時あたしを止めてくれたあなたに誓う。……あの時あたしを止めてくれてありがとね、ミサキ」


 ずっと言えなかった言葉を、勢いに任せて言い切った。そんなリオネーラの顔は晴れやかで、いつもの自信に満ちた彼女の顔だった。


 そして、そんな誓いを立てられたミサキはというと、


「ごめん、あの時はただ命惜しさに説得してただけで、そんな立派な誓いを立てられる程の事をしたつもりは――」

「そこは黙って頷いてくれればいいの!」


 相変わらず肝心なところで馬鹿正直で空気が読めないのであった。




「……むー」

「……?」

「これはあれですか、先に感情的になった方が負けだったって事ですかね……」


 最初こそハイになっていた後輩だったが、リオネーラとの話を終えてみればこちらも何かよくわからない事を悔いるように呟いている。よくわからないのでミサキは普通に問い返す。


「……何の話?」

「……駆け引き、ですかね」

「……それはそれで何の話?」

「センパイには関係ないですよっ! ぷんっ!」


 エミュリトスが一体何と戦っているのかは全くわからないが、結果的にしばらく放置する事になってしまったのはミサキとしても謝りたいと思っているし、他に伝えたい言葉もある。

 ので、そう頰を膨らませてそっぽを向かれると困るわけである。伝えたい言葉も伝えられないから。

 よってとりあえず正面に回り込み、視線の高さを合わせた上で頭を下げた。


「ありがとう、エミュリトスさん」


 まずは謝る為ではなく、他の伝えたい言葉を――お礼を言う為に。

 どうやら今は機嫌が悪いようだというのはさすがにミサキにも伝わっているが、「センパイには関係ない」と言われた以上、ミサキはそれを信じて無関係で居るのみだと考えた。

 ……実際はそこまで無関係じゃないとしても、だ。だってどうせミサキは何の話かもわかってないし結果的に同じ事である。


「……な、何がですか、センパイ」

「真っ先に信じてくれて嬉しかったから。信じてもらえなくても無理はないと思っていたけど、信じてくれるならやっぱり嬉しいから」

「………むぅ」

「エミュリトスさんのあの反応が無かったら、リオネーラにも強気に出られなかった。秘密を明かした事を後悔していたかもしれない。だから、ありがとう」

「………」


 膨れっ面は変わらないが、若干視線が泳ぎ始めた。ミサキをチラチラと見、視線を合わせたり逸らしたり、一度だけリオネーラの方も見たりと忙しい。

 そうして少しした後、結局彼女も頭を下げた。


「……ごめんなさいセンパイ、拗ねたりして。迷惑かけました」

「……拗ねてたの? ……確かに、ずっとリオネーラの方にかかりっきりになってたのは悪いと思ってる。ごめん」

「あー、いえ、それも無いとは言いませんけど、そっちじゃないんですよね……」

「……? じゃあ何に?」

「……反省してるので追及しないでくれると嬉しいです」

「……そう」


 ハッキリとNOを突きつけられれば好奇心旺盛なミサキも流石に空気と距離感は読む。ミサキ自身もハッキリと(時に冷たく受け取られもするが)モノを言う子である為、言葉はしっかりと受け取るのだった。




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