丈夫さと命中とかしこさが高くて変形を得意とする種族
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「――あの、センパイ?」
「み、ミサキさん? 大丈夫?」
クエストを終え、寮に戻る途中でエミュリトスとレンの二人が後ろから声をかけるもミサキは返事せずただヨタヨタと歩くだけ。それほどにガチ立方体サイズの百科事典は重かった。
隣を歩くリオネーラは肩をすくめ、説明する。
「返事をするのもしんどいから話しかけないで、って事だと思うわよ」
「そんなにですか……」
「ぼ、ぼくで良ければ手伝おうか……?」
「………」
レンが恐る恐る手を差し伸べるが、言われたミサキはチラリとリオネーラに視線だけ向ける。
「……あたしもさっきそう言ったんだけどね。自分でやれる事は自分でやりたいんだって」
「あ、あはは、そっか……」
困ったように、しかしどこか楽しそうに笑いながらレンは手を引っ込めた。悪くない空気である。ちょっと青春っぽいやつ。
しかし、そんな空気の中……
「……レン君、あんなにセンパイを恐れていたわりにはずいぶん親切なんですね?」
そんな空気の中、聞く人が聞けば見えるようなトゲを纏いながらとうとうエミュリトスがブッ込んでいった。そんな空気だからこそだろうが。
しかしレンにはそのトゲは見えなかったようだ。というかリオネーラ以外誰にも。
「ん、うん、そんなに悪い人じゃないのかなぁって……誤解しててゴメンね、ミサキさん」
「……気にしてない」
「なんでそのセリフにだけ返事しちゃうんですかセンパイ! なんですか、センパイも男の人に言い寄られて悪い気はしないってやつですか!」
「……なんで怒られてるの私……」
「あっやったぁわたしのセリフにも返事してくれたぁ!」
正確には返事まではしていない気がするが何でもいいのだろうか。
「あぁ、そうだ……今の話の流れで……気になってた事、思い出した……」
「み、ミサキ、無理して喋らなくても……」
リオネーラが気遣うものの、ミサキの好奇心を止められるモノなどそうそう存在しない。
今無理しないでいつするの、とか言い出しかねないほどである。
「レン君は……『君』って言うだけあって自己紹介の時に男の子だって言ってたけど……」
「う、うん」
「……不定形族……スライム種って性別あるの?」
意外にもマトモな質問をぶつけるミサキ。性別があるという前提で男女の相違点を尋ねるのではなく、そもそも性別があるのかを尋ねるあたりが好奇心旺盛な彼女らしい視点である。
それは下手すれば再度リオネーラのような聡い人に違和感を持たれかねない、異世界人らしい無知丸出しの質問とも言えるのだが……先程エミュリトスが「不定形族を見たのは初めて」と言っていた事から不定形族の実態はそこまで知られていないのではないか、その程度には不定形族は珍しいのではないか、とミサキは推測していた。
実際、クラスには他の不定形族がいない程度には珍しく、ミサキのその推測は正解である。結果としてリオネーラに違和感を抱かれる事もなかった。ただ、だからといってレンがそんな好奇心丸出しの質問に嫌な顔をしないかはまた別の問題なのだが……彼はそんな質問も想定していたようですんなりと答えてくれる。
「あぁ、えっと、性別っていうか、どっちの性別の人間の身体を真似てるか、っていう違いはあるけど……それだけだよ。どちらの性別を選んだから何か、って事は特にないかな」
「……例えば大きな違いとして、大体の生物は女性しか子供を産めないっていうのがあるけど……そんな違いは特に無い?」
「うん全く。ぼく達は子供は細胞分裂で作るし。そもそもこの身体だって外側だけ真似てるようなものなんだ」
彼ら不定形族の身体は鼻から空気を取り込んだり、口から食べ物を取り込んだりと人間らしい振る舞いが出来るように作られてはいるが、脳や内臓が人間と同じ位置にあるという訳ではない。
そもそも生命維持に必要とする臓器も違ったりするし、もっと言うなら骨や血管のようなものはほぼ通っていない。彼らは魔力でその姿を形作り、維持しているだけである。
「ついでに言うと男性になろうと女性になろうと身体能力は元々のパラメータに依存するしね。だから実を言うとぼく自身、性別に何の意味があるのかよくわかってなかったりもするんだ」
賢王様に男性を選べって言われたから選んだだけで――と言って笑い、一通りの説明を終えるレン。
その曖昧な笑顔からは彼の性別も、秘めたる思いも読み取れないが……聞き入っていた二人はそれぞれ別の反応を返した。
「ありがとう、よくわかった」
「ごめんなさい、わたしはあなたの事を誤解してました! 仲良くしましょうレン君!」
疑問に対する答えが充分すぎるほど得られてご満悦なミサキと、敵になる要素が無い(惚れた腫れた以前の問題だった)とわかり高速手の平返しを披露するエミュリトス。
それを見て予想通りとばかりに苦笑するのがリオネーラで、今度はちゃんと嬉しそうな笑顔を浮かべたのがレンだった。
なお、百科事典は部屋に着くまでに二回落としかけた(その都度リオネーラがキャッチした)。
評価点がマシマシになってきました、ありがとうございます
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