例えの所はカラオケでも可
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「――教頭先生」
授業が始まる前に去ろうとした教頭をミサキは引き止め、要件を告げようとする。ちなみに後ろから当然のようにエミュリトスもついてきていたり。
「どうしました? 二人して」
「……レベルを測って欲しいのですが」
「それは勿論構いませんが……ボッツ先生に頼めばいいのでは?」
教室に残ってトリーズの相談に乗っているらしきボッツをチラ見しつつ教頭は言う。
まぁ当然の疑問である。よってどう誤魔化すかも既に考えてある。
「……ボッツ先生はデリカシーがないので」
冗談に聞こえるように誤魔化しつつ、本音も若干混ぜる。我ながら上手い物言いだ、とミサキはひそかに自画自賛していた。
……しかし彼女は気づいていなかった。自分が冗談を言うようなキャラに見られていない事に。真顔で淡々とそんな事を言われたら誰も冗談だと受け止めてくれないという事に。
「……彼が性格に若干難を抱えているのは確かです。ですが、あれでも教師として本当に大切なモノだけは心の中に秘めていると私達は信じています」
(………ん?)
教頭の重苦しい語り口と表情から、流石のミサキでもなんか思ったより重苦しく受け止められてしまっている事は察した。これはヤバい。よろしくない。訂正しないと。
「あの――」
「それでも、それでももし、彼が教師として相応しくないと言うのであれば解雇も検討します。何かあったのでしたら決して他の人には伝えず、私だけにお伝えください」
「違うんです、教頭先生。……違うんです」
「……違うのですか?」
「はい。確かにクセの強い性格だとは思いますが――」
(それセンパイが言いますか!? 素敵!)
「――それでも、あの人は教師だと思います」
「……そうですか。それは良かった」
二人揃って静かにホッと溜息を吐く。方向性が全然違う溜息なのにタイミングが完全に一致したのが面白くてエミュリトスは二人に気づかれないよう小さく笑った。
「……それで、レベル測定でしたか。そうですね、ここで測るのが簡単で早いですが……後程時間のある時に職員室まで来てもらえればもっと細かく、パラメータを数値化して測ることもできますよ」
「……数値化、ですか」
「はい、入学試験の時にも測ったと思いますが」
「……そうですね」
返事はしたが勿論ミサキは計っていない。怪しまれていないだろうか、と不安になったので誤魔化す為に後ろにいるエミュリトスに話を振る。
「……どっちがいいと思う?」
だが、慕うはずのミサキに問われた彼女は不自然に目を泳がせた。
「え、えーと、わたしは数値化はちょっと……興味ないかなーなんて……」
「……?」
「あっ、わたしの話じゃないですね! センパイの話でしたね! あはは!」
「………」
露骨に不自然だったので流石のミサキも訝しむが、当然理由がわからないので訝しむ以上の事は出来ない。
どうしようか、尋ねるべきか、と悩んでいるとそこに割って入る声があった。
「あたしはエミュリトスのパラメータ気になるんだけどなー」
「……リオネーラ、どうして?」
「エミュリトスってドワーフじゃない? あくまで基本的な傾向だけど、ドワーフの男性は腕力特化、女性は高めの腕力といくつかの攻撃魔法を両立させたアタッカーな事が多いのよ」
「へぇ……」
「でもエミュリトスは武器は意外にもロッドだし、高度な回復魔法も使いこなすしで珍しいタイプだから。いろいろ興味あるのよね」
「で、でもわたし、レベル低いですし……リオネーラさんが見てもつまらないですよ……きっと」
(ロッド……杖、か。ワンドよりは長いんだっけ? 何にせよ、前衛向きの種族が後衛っぽい装備や魔法を持ってるというのは確かに珍しいのだろうけど)
エミュリトスがロッドを装備している事さえ知らなかった(見れなかった)ミサキだが、同時にドワーフの傾向も知らなかったのでリオネーラほどは興味を惹かれていない。
それよりもエミュリトスが後ろ向きな言い訳をしながら時々腕の辺りを――正確には手首の辺りに装備したブレスレットを気にしているような仕草をする事の方が気になっていた。
(あの腕輪、昨日からずっと付けてたはず……見せてもらったペンダントと同じような紋様も刻まれてるし、何か効果があるんだろうか)
昨日の時点ではただのファッションだと思っていたが、何か効果があるのだとすれば興味が湧いてくる。
もう少し確信が持てたら聞いてみよう。それよりも今は教頭先生の申し出を受けるかどうか、だ。
「それで、どうされますか? 別に今すぐ決めろという訳でもないですが……」
「……自分の数値には少し興味ある……けど」
「あたしも二人のパラメータに興味はある……けど」
「わ、わたしは……えっと……」
微妙に視線を泳がせ、答えに戸惑うエミュリトス。測らないで済むなら測りたくない、だけど断固拒否ってほどでもない――といったところだろうか、とリオネーラはアタリをつけた。
実際それは正解である。そもそも入学試験の時に一度測っているのだ、断固拒否する理由なんてどう考えても無い。
だが入学試験を受けていない上にコミュ力に欠けるミサキはそれを察せずにエミュリトスを気遣う選択肢を選んだ。何か深い事情があるのだろう、と。
「……エミュリトスさん、無理して一緒に来なくてもいいよ」
……気遣った結果、喋り方とコミュ力の無さ故にすごく冷たい言い方になってしまった感があるのはとても残念である。
「っ、む、無理なんてそんな!」
(……あっ)
ガチで泣きそうになっている。さすがのミサキも今回ばかりはすぐに己の失言に気がついた。
焦り、訂正する言葉を探す……が、それよりも先にリオネーラが動いた。
「そーよねー、行きたくないならしょうがないわよねー。じゃあ二人で仲良く行きましょうか。ね、ミサキ先輩?」
ミサキの腕に絡みつくように抱きつき、滅茶苦茶エミュリトスを挑発するような言い方で煽る。
するとまぁ当然というか何というか、泣きそうだったエミュリトスは一転してリオネーラに食って掛かるわけで。
「っ、行きたくないなんて言ってないじゃないですか! わたしも行きたいんです! センパイのパラメータを隅々まで見たいんです!! っていうかそこはわたしの場所です!!!」
「なーによ、じゃあなんでパラメータ測るって聞いただけで嫌な顔してるのよー」
「そ、それは……」
エミュリトスが言い淀んだ隙に、リオネーラがミサキにアイコンタクトする。それを受けてミサキは口を開いた。今度は失敗しない。
「……言いにくいほどの理由があるのなら無理して来なくてもいいよ、私達は気にしないから……って、さっきはそう言おうとしたんだけど冷たい言い方になった。ごめんなさい」
「あ、そうでしたか……よかった。でも、これはわたしの勝手な理由ですし……それに意地でも測りたくないってほどの理由でもない中途半端なものなので……」
「ん……じゃあ、一緒に来るけどエミュリトスさんは測らない、っていうやり方でどう?」
中途半端な理由なのならばこんな折衷案も受け入れてもらえるのではないか。そう考えた末の結論だ。
……なんかどことなく、酒嫌いな人を飲み会に誘う時に「飲まなくていいから」って言って誘う、みたいなのと同じような雰囲気はあるが。
「それ、「俺達も測ったんだからお前も測れよー」みたいな空気になりません?」
「……そういう同調圧力、私は嫌い」
「あははっ。そうですか……ありがとうございます、センパイは優しいですね」
「……この場で一番優しいのはリオネーラ。悪ふざけのフリして私の失言をフォローして、エミュリトスさんの本音を引き出して、私に謝るチャンスをくれた。そうして全部丸く収めてくれた。ありがとう」
「あの、ミサキ、そうやってマジメに全部説明するのやめて、恥ずかしいから。ホント恥ずかしいから。気づかれない方がかっこいいのよこういうのは」
「……ごめん」
「でも、センパイの言う通りです。リオネーラさん、ありがとうございます。さっきは怒ってごめんなさい」
「……気にしなくていいわよ、あのくらい」
二人の謝辞にそっぽを向きながら答えるリオネーラ。その頬は赤い。そんな微笑ましい光景を見ながら、教頭は思う。
(……ふむ、意外と良き友人に恵まれているようですね。あのアホ校長をして「変わった子」と言わしめるくらいでしたから心配でしたが……)
教頭なりにミサキという問題児のことは気にかけていたのだが、どうやら杞憂のようだ、という結論に達した。まだまだ彼女に未熟で不安な点は多いものの、良き友人さえいればそんなことは何の問題でもない。足りない部分を自分達教師が補えば済む話だ、と。
特にリオネーラという文武共に長けた優秀な子の存在は大きい。彼女がいれば大抵の事はなんとかなる。一方のエミュリトスは精神的に未熟な面こそ目立つものの、クエスト経験者である事を教頭は大きく買っていた。現場を知っているというのは大きな強みである。
そんな彼女が何故ミサキを先輩呼びしているのかについては教頭は考えない事にした。考えない方がいい気がした。良い勘をしている。
「……では、後程三人で測りに来るという事でよろしいですね?」
「「「はい」」」
「わかりました。昼休みにでも来て下さい、ちゃんと開けておきますので。それでは失礼」
メガネをクイッと中指で上げつつ、教頭は去っていった。実によく似合っている。
最近あまりにも寒いので暖房ガンガンかけてパソコンで書いてたらブレーカーが落ちました。もちろん保存してませんでした。遅筆なので量はそうでもないとはいえ精神的ダメージは大きかったです。
こまめなセーブ、ホント大事。
※ドヤ顔でバングルと書いてた所をブレスレットに変更しました(2/12)




