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優しい教室


◆◆



「そういえばセンパイ、昨日の決闘のおかげでレベル上がったんじゃないですか? 席、替わります?」


 教室に着いて着席するや否や、前の席であるエミュリトスが振り返りながら言う。

 レベルと席順の関係はミサキが居ない間にエミュリトスにも説明されていたらしい。ミサキはそれを察しながら首を振る。


「……いい。一番後ろの席が好き」


 窓際の一番後ろの席。これもまた、ミサキにとって前世で叶う事のなかった小さな憧れであった。

 このクラスにおいてはその席は最弱である事の表れであり、不名誉な物なのだが……ミサキは一切意に介さない。それを見てエミュリトスは小さく微笑んだ。


「そうですか。その気になったらいつでも言ってくださいね」

「うん、ありがとう」


 礼は言ったが、当分は替わる気にはならないだろうな、とミサキは思う。ただ、話の流れで今の自分のレベルが少し気になった。

 しかしレベルを測るには教員の立ち会いが必要である。つまりボッツに頼み込む必要がある。いや、他の先生でも良いのだろうが、クラス担任に頼むのが早道かつ自然なのは明らかだ。なのでボッツ相手に交渉する方向でミサキは頭の中でシミュレートし――


(……また絡まれるとめんどくさいな、やめておこう)


 結果、スッパリと諦めた。



 一方。教室内では他の生徒達も当然談笑している。全員寮暮らしなので到着時刻にはさほど差は出ないのだ。


「ふっふっふ、リオネーラさん! 貴女との決闘に備えてわたくしが何の特訓をしていたかご存知ですか!?」

「そりゃ同室だからね……部屋でやってた分については知ってるわよ」

「ふふ、流石に決闘相手の研究には余念がないですわね! それでこそ我がライバル!」

「……何か嵌められた気がする」


 ミサキ達の対角に位置する席ではどこか間の抜けたやり取りが繰り広げられている。やはり絡み癖は無くならなかったようだが、サーナスから必死さは抜け、リオネーラの対応も少しだけ柔らかくなっている。

 元々リオネーラの所に集っていた周囲のクラスメイトも「サーナスさん決闘するのー?」などと会話に割って入ったりしているので総じて少しだけ良い空気になったと言えるだろう。

 それを成したのは(あくまで結果論な上に様々な偶然に助けられたとはいえ)他ならぬミサキである。よって今回、彼女は自身の望みである『人助け』を成し遂げたと言えるのだろうが……


(……私がその一端を担えたのだとしたら嬉しいけど……どうなんだろう)


 当の本人はイマイチ自信が持てていないのだった。





 そうして迎えた朝のホームルームの時間……だが、何故かボッツだけではなく教頭も共に姿を現した事で教室が少しだけ不穏な空気に包まれる。


(……そうだ、丁度いいしレベルは教頭先生に測ってもらおう)


 約一名を除いて。


「あー、そう身構えるなお前ら」

「大した事ではありません。少し予定を前倒しして『学院公認クエスト』を開始する事になりましたので、その連絡です」


 クエスト、というその言葉に思い当たる者は結構いるようだ。ミサキも先日その言葉だけは耳にしているし、前世の知識で少しだけなら想像も出来る。


(本来の意味は探索・探求、あるいはそんな旅の事……だけど、この場合は課題や依頼の方か。ミッションとも言う方)


 彼女はゲームをするよりは本を読む少女であったが、決してゲームに触れなかった訳ではない。ディープなものではないがちゃんと知識もある。腐っても現代っ子である。

 もっとも、無駄に時間泥棒なゲームだと判断した場合はチュートリアルだけで止めてしまう事も多かったのだが。


「さて、学院公認クエストについてですが……ハンターズギルドでクエストを受けた事のある人なら大体の流れは想像つくと思います」


 教頭のその言葉に数人が頷く。その数はそう多くはない……が、ミサキは見た。前の席の少女――エミュリトスも小さく頷いていたのを。


「とはいえ受けた事のない人の方が当然多いでしょう。よってボッツ先生の授業の時に一通りの流れを教わってください。それと――」


 そこでチラリと一瞬だけミサキに視線をやり。


「今日から解禁されたからといって今日から受けねばならないという訳ではありません。卒業に必須という訳でもありませんので、焦らず実力をつけ、必要な時にのみ自分の実力に見合ったクエストを受ければ充分です」

(……でも、私は借金を返さないといけないし)


 その視線の意味するところを理解できないミサキではない。が、受け入れられるかといえばまた別だ。


「そもそもクエストと言っても学院にあるのは安全なものばかりですからね。力試しと考えず、あくまで放課後の金策の手段の一つとして考えるように」

「質問があります、教頭先生。……いや、『エルフの若き賢者』の二つ名でお呼びした方がいいでしょうか?」


 みたびリオネーラの列の3番目に居る男子生徒が口を開く。もはや情報通なのか知識自慢したいのかわからなくなってきた。

 ちなみにそんな彼の名前はトリーズ・エルズリバーといい今は少ない巨人族なのだが別に覚えなくていいです。


「今の私は教頭なので教頭とお呼びください」

「あ、はい」


 実に素っ気ない返答である。


「で、何でしょう?」

「はい、何故予定を前倒しする事になったのかが気になりまして」

「あぁ……大した理由ではありません。想定よりお金に困っている生徒が多かったのと、想定より学院側の人手が足りなかっただけです」


(学院の人手が足りないって……それは大した事なんじゃ)


 意外と他の人よりも校内をうろついているミサキであるが、確かに学院の面積・規模に対して職員の数が少ない気はしていた。

 ディアンが保健医として駆り出されているのと同じような事態が学院の各所で起こっているのであればそれは大事である。……しかし、教頭は言い切った。


「ぶっちゃけますと校長が何の仕事もしないせいです。あのハゲいつか殺す」


「「「「…………」」」」


 流石にツッコミを入れる人も(ボッツ含め)誰もおらず、それどころかクエスト解禁前倒しの理由が「校長の尻拭い」というとんでもなく情けない理由である事が明らかになったわけだが……


((((……なるべく受けてあげよう))))


 多くの者はそんな優しい気持ちになったという。



総合評価の数値がだいぶ増えてきました、感謝感激雨あられです

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