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第二部完とタイム○カンは似ている


◆◆



 いなくなった時と同様、いつの間にか姿を現したディアンによって授業の終了が告げられ、四人はそのまま教室を経由して寮に戻った。

 道中の彼女らの雰囲気は以前とは大きく異なっていた、と遠目に見た者達は口にする。理由はもちろん、エミュリトスがミサキを慕うようにピッタリくっついて歩いている事と、サーナスが爽やかにリオネーラに絡んでいるから、だ。

 ついさっき見せ場を奪われた悔しさからか結局絡み癖は治らなかったようだが、ギリギリ健全なライバル関係に見えなくもない、という事でミサキはこれで良しとした。リオネーラも前ほど邪険にしていないようだし。


 なお余談だが、ミサキ本人の雰囲気は何も変わっていないものの周囲の彼女を見る目は僅かに変わっていたりもする。

 残念ながら良い方向にではなく、「お嬢様然としたサーナスに金をぶつけて勝つという悪趣味な勝ち方をした奴」という風にだが。


 ……ともあれ、そうこうして寮に辿り着いた時、いかにもこの瞬間を待ってましたと言わんばかりの演技がかった動きとドヤ顔でサーナスが告げた。


「リオネーラさん! 一週間後にわたくしと勝負してくださいまし! 実力だけが頼りの純粋な決闘ですわ!」

「えっ、まぁいいけど……」


 爽やかに正々堂々の勝負を挑まれて断る理由はない。疑問はあったが。


「ふふ、「なんで一週間後?」って顔をしてますわね? わたくしが特訓するからですわ! 一週間後、見違えるまでに成長したわたくしを見て驚き慄くといいですわ!」


(((至って普通の理由だ……)))


「いや、そうじゃなくてね。サーナス、あなた、あたしと同じ部屋なのになんで今このタイミングで言ったの?」

「……えっ?」

「同じ部屋よね? まぁ、昨日はあたしがミサキの部屋に避難しちゃったけどさ」

「えっと…………」

「…………いや、単に勢いで言っちゃったってだけなら別に――」

「しょ、証人が欲しかったからですわ!」


 決闘を申し込むだけならどこでもいい。どこでもいいなら今この場でも別に問題はないのだが、そこを尋ねられたからには尤もらしい理由をつけなくてはならない。ド忘れを誤魔化すためにも。

 たとえそれが自分の首を絞めるだけの理由であってもやむを得ないのである。ド忘れを誤魔化すためには。恥ずかしいド忘れを誤魔化すためには!


「……私達が証人?」

「そうみたいですね、センパイ」


 なお証人と言われた二人はよくわかっていない模様。


「証人って何すれば?」

「見届ければいいんじゃないでしょうか」


「そうそう、あたしが見違えるまでに成長したサーナスを見て驚き慄いてあげるから、そこを見届けてくれればそれだけで」

「何ですのその哀しいヤラセ劇。見届けるのは、け、決闘でいいのですけど! っていうか「驚き慄いてあげる」って上から目線ですわね!?」

「ち、気づかれた。じゃあヤラセじゃなく素で驚かせてくれるんでしょうね?」

「あ、当たり前ですわ! 一週間でレベル60になってみせますわ!」

「……ゴメン、煽ったのはあたしだけどさ、その煽り耐性の無さは心配になるから気をつけなさい……」


 自分で自分の首を加速度的に絞めていくサーナスであった。

 一方、話の流れでミサキはエミュリトスに確認を取っておかなくてはいけない事があったのを思い出す。


「……そうだ、部屋といえば、エミュリトスさんは私と同じ部屋だけど……いいの?」

「え、そうなんですか? やったー!」

「………」


 彼女の慕いっぷりを見ていれば予想出来た反応ではあるが、ぼっち部屋を覚悟していたミサキとしてはやはり嬉しいものだった。

 ぼっちでも構わないというのも本音だが、リオネーラと同じ部屋で寝るのも楽しかったので折角なら誰かに一緒に居て欲しかったりもしたのだ。


「……あの、ご迷惑でしたか?」

「ううん、そんな事はない。これからよろしく、エミュリトスさん」

「は、はい!」

「……あとこれ、返しておく。ありがとう、本当に助かった」


 色々な事があってタイミングが掴めず先送りになっていたが、その場の勢いで借り物のペンダントを返す。貸してもらった時のように相手の首にかけて。

 すると何故かエミュリトスの頬に朱が差す。ミサキは首を傾げたが、彼女は何やらもじもじしながら口を開くのだった。


「…えへへ、大事にしますねっ!」

「……元々貴女の物なんだけど?」





 同居人が決まれば後は荷解き、部屋づくり。エミュリトスの荷物は地味に多く、それなりの時間が掛かった。

 ミサキも手伝って時間をそれなりに潰した後、食堂で夕食。そこから自室で多少のんびりした後は風呂の時間である。


「センパイ、お背中流します!」

「お断りします」

「しょんぼり」


 自分で出来る事はなるべく自分でしたい、それがミサキのポリシーだからしょうがない。

 そうして順番に入浴した後、疲れの残るミサキは挨拶も程々に早々にジャージ寝の世界へ旅立ったのであった……



「……えへへ、センパイの寝顔……」


 一方のエミュリトスはなかなか寝付けなかったようだが。



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