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どうあがいても、年上



「お姉さま……」

「…………えっと………リオネーラ、通訳して」


 その後のサーナスとのアレコレはどうなったのだろうかと気になりもしたが、目の前にある理解不能な不可思議現象も流石に捨て置けず、助けを求める。

 運良く彼女もその光景を見てくれていたようで、即座に答えを返してくれた。


「一言で言うなら、懐かれたみたいね」


 一言でそう説明した瞬間、リオネーラの背後からガリッという音が響く。何かが砕けたような……何かを噛み砕いたような……そんな不気味な音。そして更にボソボソと謎の呟きが続く。


「羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい妬ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい……」


 一応言っておくとリオネーラの後ろに居るのはサーナスだけである。どんな表情をしているのかは言及を避けさせていただくが。


「……リオネーラ、今は後ろ向かない方がいいよ」

「も、もちろんよ!」


 一見すると得意げに笑っているリオネーラだがその笑顔は引きつっている。レベル50といえども人の狂気は怖かった。


 同時に流石のミサキもこの妬心をそのまま受け止めるのは危険だと理解していたし、っていうか表情に出ないだけで普通に怖いし、出来れば受け止めたくない。

 そもそもエミュリトスからそこまで慕われるような事をした記憶も自覚もない。手も足も出なかった相手に運任せの不意打ちで勝っただけだ。そのあたりについて一度話し合う必要があるだろう。


「……エミュリトスさん。仲良くしてくれるのは嬉しいけど、全部そのままは受け止められない理由が3つある」

「……はい」

「……まず、そもそもそんな極端に慕われるような事をした自覚が私には無い」

「絶望的なレベル差を覆して勝った。それだけではダメですか?」

「……レベル差なんて関係ない運任せの不意打ちで勝っただけ。勝った事自体は誇るとしても、戦い方も無様だったし慕われるような要素は無いはず」

「だから、勝ったから、ですよ。絶望的なレベル差を覆す為の、レベル差なんて関係ない勝ち方。強さはレベルだけでは測れないという事実。それを見せてくれただけでお慕いする理由としては充分です」

「………」


 買い被りだ、とは思う。が、勝利したという揺るぎない事実が理由ならばどう言い訳しようとも否定しきれない。他ならぬ自分自身が宣言し、勝利を狙ったのだから。


「……じゃあ、次。私についてくると言ってくれたけど、私の方がレベルも年齢も知識も経験も下だから学べる事は無いと思う。多分、すぐに失望する事になる」

「その時は尊敬するお姉さまの為に尽力を惜しみません。あなたの力になれるならそれ以上の喜びはありませんから」

「………」


 リオネーラに続き、親切な子が助けてくれるのはありがたい事である。言い方がすごく重いけど。親切というより奉仕とか隷従みたいだけど。


「……最後。繰り返しになるけど、私の方がレベルも年齢も知識も経験も下だから、その『お姉さま』っていうのは不適切だと思う」

「でも見た目的には適切ですよ?」

「……とても居心地が悪い。私が」


 マリア様が見ていたらまだ少しはその呼び名に抵抗も無かったのだろうが、ミサキは生憎読んだ事は無かった。

 読書好きなのに名著を読んだ事がないというのは不自然かもしれないが、生前のミサキ――御崎が一人娘であった事と年齢を考えればそこまでおかしな事でもない……はず。

 まぁとにかくそういう訳でお姉さま呼びはミサキの望む所ではなかった。残念ながら。

 それどころか――


「……というか、そんなに簡単に姉妹になれるものなの? 手続きとかは?」


 それどころか知識の無さから素でこんな事を言ってしまう始末である。


「……えっと、正式に姉妹になるとか家族になるとかそういう意味ではなくてですね。心のつながりというか、姉妹のような親密な関係になってください、みたいな……? い、いざ説明するとなると恥ずかしいですね!」

「……ごめん……よくわからなくて」

「いえ、上手く説明できないわたしが悪いんです。いっそわかりやすく『ミサキさま』にしますか?」

「……悪化した気がする。今まで通りで」

「でもさん付けでは足りないんです! 敬うパトスが!!」

「そ、そう……」


 っていうかパトスって何やねん。


「うぅ、何かないんですかぁ、ミサキお姉さまに抵抗がなく、かつわたしの敬愛っぷりを表せる言葉は……」

(……本気で落ち込まれると流石に可哀想に見えてくる)


 まぁ、言ってる事は突飛すぎてアレだけど見た目は幼い女の子なのだ、落ち込まれると同情したくもなる。悪い事を言っている訳でもないし。

 それに、そんな言葉に心当たりがない訳でもない。年上から呼ばれてもギリギリ許せて、かつミサキ自身も一度は呼ばれてみたかった呼び名がない訳でもない。かなり無理がある事に変わりはないが。


「……百歩譲って『先輩』かな」


 前世でなら年上の後輩からそう呼ばれる可能性はゼロではなかった。この世界ではリオネーラ曰く寿命の違いからあまり年齢は気にしないらしいし、元より入学が一日遅れたという理由だけで敬語を使うような子だ、百歩も譲ればギリギリセーフだろう。


 ……とミサキは考えたのだが。


「……せんぱい? って何ですか?」

「……ん、知らない?」


 そういえば海外はそこまで上下関係に厳しくないと聞いた事がある。先輩・後輩のような意味の言葉がそもそも無いとか。勿論国にもよるのだろうけど。

 ともかく、横文字満載のこのファンタジー世界の文化はやはり海外寄りのようだ。


(困ったな……)


「……いや、本で読んだ事があるような気がしますわよ。確かどこか遠くの国で主に使われていた言葉で……」

「そうね、師匠と弟子みたいな上下関係の言葉で、上の者が先輩、下の者が後輩だったはずよ。師弟よりはゆるい感じで」

「わたくしが言おうとしたのにぃ!」

「あ、ごめん……」


 前述の通り先輩後輩という概念はこの世界では全く浸透していないが、知識に長けるエルフであるサーナスと純粋に物知りなリオネーラは知っていたようだ。

 なお見せ場が訪れたおかげかミサキが「お姉さま」に対しマヌケな反応をしたおかげか、サーナスの嫉妬はどうにか引っ込んだようである。よかったよかった。まぁ肝心の見せ場はリオネーラに横から奪われちゃったけど。

 ちなみにエミュリトスは二人の説明を受けて目を輝かせまくっており、どうやらミサキの望みは叶いそうな感じである。


「上下関係…! それなら大丈夫です! わたしはミサキセンパイの下ですから! よろしくお願いしますね、センパイ!」

「……うん」


 頷いた。頷いてしまった。年上の人に先輩と呼ばせ、それを良しとしてしまった。

 罪悪感が無いはずがない。でも、


(……いい響きだなぁ、先輩って……)


 一度は言われてみたかったその言葉の響きに酔っていたのも、また事実だった。



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― 新着の感想 ―
[一言] お姉さまでワロタwwww
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