ルビ機能マジ便利
「ところで話は戻りますけど、もうひとつ疑問がありますの。最後に貴女、変な防御の仕方をしましたよね……あれは何が狙いだったんですの?」
「……あれは……これ」
気づかれていた事に驚きながら、胸の辺りに手をやる。その下にあるのは心臓……というわけではなく、もう少し上。そこにはエミュリトスが貸し与えたペンダントがあった。
「借り物だから」
(自身の身よりも借り物の安全、ですか……)
普通ならば馬鹿げた選択である。だが、ミサキは攻撃が失敗した時点で自身が反撃を喰らうことを想定したプランに切り替えていたのだから間違ってはいない。
ついさっきまで危ない顔をしていたにも関わらず素早くそう理解するサーナスも流石は賢きエルフと言ったところか。
(っていうかドワーフの女の子もあんなに可愛かったんですのね、お近づきになりたい……)
……頭の切り替えが早いのも賢さの証明と言える。こんな形での証明は見たくなかったが。
「……ところで、授業はどうなってるの? リオネーラ達も戦ってるなら応援したい」
「今日はわたくし達と同様、決闘形式ばかりのようです。見に行きましょうか。よろしいですわよね、先生?」
何食わぬ顔でミサキの疑問に返答し、相変わらず距離を取って空気に徹していた養護教諭――ディアンに目をやるサーナス。
ミサキも気づいてはいたがわざわざ自分からその事に触れる必要もなかったので放置していた。実際、ミサキの視線を感じてディアンは少し身体を強張らせている。
(……どうしてこの先生にだけ……いや、他の先生達が豪胆すぎるだけでこれが普通なのかもしれないけど)
「え、ええと、構いませんけど……行く必要はないかもしれませんよ?」
「どういうことですの?」
「目当てはリオネーラさんとエミュリトスさんですよね? 二人ならこちらに向かっている最中のようです」
「……わかるのですか? 凄い人ですわね……」
どういう原理で二人の位置を察知しているのか気になるところだが、ミサキが尋ねても教えてくれるかは怪しい。
いや、教師である以上は本来ならちゃんと教えないといけないのだが。恐れられているのなら仕方ないか、と考えつつあるミサキは徐々に魔人扱いに慣れてきているようだった。
そして少し経った後、保健室の扉が開きディアンが述べた通りの二人が姿を現す。
「あらミサキ、目が覚めてたのね、良かった」
「……うん、ついさっき」
「エミュリトスの回復魔法が凄かったから心配はしてなかったけど、気になってはいたのよ。どう、調子は?」
「……大丈夫、筋に――元々あった痛み以外は全快してる。ありがとう、エミュリトスさん」
「い、いえ……あの、『それ』は回復魔法で治せない事もないんですけど、無理して治さない方がいいらしいので」
「……そうなんだ、わかった」
「……『それ』って何ですの?」
「…………」
「あ、いえ、失言でしたわ……ミサキさんを抱えた時、あまりの軽さに驚きましたもの。過去に色々あったのですよね、忘れてくださいまし」
何と誤魔化そうか悩んでいただけなのだが気を遣わせてしまい、少し申し訳ないと思うミサキ。
(とはいえサーナスさんの前で筋肉痛の話はしたくないし……ここはその気遣いに甘え、話を変えるべきか)
そんな風に思案する彼女はエミュリトスの様子が今までと少し違う事には気づかない。そのまま方向転換の為に自分本位な話題を振る。
「……ところで、今日は決闘形式の授業らしいけど二人の試合はどうだったの?」
「あたしはサーナスと似たようなハンディキャップ貰ったけど勝ったわ」
「見たかった……」
「圧勝でしたよ。ホントすごかったです」
「へぇ……エミュリトスさんは?」
「わ、わたしは相手が棄権してしまって……フェアリーの人だったので」
「妖精族は極度に争いを嫌ってるからね。大戦の時も前線には出なかったと聞くし。先生もそこは諦めてるというか認めざるを得ないというか」
「ふーん……」
前世で言うなら「宗教上の理由」みたいなものなのだろう、とミサキは納得する。わりとあっさり戦いを受け入れた彼女であるが、争いを嫌う気持ち自体はわかるのだ。
異世界育ちの皆ももちろん同様。戦いに抵抗は無いし、それを手段として行使する事もあるが、争いを嫌う者の気持ちを理解できる優しさはちゃんと持っている。そこはリオネーラに勝負を吹っかけまくっていたサーナスでさえ例外ではない。
「……そうだ、ねぇリオネーラ。サーナスさんはそこまで悪い人じゃないよ。……たぶん」
「たぶんって」
そこまで悪い人ではない。性格はアレだし、アレな人ではあるが。
「……少なくとも、リオネーラの事を嫌っての行動じゃないらしいから」
少なくとも悪意はない。リオネーラも察してはいるのだろうけど、それでもちゃんとハッキリさせておいたほうがいいはず。
それが二人の関係の『助け』になるはずだ……とミサキは信じ、サーナスと向き合った。




