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異世界入学式の席順はまさかの先着順


☆☆



『――転生に際し、せっかくですから何か特典も付けてあげましょう。得意な事や好きな事はありますか?』

「……そうですね……本を読む事や、勉強する事……要するに『何かを知り、学ぶ』のは好きです」

『ふむふむ。でしたら何かそれに関するスキルを――』

「いえ、そういうのは必要ありません。知るのが好きなので何も持っていない方が都合がいいです。スキルとやらも、転生先における一般的な知識さえも」

『むむむ……それが貴女の『したい事』なら仕方ないですね。転生させる女神としては立場がないですが。でも貴女、それはそれで問題ですよ?』

「どう問題なんですか」

『13歳くらいまで生きていれば、日常生活の中だけででも何かしらのあの世界ならではの知識を得、経験を積んでいるものです。つまり経験値を得ている。よってレベルが上がっている。しかし貴女はそれをいらないと言う』


『年齢は重ねているものの身体は貧弱、知識も何も持っていない……つまり転生した貴女は『歳不相応な・不自然なレベル1の人』という事になります』



◆◆



(……あ、そうか。私の外見について何も忠告してくれなかったのは、そもそも私が自分の身で知りたいと言ったからか)


 少しばかりデメリットが大きすぎる気はするが、それでも一応は自分の意思を尊重してくれていたのだ。怒るのは筋違いというものだろう。

 ごめんなさい、自称女神の人。

 とミサキが心の中で謝ったと同時に入学式が始まり、講堂の壇上に誰かが立って――いや、「誰」と言っていいのかわからないが……その……

 

「えー、新入生諸君。記念すべき第一期生諸君。まずは入学おめでとう。ワシが校長のスカルだ。気軽にスカル校長と呼んでくれたまえ」


 ガイコツが立って喋っているのだ。

 見た目はガイコツ、名前はスカル。そんな人(骨?)が壇上で語っている。スーツっぽいの着て。


「見ての通りワシはアンデッド、不死族でな。長生きするからという理由だけで校長に選ばれた。もう生きてないのにな! ハッハッハ!」

(……これ笑う所なの?)

「あー、もちろん名前は偽名だ、申し訳ない。ワシも若い頃はヤンチャでな、生前の名は伏せておきたいのじゃよ。既に死んでるのにお礼参りに来られてもかなわん。それよりも墓参りに来いってな! ハハ!」

(え、これ笑っていいの? 失礼に当たらない?)


 ミサキとリオネーラだけでなく、新入生全員が戸惑っている。つまり誰も笑っていない。いたたまれない悲惨な空気である。


「ふむ、皆緊張しているのかな? まあ無理もない、この学院は言わば異文化交流のために作られた学校。ワシのようなアンデッドに会った事のない子もいるだろうし、そもそも今、この場で隣にいる子さえ同じ種族とは限らない」


 なんか都合よく勘違いしてる校長(スカル)の言葉に釣られ、新入生のうち数人はチラチラと周囲を見回す。

 ミサキも隣に座るリオネーラを見た。自分は人間で、リオネーラはハーフエルフ。確かにスカル校長の言う通りだ、と納得する。

 ついでに先程「第一期生」とも呼ばれた。これでリオネーラの言っていた「皆同級生」の意味も理解できる。この学校は今年創立されたという事だ。

 そしてこの学校の目的は異文化交流らしい。それが真実なら自称女神が何故このカレント国際学院を選んだのかも得心がいく。確かにここなら多くの事を学べるだろうから。


「異文化交流が上手くいくものかという不安は当然あるだろう。ワシにだってある。だが最終的には上手くいくと確信しておるよ。我々は既に一度、手を取り合ったのだからな」

(……既に一度?)

「10年前の人魔大戦。我々は手を取り合い、結託し、魔族と戦った。一度は奪われた平和を取り戻し、魔族と講和条約を結ぶまでに至った。この学院はその延長線上にある。だからそう難しくはないはずだ」


 新入生の何人かは頷いている。その『大戦』と、その結果もたらされたモノに何かしらの想い入れがあるのだろう。恐らくは良くも悪くも。


(大戦……戦争、か。私の知らない世界の知らない歴史。やっぱりこの世界にもいろいろあるんだな……)


 ミサキにとっては知らない事ばかりではあるが、それでも校長の話を聞く限り平和を尊ぶ気持ちは同じらしく、彼女はホッとしていた。


「というわけだ。諸君、大いに学びなさい。この後は教頭の話や職員紹介などもする予定だったが取り止めだ! 早々に教室に戻り、共に学ぶ者達と交流を深めなさい!」

「なッ!? ちょっと校長、何を勝手な!」


 明らかに式のプログラムを無視した校長の言動に教員席の最前列の人が声を挙げて抗議する。が、あんな事を宣言した人(?)が聞く耳を持つはずが無い。


「これ以上くだらん話を続けても眠くなるだけじゃて! 校長命令だ、解散! 帰らんと魔法で吹き飛ばすぞ!」

「あんたがその魔力で暴れたらシャレにならんだろうが! このハゲ! 死ね!」

「もう死んどるわーい! うほほーい」


(……なにあれ)


 さっきから必死に止めてる耳の尖ったメガネの人が教頭なのかなぁ、と、ボケーっと眺めながらミサキは思う。

 いやしかし実際、睡魔に弱い事を自覚している身としては堅苦しい話が続いて眠くなってしまうといろいろ困る、というのは一理ある。学ぶのは好きだしこの世界の歴史にも興味はあるが、それでも効率的に学べるのは睡魔に勝てる状況に限るのだ。

 特に今日は体力的にも疲れているし。こういう日は睡魔に襲われやすいものだ。何故疲れているのかと言われれば、それは――


「……えっと、ミサキ、さん。大丈夫?」

「……何が?」

「無理しなくていいわよ、ここまで一緒に来たんだからわかるわ。そんな身体だし、体力無いんでしょ」


 リオネーラの言う通りだ。今は純粋に体力が無い上、久々に『歩く』という行動を取った事で、ミサキは若干の疲れを感じていた。

 彼女自身は表に出していないつもりだったが、目ざといリオネーラは当然のようにその事に気づいていたのだ。凄いな、と感心しつつミサキは正直に答える。


「……大丈夫。動けないほどじゃないから。パンも貰ったし」

「そ。じゃあ一緒に最後に出ましょうか」


 校長がうほほーいとか言いながら講堂を飛び出し、教頭らしき人もそれを追って飛び出した事で自然と解散の空気になり、ポツポツと人の姿は減っていっていた。

 一見自由すぎるようで次の行動はちゃんと指示されているため、教師も生徒も特に困ってはいない。まぁ戸惑ってはいるが。


「……先に行ってていいのに」

「ちょっと自慢するけどね、あたし、今年の首席合格者なのよ」

「へえ……すごい」


 そもそもどういう入学試験があったのかすら知らないが、知識も体力も無い自分より遥かに優秀なのだろう。ミサキは素直に尊敬する。


「だからまあ、こうやってちょっとは余裕のある行動したっていいんじゃないかってね」

「……でも、あまり迷惑をかけてしまうのはこちらとしても申し訳ない」

「別に迷惑とは思ってないけど、借りを作るのが嫌な気持ちはわかるわ。だから元気になったら何かしらのカタチで返してもらうわよ」

「元気になったら……か。わかった、待ってて」


 ミサキは少しだけ自分の手を見つめた後、拳を握り、言う。

 人助けがしたい、そう言いながらもリオネーラに迷惑ばかりかけている自分が情けないという気持ちはある。でも今はまだ助けてもらうべき時期であり、学ぶ時期であるというのも自覚していた。

 そもそも何も出来ないレベル1の人間としての転生を望んだのは他ならぬ自分だ。弱くて無知で、情けない人間としての転生を望んだのは他ならぬ自分なのだ。

 だから今は、意地を張らずリオネーラに助けてもらおう。リオネーラからいろいろ学ぼう。そして知識と力をつけ、いつかリオネーラを助けよう。パンの借りと一緒にちゃんと返そう、絶対に。

 ――そう彼女は胸に刻んだ。



 ……なお余談だが、リオネーラは首席合格者として新入生代表挨拶をする予定だった。もちろん校長のせいでお流れになったが。


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