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開戦オチ




「さて、肝心の決闘のルールだが。教室を出る時に測ったところ、魔人のレベルは6、サーナスのレベルは29だったな」


 今回はハンデ戦であるため事前にボッツによって全員レベルを測られていた。脳筋の筈なのにこのあたりは抜け目なく、しっかり教師をしている。

 地味にミサキのレベルが上がっていてサーナス含む一部から驚かれたが、これは単に昼間にリオネーラ達と特訓した結果だ。


「実に23もの開きがある。この差では相当のハンディキャップがないと対等な試合は成立しないのはわかるな?」


 ミサキにはその「相当の」というのがどの位かはわからなかったが、致命的なレベル差なのはわかっているので頷いた。もちろん他のクラスメイトも同じように頷いている。


「よってサーナスには物理攻撃禁止、魔法攻撃の威力八割減、使用可能魔法三種類までの制限をかける」

「……八割って相当な気がしますけど」

「それでもお前だと二発耐えられるかどうかって所だぞ」

「そんなにですか……」

「更にサーナスは移動禁止の上、魔人の攻撃を一撃でも喰らった時点で敗北とする。魔人側には一切の制限は無し。体力が尽きるまで好きに戦え」


 サーナス側のあまりのハンデの重さにミサキが周囲を見回すが、ボッツの言葉に異論を唱える者は居ない。誰から見てもここまでしてようやく対等だろうという事だ。

 サーナス本人も何も言わず頷いている。八割減くらいで異論を唱えたミサキがいかに世間知らずかという事でもあった。


(ここまでのハンデを貰ったんだから勝たないと……と思う気持ちもあったけど、これでようやく対等だと言うなら軽率な行動を取ったら即敗北なんだろうな。厳しい勝負には変わりないか)


 異世界人である自分の感覚がズレている事をちゃんと自覚し、自分以外の人達の物差しを信用する事が出来るのが黒霧御崎という少女である。

 何故それが対人コミュニケーションに活かされないのかは謎である。


「……ボッツ先生。私が当てる一撃は何でもいいんですか?」

「っつーと?」

「……剣や魔法の攻撃は当然として、指先が触れるだけだったり、投げた小石が当たっただけ、とかでも攻撃になりますか?」

「お前がそれを狙ったのなら何でも構わん。流石に息や風で撫でるだけ、等は認められんが。顔面にツバを吐いてもOKだ」


「いくらわたくしが好奇心から決闘しようとしてるとはいえ、ツバはちょっと……」

「しないから」


 実際の戦場では起こり得る事かもしれないが、流石のミサキでもクラスメイト相手にそんな汚い手段(いろんな意味で)を使うのは躊躇われた。

 っていうかツバの話に好奇心のくだりを持ち出すサーナスも少しおかしい。


「他に質問は?」

「………」


「わたくしからも一つ。使用魔法は三種類までとの事ですが、何を使っても良いのですか?」


 考え込むミサキを尻目にサーナスも質問をする。重要な質問を。


「一撃でこの魔人が消し飛んで骨も残らないような魔法は流石に勘弁してやってくれ。俺が治せる範囲の威力の魔法であれば何でも好きに使え」

「威力……ですわね。ふふっ、わかりましたわ」


 何か作戦が頭の中に浮かんだのだろう、意地の悪い笑みを浮かべるサーナス。

 一方、考え込んでいるとはいえ人付き合い以外では頭の回るミサキである、サーナスが何かを企んでいる事までは察したのだが……流石に異世界生活二日目では答えまでは導き出せない。

 だが、彼女の友人二人は違った。エミュリトスがミサキに向かって走り、ぴょんと跳んで素早く何かを彼女の首にかける。


「……?」


 ミサキはそれが何かを確認しようとしたが、その何かはエミュリトスによって素早く制服の内にねじ込まれた為に確認する事は叶わなかった。サーナスにバレる事を警戒しての事だ。

 同様にサーナスにバレぬよう、小声で彼女は告げる。


「朝にお見せしたペンダントです。風魔法の他に状態異常魔法を使ってくるかもしれませんので」

「なるほど。ありがとう、終わったら返すから」

「は、はいっ……」


 ミサキの理解は早い上に正確で、同じように小声で礼を言った……のだが、その時ついうっかりエミュリトスの耳元で囁いてしまった為、彼女は若干顔を赤らめて引いてしまった。


「……ごめんなさい、ちょっと高さを合わせただけのつもりだったんだけど」

「あ、い、いえ、身長差ありますからしょうがないですよ……私ドワーフですし……」


 相手が年上な事を考慮し、幼い子を相手にする様に腰を落とすのではなく身体を僅かに前傾させて距離を詰めたのだが、それが裏目に出たようだ。

 もっと言うならば最初の時点で小声での会話は成立していたのだから距離を詰める必要さえ無かったのだが、まぁ小声で会話するとなるとどうしても距離を詰めたくなるものだしそれは仕方ない。


「……何やってんだか。ほら、エミュリトスはこっちに戻って観戦よ」

「あ、は、はい」

「がんばってね、ミサキ。勝てとは言わないけど応援してるわ」


「ありがとう。……なんか、だんだん勝たないといけない気分になってきた」


 アイテムを授けられ、応援され、勝敗に興味がないミサキでも流石に負けるのが申し訳なく思えてきた。

 それが良い事なのか悪い事なのかはまだわからない。肩肘を張ると裏目に出る可能性もある。だが少なくとも今、三人の間には良い空気が流れていた。


 ……ボッツの一言があるまでは。


「おいサーナス、状態異常は効かんかもしれんぞ」

「ちょ、せんせぇぇぇ!? せっかくの対策を何バラしてくれちゃってんですか!?」


 とっておきのアイテムの効果をバラされたエミュリトスが鼻息荒く食って掛かるも、ボッツは動じない。


「対策なんてモンは決闘が始まる前に済ませとけ。こうして決闘者が二人並び立った時点でもう決闘は始まってるんだよ」

「くっ……一見正論ですが屁理屈です!」


「先生、それでしたらせめてもう少し早く詳細なルールを伝えてくれれば……」


 エミュリトスよりは幾分か冷静にリオネーラも反論するが、やっぱりボッツは動じない。


「アクセサリーを装備して状態異常を防ぐなんざ常日頃から出来るだろ。むしろ常日頃からしておくべきだ。知らなかったなら今この場で覚えろ。その為に俺は『授業』をしてるんだ」

「っ……」

「ま、没収まではしねぇよ。それに何の状態異常を防ぐブツなのかまでは俺にも見えなかったからもしかしたら使い所はあるかもしれんぞ?」

「っ、そんなの……サーナスさんが状態異常魔法を使わなければ意味がないじゃないですか……!」


「……いいよ、二人とも。ありがとう。大丈夫、前向きに考えよう。これでサーナスさんは状態異常魔法を使いにくくなった、って」

「ミサキ……」

「ミサキさん……」


 物は考えようである……が、その効果はバレなかった場合より明らかに弱い。バレていなければ状態異常魔法を無効化した上で更にサーナスの魔法制限枠の3つのうち最低でも1つを潰す事が出来た筈なのだ。


「サーナスさんが状態異常魔法を使うつもりだったなら、だけど」

「も、もも、もっちろん最初から使うつもりなんて無かったので関係ないですわのよ?」

「……そう」


「「「「………」」」」


 クラス全員が生暖かい視線を送っているが何も言うまい。


「さァて、他に泣き言がないなら決闘開始と行くぞ? ――レディー……ファイッ!」



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