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ドリンク一杯でファミレスに長時間居座る勇気はありません

前回、コカトリスを魔物と書きましたがよく考えたらドラゴンやユニコーンみたいなファンタジー世界特有の野生動物と呼べない事もない気がしたので修正しました。

全国のコカトリスさんにご迷惑をおかけした事を深くお詫びいたします。




「それで、その、ミサキさん、どうするんですか?」

「……どうって、何が?」


 食後にエミュリトスが改めて問う事といえばひとつしかない。ミサキもそれはわかっているのだが、どう答えれば納得して貰えるのかがわからない為問い返す事しか出来ずにいた。

 エミュリトスもそれを察して出来る限り丁寧に自分の疑問を説明する。正確に察せるあたり、問い返すしか出来ないミサキより確実にコミュ力は高い。そもそもミサキ以下の人がいるのか怪しいが。


「ええっと……サーナスさんとの決闘が控えてるじゃないですか。レベル差もあるし厳しい戦いになりそうじゃないですか。せっかく時間があるのに、本当に何の対策もしないんですか?」


 ちなみに学食の机をそのまま占拠しての会話である。まぁ席はスカスカなので問題ないだろう。


「……繰り返しになるけど、ルールがわからない事には大した対策は取れないと私は思ってる。時間があると言ってもそれだけではレベル差を埋めるには到底足りない」

「……チラッと言ったのでこちらも繰り返しになりますけど、何かいい防具でも買うとかは?」

「借金してるからあまりお金使いたくない」


 食費は別だけど。


「しゃ、借金ですか、大変ですね……」

「うん」

「………」

「………」


「……あたし的には今からでもやめさせたいけどね、その決闘。巻き込んじゃった身としては」


 訪れた沈黙に上手くリオネーラが割って入る。が、吐き出したその言葉はミサキによって即座に否定された。


「繰り返しになるけど、あれはリオネーラのせいじゃない」

「……ん、ありがと」


「あ、あのっ! ミサキさんは決闘、嫌じゃないんですか?」

「……なんで?」

「その、失礼な言い方かもしれませんけど、今のリオネーラさんの言葉に乗っかれば決闘をやめれる可能性もあるわけで。でもミサキさんはそれをしなくて」

「うん」

「そもそも、ずっと嫌じゃなさそうに見えるんですよ。対策できない、勝ち目が無いと言っておきながら……何と言うか、やる気が感じられるというか……上手く言えませんが……」


「……ふむ、あたしならそこは『瞳の奥に闘志が宿ってる』とか、『その目は死んでない』とかそんな感じに言うかな」


 ブラックミストをカッコイイと評するそのセンスを活かして言い回しを指摘するリオネーラ。もちろん同様のセンスを持つエミュリトスは素直に同意する。


「おお、そうですそうです、かっこよく言うならそんな感じ! あっ、でも……」

「あー、そうよね……」


「……何?」


 二人はビミョーな視線をミサキに向ける。

 眼と表情が割と死んでるミサキ相手にその例えをしても説得力がないというか、むなしいだけだと気づいたのだ。


「うん、あたしが間違ってた」

「……?」


「……は、話を戻しましょう! 決闘が嫌じゃなさそうに見えるんですよ!」

「……まあ、嫌じゃないし」


 決闘を拒まない理由ならそもそもがミサキの失言のせいだというのがあるが、『拒まない』のと『嫌じゃない』のはまた別である。

 甘んじて受けるにしても嫌なものは嫌である。責任感と好き嫌いの感情は全く別のものだ。だから彼女は余計な事は言わない。……言葉少なに過ぎる気もするが。


「……勝ち目が無いと言いながら嫌じゃないんですか? 負ける戦いが嫌じゃないと? 全て相手の思惑通りだったとしても?」

「……何か得る物があればそれだけで充分。実戦で得る物はきっと多い。そこに勝ち負けは関係ない。だから嫌じゃない」

「……う、うーん……」


「……ふふっ」


 わかるようでわからないらしく頭を抱えるエミュリトスの横で、リオネーラは笑い声を漏らした。エミュリトスは驚いて視線を向けるが、リオネーラは決して彼女を笑ったわけではなく、


「ごめん、ミサキの考え方、あたしと似てて面白いなぁって。そうなのよね、『自分が強くなる』事に勝ち負けは関係ないのよね」

「……うん。実際、負けるのが嫌じゃないからエミュリトスさんの言うような『勝つ為の対策』に乗り気じゃないのかもしれない」


「そうですか……うーん、まぁ、理屈としては理解できるんですけど……」

「一応言っておくけど負ければ悔しいし勝てるなら勝ちたいわよ。それ以上に強くなりたいってだけ」

「あ、一応勝負に無頓着って程ではないんですね。優先順位の問題ですか」


 どうやらそれが辛うじて納得できるラインだったようだ。間違いなくミサキはリオネーラより勝負に無頓着なのだが、出会って二日目では流石に誰も気づかない。

 なお、勝ち負けに無頓着とは言ったが負け方には頓着する。強くなるために。


「……ただ、流石に手も足も出せずに無様に負けてしまうのは避けたい。あまり成長出来そうにないから」


「じゃあ、やっぱり対策……とまでは行かずとも何かしておいた方がいいのでは?」

「巻き込んじゃった身としても一方的にミサキが負けるのは見たくないわ。エミュリトスの言う事も一理あるし――」


 ずいっ、と身を乗り出してリオネーラが言う。


「とりあえずは今日の授業の復習でもしときましょうか」



いつの間にか初評価いただいてました、ありがとうございます。

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