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常識のある良い人ほど返事に困るやつ




 マルレラの時のようなトラブルが起こらないとは限らない、とリオネーラとエミュリトスは身構えていたが、結果的にそれは杞憂だった。


「ま、まぁ、人によっては反射的に攻撃しちゃっても仕方ないのかしらね。……店長さんには後で謝るとして、一応聞くけどミサキさん、貴女、本当に人間族なのよね?」

「……うん。少なくとも他の種族である自覚はない」

「そう……わかった、信じるわ。何度も念を押してくれた人柄もあるし……何よりあんな綺麗な声であんな丁寧な接客をしていた人だものね」

「……声は信用に関係ないと思うけど……」

「驚くほど綺麗な声だから驚くような見た目をしていても自然、とは言えないかしら?」

「どうだろう……でも、受け入れてくれるのは嬉しい。ありがとう」

「……たったこれだけの事で感謝されるなんて思わなかったわ。苦労してるのねぇ……。ま、そうよね、そうでもなければ顔を隠したりなんてしないわよねぇ……お顔は悪くないのに、もったいない」


 同情的な視線を向け、理解を示すエリーシャ。その視線に怯えの色は既に無い。自分の望みが招くであろう結果を受け入れる覚悟はちゃんと出来ていたようだ。

 なおミサキの外見――顔の整い具合については想像にお任せする。一応、この世界の人からは一目置かれているが……それだって西洋風の顔立ちと東洋のそれの違いからくるものなのかもしれない。想像にお任せする。


「ミサキさん、何か手伝える事があれば言ってちょうだいね。無理を言ってお顔を見せてもらったのだもの、元ハンターとして役立てる事なら力を貸すわ」

「……頼もしい、ありがとう。ひとまずエリーシャさんについていくつか質問してもいい? ……仕事の合間にでも」


 表をマルレラに任せて全員で作業場に引っ込んでいる現状は流石によろしくない。とりあえず早く戻ろう、というミサキの提案に異を唱える者はいなかった。





 ――その後、仕事の合間を縫ってミサキ(ヘルム装備)のした質問とそれに対する回答は以下のようなものである。



「……種族と年齢は?」

「24歳のハーフエルフよ。気づかなかった?」

「……全く」


 この世界のハーフエルフはエルフの血が薄まっているせいかほとんど見た目に特徴がなく、ミサキはよく人間族と間違えている。実は以前リオネーラに見分け方を聞いたこともあったりするのだが、返ってきた答えは「肌の白さ」だった。なので一応日頃から気をつけてみてはいるものの、ミサキ(日本人)から見れば西洋風の人々の肌の白さの違いなどぶっちゃけ全くわからず今のところ全戦全敗である。

 ボッツのような『筋肉質な男性』には程よく焼けている人もいるのだが、これまで出会ってきた女性はほとんど美白美肌美人なのだ。少なくとも人間、エルフ、ハーフエルフは肌の色では見分けがつかない。言われてみればエルフがちょっと白いかな?いや気のせいかな?くらいである。アウトドア派の人ばかりの筈なのに。不思議。



「……職業――というか、肩書き(クラス)は見た目通り『魔法使い』?」

「いいえ、私は一応『魔導師』よ」

「へぇ……すごい」


 大体予想はつくと思われるが、『肩書き(クラス)』とは剣士とか魔法使いとかそういうやつだ。誰でも名乗れる基本クラスと一定の条件を満たさないと名乗れない上位クラスがあり、魔法使いは前者で魔導師は後者にあたる。つまりエリーシャはそこそこすごい人という事になる。

 ちなみに魔導師になるにはハンターズギルドで魔法関連の試験を受けて合格すればいい。内容には実技と筆記があり……まぁぶっちゃけ現代で言う資格試験だ。現代の資格と比べるとクラスは一つしか名乗れないという違いはあるが。資格マニアには厳しい世の中(異世界)である。

 なお『職業ジョブ』ではないのは普通にハンターとか教師とか鍛冶師とかシェフとかの『職業』と被るから……なのだが、クラスはクラスで学校用語と被るという微妙に不便な事になっていたりする。まぁそこらへんは話の流れで察してね、ってやつだ。



「……聞いていいのかわからないけど、ハンターを辞めた理由は?」

「ふふっ、そう気を遣わなくても大丈夫よ、大したことじゃないわ。単に……寄ってくる男どもが鬱陶しかっただけよ」


 心底疲れた感じでエリーシャは言う。ミサキから見ても――というか誰から見ても彼女はなかなかに大人っぽい魅力の塊であり、そりゃさぞかしモテるだろうな、と納得するしかない。種族が一番かけ離れているマルレラでも理解を示すレベルだ。


「まぁ、人族は寿命の短さ故に伴侶探しには貪欲と聞くからのう。ハンターのように危ない仕事なら尚更なんじゃろ。そこにお主のように母性に溢れた女性がフリーならそりゃモテるじゃろうな」

「そう褒められても嬉しくないわ。魔導師たる者、見た目なんかより魔法で評価されないと意味がない。愛だの恋だので無駄な時間を過ごしている暇はないのよ」

「だから辞めたのか? 理解出来ぬとまでは言わぬが極端な考え方じゃのう。魔導師ってやつは皆そうなのか?」

「そうよ。恋愛より魔法。食事より魔法。寝るより魔法。息をするくらいなら魔法を唱える、それが魔導師」

「なるほど、近寄りたくないな」


 まぁさすがに半分くらいは冗談だろう、そんな生活を送っていてこんなセクシービューティーが成り立つ筈がない。……ない、はず。

 ともあれ、そのくらいには日常生活の中で魔法を優先しているらしい。そういう人を表す、ちょっとシャレた言い回しがふとミサキの脳裏をよぎった。


「……魔法が恋人、という事か」

「あらミサキさん、それはいい表現ね。今度から胸を張ってそう言うことにするわ、ありがとう」


 嬉々として受け入れるエリーシャは悪く言えばただの魔法バカなのだろうが、そうやって熱中できるモノを持つ事を悪く思う人はこの場にはいない。それこそ種族が一番かけ離れているマルレラでさえも。何故ならこの世界には『前例』がいるからだ。


「……ま、そういう馬鹿がゆくゆくは『賢者』と呼ばれるのじゃろうな。魔法に対する執念とでも言うのか。そういうモノは力になる。それはわかっとるつもりじゃ」

「ふふ、そう、全ての魔導師の目標は『賢者』。その高みに至る為には恋愛なんて時間の無駄。間近でドラゴニュートの魔法を見ている方が勉強になるわ」

「あー、朝にも説明したはずじゃが儂のブレスは魔法と呼べるかはわからんぞ? なんせ無意識にやっとるからのう」

「それを見極めるのは私よ、おかまいなく。それに最悪そちらがハズレでも――」


 話しながら、エリーシャはリンデに視線を向ける。店内を飛び回ったり、ミサキ達の仕事を眺めたり、ミサキの肩に座ったり、飾り物の人形のようにカウンターに座ってみたり(今ここ)と自由な振る舞いをして初の鍛冶屋をエンジョイしていた一人の妖精に。


「――マナ溜まりから生まれる不思議な種族、フェアリー。一度お話してみたいと思っていたのよ。連れてきてくれたミサキさんに感謝ね」


 特別魔法に秀でる訳ではないが、マナ溜まりという不思議な場所から生まれ、不思議と植物の声を聞けて体重も不思議と軽い種族。彼女達から何かしらの魔法の道を極めるヒントが得られる可能性は無いとは言えない。

 せっかくハンターを辞めたのだからハンター時代には出来なかったアプローチを試みてみよう。そうエリーシャは考えており、その第一歩としてハンター(戦闘員)とは真逆とも言える店員(非戦闘員)を志願したのだった。


「ほう? ハンターをやっている時に出会いはせんかったのか?」

「鼻息荒い男達が私の後ろをついてきてるのよ? そんなむさ苦しいところにフェアリー達が姿を見せてくれるわけないでしょう?」

「む、むう、そうか、そういうものなのか……」


 やや逆ギレ気味に言われたせいでマルレラも思わず頷いてしまったが、まぁだいたい合ってはいる。妖精族――リンデやルビア達を除く、街の外の、だ――は男性よりは女性の前に、大人数より少人数の人達の前に姿を見せる事が多い。

 基本的に根っこからチョロい妖精族だが、だからこそ警戒心を持てという教育はちゃんとされているのだ。植物の声ネットワークもあるので網を張ることも相手の情報を集めることも容易。つまり、妖精族と出会える人はちゃんと『認められた』人だけという事。エリーシャの尻ばかり追いかけている男の群れなど妖精族の眼鏡に適う筈がなかった。

 なお完全なる余談だがボッツはソロの日でも妖精族と出会えていない。残念でもないし当然。


「女だけでパーティーを組んだりはせんかったのか?」

「もちろん基本的にそうしてたわ。でも組んでもあいつらついて来るのよ、たまたま近場の似たクエストを受けたとか言ってね。スケジュールを合わせる為にクエストを複数受ける人もいたとか」

「そこまでか……モテ過ぎじゃろお主。ま、客寄せになりそうな店員はうちとしては大歓迎じゃがな」

「あら正直だこと。まぁそうね、今の客寄せ店員であるこの子達の跡をしっかり継げるように頑張るわ。……そうだ、貴女達もハンターになりたがってると聞いたけど、ちゃんと気を付けなさいね? かわいい顔してるから絶対に男が寄ってくるわよ」


 視線を三人に――というか主にリオネーラとエミュリトスに向けながら言う。二人は文句なしの美少女だ。残る一人は……まぁ、好き嫌いの分かれるやつだが。

 しかしそんな好き嫌いの分かれる外見だからこそ出来る事もあるはずだ、と本人は考えていたりする。自覚があるからこそ。

 自身の忌まわしき外見を『役立てる』事にまっっったく抵抗のない彼女だからこそ。


「……大丈夫、私が素顔を見せていれば男の人は寄ってこないはず」

「……ごめんなさいミサキさん、それは返事に困るわ」

「多分女の人も寄ってこない」

「返事に困るわ」

「不定形族みたいな性別のない種族にも避けられる自信がある」

「自虐なのか本気なのかわからなくて返事に困るのよぉ!」

「……? 事実を言っているだけだけど」

「あ、本気なのね、わかったわ。……ってわかっても結局返事に困るタイプのやつじゃないのぉ!!」


 仮に事実だとしても、自分から仲良くなりたいと願った相手の外見を仲良くなったその日に悪く言えるはずもなく。しかし本気で言っているミサキが否定を求めているはずもなく、にっちもさっちもいかずエリーシャは頭を抱えた。

 ミサキのマイペースな思考回路の被害者がまた一人増えてしまった瞬間である。


「わかるわエリーシャ、ミサキと話してると何故かペースを崩されるのよね、わかるわ……」

「センパイの得意技ってやつですね、さすがです」


 大人びて落ち着いたお姉さん然としていたエリーシャが流されるまま声を荒げてツッコミを重ねていく様子を親友二人はもうすっかり慣れた様子で眺めていた。

 一方でまだその境地に至れないマルレラとリンデは顔を見合わせ、ちょっとだけ親近感を覚えたという。



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― 新着の感想 ―
[良い点]  ミサキさんがエリーシャさんと仲良くなれて良かったです。 [一言]  最近は、新型コロナウイルスが流行っていて大変なので体調に気をつけてください。  今回も面白かったです。これからも頑張っ…
[良い点] 魔法三昧なのによくセクシービューティーに成れますね、凄く幸運かも。 ミサキさんの反応に、凄く返信が困りますね。 引き続きも楽しみです!
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