肉、喰ってるか?
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――前回同様マントのフードを目深に被ったミサキを引き連れ、少女達は街を歩く。目的は言うまでもなくバイト先探し。しかし、探すといってもこの世界は現代日本のように店頭に求人の張り紙をして待つのが一般化している訳でもなく、求人雑誌が発行されている訳でもない。
すなわち、探す側としては手掛かりが非常に少なく……そしてそれ以上に店側としては「募集してませんよ?」とトボける事で簡単に断れたりするのだ。
「もっ、申し訳ありませんっ! い、今は募集していませんのでっ!」
「て、店長に聞いてみないとわかりません! すいません!」
「き、昨日までは募集してたんですけどもう決まっちゃって!」
わざわざ親友二人に店の様子を窺ってもらい、人手不足の可能性がありそうだと判断したならミサキが入店し、フードを外して店員に直接尋ねる……そんなやり方を何度か繰り返したが全て上記のような結果に終わった。
まぁ、ミサキにとっても予想通りといえば予想通りである。むしろ予想より気を遣った断り方をしてもらえて逆に申し訳ないくらいである。店員が良い人ばかりなのだろう。「店長に聞いてみないと」って言ってた人は他の店員から店長と呼ばれていた気がするがそこは深く考えない事にした。
「うーん、ミサキがフードを外さないで聞けば一件くらいはオッケー貰えそうな気もするんだけど……」
「……それは騙してるのと同じだと私は思う」
「ま、そうよね。あたしもそう思うわ」
そもそもどう考えても隠すのは悪手だ。明かした時に大きなトラブルになるのは目に見えているので。終始フードを外さずに働ける職場ならまだワンチャンあるかもしれないが、生憎そんな場所は三人共思いつかない。
「まったく、見た目ばかりに気を取られて誰もセンパイの素晴らしさに気づかないとは……」
「「………」」
初対面で逃げくさりやがった後輩がなんか予想通りの事をブツブツ言っているが予想通りなのでスルー安定。
「これはちょっと作戦を練り直す必要があるかもね……。ま、いいタイミングだし気分転換に何か食べに行きましょ、せっかく街まで来たんだし。あたしの奢りよ。……ミサキの分だけね!」
「えー! わたしはー!?」
「あんたはお金あるでしょ! この前アクセサリー売ったお金が!」
「……何もしてないのに奢ってもらうのは悪い」
「今まで散々尋ねてきたじゃない。断られてばかりで精神的にも疲れたでしょ。お疲れ様くらい言わせてよ、お金でね」
「…………わかった。ありがとう」
「ふふっ」
対称的な二人の反応に微笑みをこぼすリオネーラ。正直、こういう時間は楽しくてしょうがない。仕事が見つからないミサキにとっては楽しくないかもしれないが……だからこそ美味しいものでも食べて気分転換してもらいたい。そう考え、彼女は記憶にあるいくつかの『美味しいと聞いたことのある店』の名を探して歩き……見つけ、扉を押し開けるのだった。
「あっ、悪いけどミサキ、フードはそのまま被っといてね」
「……わかってる。食事の場の空気を悪くしたくないから」
(……仕方ない事とはいえ……フードを被ったままフードを食べる羽目になるとは)
やかましいわ。
◆
「……ご馳走様。ありがとう、リオネーラ」
「ん、どういたしまして」
さて、結論から言えば店内でネタになるような事は何も起こらず、三人は普通に昼食を食べ終えた。ミサキも慎重に振舞っていたし、親友二人も周囲に気を配ったり近寄るなオーラを出したりしていたので。
ただ、実はミサキを奇異の目で見ていた人よりも親友二人の美少女っぷりに目を奪われていた人のほうが多かったりする。ミサキはほとんど顔を上げなかったので気付いていないし、二人は二人でそれがミサキに向けられた興味の視線だと勘違いしていたが。
田舎育ちの二人は自らの可愛さに無自覚なのだ。これに関しては意外とミサキの方が正確な感覚を持っていたりするのがこの三人の面白いところである。
まぁそれはさておき。
「……にしても、メニューに肉料理が多かった」
「そうね、やっぱり人気だからね、人間族に。あとドワーフ達もか。安くて味も良いって聞いてたんだけど……ミサキ、もしかして肉料理嫌いだった?」
「……そういう訳じゃない、美味しかった。学院の食堂は多様なメニューがあったからちょっと意外だっただけ」
「ま、学院は異文化交流の為に作られてるからね、いろんな種族の文化に合わせたメニューがあるのよ。一方で大抵のお店は一番数の多い人間族向けに肉料理が豊富なワケ。実際そればかり売れてると聞くしね」
どうやらこの世界の人間は肉を好むらしい。まぁ現代でも好きな人は多いだろうが、ここではそれ以上に『肉ばかり食べる』傾向があるという意味で。
生活習慣病、なんて言葉のある時代から転生したミサキとしては不安を覚えないでもないが……たまにならガッツリ肉ばかり食べるのもいいかとも思っている。そもそも奢ってもらっておいてケチをつけるなんて不義理な事をする気はないが、それを抜きにしてもひとつ大きな理由があるのだ。
(しっかり食べて身体に肉をつけないと)
マナの効果やら何やらで前世では考えられない速度で身体が作られていっているとはいえ、元々がガリガリのミサキはやっぱりまだまだ細い。別にコンプレックスに感じるほど気にしている訳ではないものの、やはり強くなるには健全で健康的な肉体を得る必要はあるだろうとは考えている。肉を食べ、筋肉が育つ余地を作ることは彼女にとってそこそこの優先事項なのだった。
「ところで、これからどうするんですか? 作戦を練り直すと言ってましたけど」
「んーそうねぇ、あたしとしてはこの街に住む同じ経営者に意見を聞くのがいいと思ったんだけど、どう? 経営者目線でヒントをくれそうじゃない?」
「ここに住む経営者というと……一人しか知り合いはいませんよ? あんまりアテになりそうにないのしか」
「バッサリねぇ……。でも『もしかしたら』あたし達だけで探すよりは良い結果になる『かもしれない』じゃない? 『絶対とは言えない』けど」
予防線張りまくりである。
「よ、要するに賭けってことですね」
「まぁ、そうね、なんてったってドラゴニュートだからね、孤立しちゃってて逆に周囲の事を何も知らない可能性もあるから……あくまで提案ってコトで」
「ふぅむ……どう思います? センパイ」
「……いいと思う。今までの反応を見る限り、このまま続けても全て空振りに終わりそうだし」
今のままでも可能性は低そうだ、ならば友達に勧められるまま賭けてみるのもいいだろう、せっかくだから。
と、ミサキはそういう風に考える。ついでに武器の感想も伝えたいし、看板を作り直した成果も知りたい。行きたい理由は意外と沢山あった。
そして彼女がそう決めたなら親友二人が異を唱える筈も無く、三人はそのまま街外れの方に向けて歩を進めるのだった。
……向かう先は勿論マルレラの店である。念のため。




