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ゴ戦場から逃げるな



 眼前に飛び出してきた敵――ミサキに対し、ゴーレムは普通にしっかり反応した。


『 ミツケタ ブサイク 』


(……そりゃ、この世界は美形揃いだし……)


 ミサキは他人の外見をどうこう評する趣味はないし気にもしないのだが、それでもこの世界の人達――特にリオネーラとエミュリトスがとびきりの美少女である事には確信を持っている。それ以外の人達も整った顔ばかりでなんというかこう、洋風美形の過剰摂取状態であった。なので不細工だと言われても腹など立つ筈もない。当然だと受け止めるだけ。

 あくまで平常心で距離を取り……ゴーレムを引きつけ、彼女は少しずつ後ずさりしていく。先程まで隠れていた柱の陰から他の皆が出て行きやすいように。


(たまに後ろを見て、足元に気をつけて――)


『 ニゲルナ チキン 』


「っ、と……」


 横薙ぎに振るわれた岩石の腕を小さく飛び退くバックステップで回避する。

 巨大な物体の動きは何かとゆっくりに見えがちだが実際は相応に速い。なのでミサキは早め早めの回避を心掛けており、今もそれが功を奏した。だが息つく暇も無く、もう片方の腕が踏み込みと共に今度は頭上からミサキに向けて振り下ろされ――


「ッ……!」


 背中を向け、前方に思い切り飛び込んで距離を取り、回避。振り下ろされた岩石の拳は地面にぶつかり、カキン、と軽い音を立てて弾かれた。


(……? 見た目より威力は無さそう?)


 体勢を整えつつ、最初の時点からずっとこの部屋にあった地面にめり込んでいる岩に一瞬だけ目をやる。確認したそれとゴーレムの拳の大きさはほぼ一緒。であれば今回も同じようにめり込んでもおかしくないのだが、それどころか地面の硬さに負けたような音がするとは。

 不審に思ったミサキは皆に危険が及びそうにない方向にある柱の方へゴーレムを誘導し、近くで攻撃を避けてみた。先程と同じように横薙ぎに振るわれた腕は柱にぶつかり……またもや弾かれて止まる。


(床や柱が不自然に硬い? いや、走り回っている時も柱の裏に隠れている時も普通に石材の感触しかしなかったし、めり込んでいる岩の説明がつかない)


 念の為床に剣を突き立てててみれば、刺さりこそしないが表面を僅かに削った感触はある。少なくとも何でもかんでも弾く無敵っぽい硬さは持っていない。


(となれば……)


 導き出される結論はひとつ。

 あのゴーレムの攻撃が不自然なほどに『軽い』……すなわち見掛け倒しである、ということ。


(……リオネーラやエミュリトスさんがあんな細腕でとんでもない力を発揮するような世界だ、逆に見掛けより弱い攻撃があってもおかしくはない。……試してみよう)


 ミサキが先程「防御の練習がしたい」と言ったのは本音でもあるが建前でもある。可能ならば回避より防御を選ぶべきだと彼女は考えているのだ。

 理由は後述するが、ともかくそういうわけで勝算があるなら彼女は割と嬉々として試しにいく。万が一予想が外れた場合に備え、比較的安全そうな攻撃――腰の入っていないストレートを選んで。


『 クラエ チビ 』

「――ッ!」


 ダンジョン内で出てきた他の敵よりは確かに重い、その一撃。しかしやはり見た目や速度からすれば不自然に軽く、剣をしっかり構えて腕に力を入れるだけで防げた。


(この程度なら耐えられる……つまりこの場で足止めが出来る)


 そう、皆が弱点を見つけるまでの時間稼ぎという今回の目的を考えると、大きな回避よりも小さな回避、小さな回避よりもその場での防御で敵を釘付けにするべきなのだ。その方が見つけやすくなるから。

 もし弱点が見当たらなければ別の手段を講じる必要が出てくるため、ここは少しでも早く皆に見極めてもらいたいところ。


 ……とか考えている間に。


(ミサキさん、あったよー!)


 背後に回ったリンデがふよふよと浮かびつつ全身でそう表現する。どうやらあっさりにも程がありすぎるほどあっさりとそれっぽいものが見つかったらしい。

 そのままリンデは身振り手振りで攻撃に入る旨を伝えてくる。別に手柄がどうとかは全然気にしないミサキはもちろん頷く。ゴーレムの連撃をしっかり防ぎ続けながら。


 結論から言えば、リンデとミサキのこの判断がもう少し遅れていたらもっと苦戦していたかもしれない。



「《アイスニードル》っ!」


 リンデが攻撃魔法を唱え切ると同時――


『 タタカエ ヨワムシ! 』


 防御一辺倒のミサキに痺れを切らしたのか、ゴーレムが大振りの攻撃を繰り出す。腰の入ったいい攻撃だ。

 万全を期すなら避けたいところだが、リンデの攻撃魔法が発動した今、変に避けてゴーレムが姿勢を崩してしまっては元も子もない。今まで通り、いや最後という事で今まで以上に気合を入れ、ミサキは拳を剣で受け止めた。

 そして、アイスニードルが直撃する直前――


「あっ」


 何かに気付いたような声と共に――ミサキが吹き飛ぶ。


「「ミサキさん!?」」


 それを見て、左右からゴーレムを挟む位置にいたレンとルビアが叫び、駆け寄ろうとした。つまり障害物の裏から顔を出してしまっていた。この時もしゴーレムが健在であればどちらかに意識を向けていたに違いない。となれば背中を狙ったリンデの攻撃も外れていただろう。

 もちろん全てはもしもの話。ミサキが吹き飛ぶと同時にリンデの魔法はゴーレムの弱点に直撃しており、ポイズンゴーレムはあっさりと崩れた後、あっさりと光となって消えていった。

 ボスと言うにはあまりにもあっさりしすぎで拍子抜けだが、ここは初心者ダンジョンだしボッツ達から見ても弱い敵らしいので一応は納得できる。っていうか楽に終わるに越したことはない。そう考え、三人は気を取り直す。

 となると後は吹き飛んだミサキの安否。ルビア、レン、と近い順に彼女に駆け寄りながら声をかければ反応はすぐに返ってきた。


「……平気。わざと跳んだだけ」


 服に付いた砂埃をはたきながら立ち上がるミサキ。どうやら吹っ飛んだのではなく自ら跳んだらしい。勢いのまま地面で少し転がりはしたが傷と言うほどの傷は無いだろう。


「良かった~。でもなんで?」

「……こうなったから」


 ルビアの質問に、ミサキは右手を持ち上げて見せる。

 ……右手を持ち上げて(手の中にある曲がった剣を)見せる。『く』の字に、というよりは『〈 』程度に曲がった剣を。


「……やっちゃった」

「あ~……そっか、それ以上曲げちゃわないように跳んだんだね~」

「……でも遅かった」


 鞘に戻そうとしてみたが当然引っかかる。折れてないだけマシと言えるものの学院の備品なのでおそらくは弁償コースだろう。借金もまだあるというのに。

 相変わらず無表情で、しかし内面は相当落ち込んでいるミサキの元にゴーレムを挟んで反対側に居たリンデもようやく合流する。事情を聞いて彼女もミサキを軽く慰めはしたが、あくまで軽く。それよりももっと伝えたい事があるらしく、会話が途切れた瞬間に彼女はハンテンションに胸を張ってドヤ顔しながらブッ込んできた。


「ところでどーお? ミサキさん、アタシ今回頑張ったんじゃなーい!?」

「……確かに。今回勝てたのは全部リンデさんのおかげ。ありがとう」

「ぜ、全部ー!? そこまで言われると照れますなー!あっははー!」


 見てて気持ち良いほど喜ぶリンデを見ていると落ち込んでいたミサキの気持ちも少しは前向きになってくる。徐々にアガってくる気持ちに動かされるまま、ミサキはちょっとした疑問を口にした。


「……ところでリンデさん、よく弱点がわかったね」

「んー? それはねー、アイツの背中に「じゃくてん」って書かれたでっかいボタンがあったからー、これだ!って」

「………………」


 アガってきてた気持ちはそこで急ブレーキと共に停止した。


「……それは……弱点が弱点で良かったね……」


 ミサキであれば露骨すぎて逆に攻撃を躊躇っていただろう。そういう意味ではリンデが見つけて良かったのかもしれない。一切疑わないのは正直どうかと思うが。

 とはいえここが初心者ダンジョンだという事まで踏まえて考えれば罠ではない可能性の方が高く、攻撃してみるという選択自体は間違いなく正解だ。ただ……


「弱点が弱点? なにそれー変なのー!」

「………」


 どう考えても目の前の子は可能性やら何やらを考えて選択したようには見えないので、やっぱりちょっとミサキは心配になるのだった。



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