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言質を取られる系主人公

次回に続きます



 ――同時刻。マスタールームにて。

 水晶球を通してミサキの『思いつき』を聞き届けた面々はそれぞれ異なる反応を返していた。生徒達の大半はレンのように説得力は感じつつもレンほどミサキと仲良くないので疑心が大きく。今でもミサキを避けている者は当然ハナから信じず。

 そして大人達は――


「ほう、面白い考え方ですね。もし本当なら古代文字とエンシェントゴーレムの研究が一歩進みますが……」

「本当な訳があるか、アイツの考えは突飛すぎて信用ならん。まァあいつの言う事――というか発想の面白さ自体は認めよう。特にたまに気取った言い回しをするのは参考になる」


 ほどよく疑いつつも意外と褒めていた。現代知識チートこそ成らなかったが現代知識由来の言動が結果的にミサキの評価を上げるという遠回りな結果である。


「しかしなァ……」

「……どうされました?」


 ボッツの呟きにおじさんが問い返すも、彼はすぐに頭を振り「いや、なんでもねぇ」と答えて話を打ち切った。

 どう見たってなんでもなくはなく何か考えているのだが、しかし彼らは大人同士なのでそこに触れる事はない。口に出すべきか否かの判断も自分で出来るからこその大人なのだ。いやボッツはその辺かなりガバガバだが、それでも発言に責任が伴うのが大人なのだ。故に彼が口を噤むと決めたのならおじさんも食い下がりはしない。


 そんな訳で二人は揃って水晶球に視線を戻し、再び意識をそちらに向ける――


(……しかしアイツ、一体何処で育ってどんな人生を歩んでくればあんな風になるんだろうな……?)


 ちなみにこの時ボッツはそんな事を考えていたりした。勿論「あんな風」というのは褒め言葉でもなんでもない。




 ――そんなフラグっぽい思考をボッツに持たれているとは夢にも思っていないミサキは今、ずっと周囲を警戒してくれていたルビアと話をしている最中だ。


「……本当にこっちを見失ってる?」

「うん、さっきからこっそり何度も確認してたから間違いないよ~。まっすぐ走って柱の裏に来ただけなのにね~」

「……目が悪いのか頭が悪いのか、もしくは両方か。演技という可能性も無いではないけど……」


 無いではないが、障害物を回避に使う練習と考えれば理に適ってはいるしゴーレムが演技するような知能を持っているかも怪しい。ミサキもこっそり覗き込んでみれば実際あのゴーレムは首(というか頭そのもの?)を動かして周囲を警戒してはいるものの体はこちらを向きっぱなしであり、確実にこちらの方向にアタリは付けている。そしてそれを隠そうともしていない。

 見失った演技にしては、こちらを誘う罠にしては不自然すぎるのだ。


「……可能性は限りなく低い、か。出来れば話しかけたりして確証を得たかったところだけど――」


『おい魔人、ボス相手にも和解を持ち掛けるとか言い出したらブッ飛ばすからな? ボス部屋はボスを倒さない限り先には進めない。習っただろう?』


「わかってますよ……」

『ハッ、どうだかな』


 だいぶ疑われているが、流石のミサキもダンジョンのそのシステムを知った上でボスと和解出来るとまでは思っていない。そのシステムによってボスが『倒されるところまで含めてのボス』にさせられている事を彼女はしっかりと理解してしまっているからだ。

 勿論本音を言えば言葉が通じるなら和解したいのだが。もし自分一人しかいなかったならちょっとくらいは無茶していたかもしれないが、今回はあくまで確証を得たかっただけである。


「……というか話しかけないでください、位置がバレます」

『言うじゃねえか。まァ確かにそうだ、俺はあのゴーレムの性能は知らねぇからな、何とも言えん。だからこれで最後だ。しっかり戦い、さっさと倒しやがれ』

「……わかりました。ありがとうございます」


 急かされ、結果的に背中を押され、吹っ切れたので礼は言っておく。もっともそれはボッツから見れば意味のわからない言動で、余計に変な奴と思われただけだったが。

 しかしミサキはそんな事は気にしない。知る由がないというのもあるがそもそも気にしない。伝えるべき礼をボッツに伝えた今、次にすべきは皆に伝えるべきを伝える事だ。


「……皆、弱点を探そう。私のせいで話がだいぶ逸れたけど、どこかに簡単に倒せる弱点があるはず」

「アタシのようなフェアリーでもー?」

「きっと。優秀なダンジョンマスターが用意したボスだから」


 相手が優秀で頭が良いとそれだけで信頼が置けるものだ。どこかの誰かのように破天荒で気分屋で性悪で暑苦しくて汗臭くて脳みそ筋肉で……と悪口の尽きない相手より遥かに。


「……誰か、何か手はある?」


 頭の中で自分なりに考えを纏めつつ、ミサキは皆に尋ねる。しかし皆の視線はミサキに注がれており、


「たぶんミサキさんと同じだと思う」


 皆を代表してレンがそう言い、先を促すのだ。どうやらこのパーティーの中ではミサキが絶対のリーダーらしい。性格的にリーダーシップはまるで無いのだが信頼はされているという事か。

 勿論、信頼されているなら「自分に出来る範囲で」信頼に誠実に応えたがるのがミサキである。彼女は自分の考えを口にする。


「……レン君の言っていた通り、特定のパーティーに不利になるような不公平な弱点ではないはず。戦いに向かないリンデさん達でも何とかできるもののはず。推測だけど、身体のどこかに弱点があるというのがもっとも可能性が高いと思う。それを探したい」

「うん」

「……三人で上手く役割分担して、ゴーレムの側面・背面・ついでに頭部あたりに何か怪しい所がないか調べて欲しい。見つからないように障害物を上手く利用して」

「……三人? ミサキさんは?」

「……私は前に出て戦う。正面に注意を引きつければ調べやすいはずだから」

「なっ……!」


 障害物に隠れながら探す、というところまではちゃんと全員同じ考えだった。つまりミサキ以外は囮を使おうとは考えていなかったのだ。理由は勿論危ないから。

 それがミサキを通せば逆に「危ないからこそ自分がやるべき」となる。ただしこれは無謀な自己犠牲を意味しない。やっぱり勝算の有無、危険の有無はちゃんと考えているので。

 彼女は引き続き、代表者のレンにそのあたりも説く。心配をかけないようにと。


「……大丈夫、戦うといっても真面目にやり合いはしない。回避と防御に重点を置く。いざとなればまた走って距離を取る」

「ぼ、防御? あんな大きな相手だよ、防御なんて出来るの?」

「……勿論回避を重視する。そして攻撃をよく見て、大丈夫そうなら防御する。防御の練習もしたいから。その判断をするのは私だからそこは信じてもらうしかないけど」

「そこは……うん、信じるけど……」


 パーティーの中で一番レベルが高く、一番防御力も高く、実際ここまで何度も正確な判断で盾になってきたミサキの言葉は信用に値する。守ってもらった側からすれば誰よりも信用出来る。

 そう、言葉『は』。


「……ミサキさん、念の為言っておくけど、顔面で受けるのは防御とは言わないからね?」


 入学初日の顔面ファイヤーボール事件は当事者以外の間でも未だに尾を引いているらしい。さっきまでのリーダーとしての信頼は何処へ行ったのか、今はすっごく疑われている。解せぬ。


「…………あれはノーガードだった。今回はちゃんと剣で防御する」

「ホッ……」


(心底ホッとされるとさすがに申し訳ないな……)


 魔法を喰らう事で学ぼうとした、という目的は当時も説明した筈なのだが、仲良くなった今だからこそ改めて説明する必要もあったりするのかもしれない。そういう事柄もあるのかもしれない。今は反省している事も含めて。

 まぁ、それもこれもボスを倒してからの話だ。


「……じゃあ、行こう」


 背負っていた荷物をレンに預けて身軽になり、ミサキは呟く。



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