どちらが裏か表かでたまに揉めるのでどちらかを「当たり」としておくと捗る
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『……どうやらお前達の警戒心も認めざるを得ないようだ。だがここから先は運と知識に左右されるエリアが続く。さァ、突破出来るモンならやってみろ!』
一応授業なのだから突破出来ないと困る筈なのだが、なんか妙なテンションになってるボッツに水を差すのもアレかなぁと全員が思っているのでツッコミは入らない。
『まずはコレだ! 錠付きの扉エリア!』
その言葉通り、ミサキ達の正面には錠前で閉ざされた扉がひとつ。そして厄介な事に左を向けば通路が二つ、右を向いても同様に通路が二つ、口を開けて佇んでいた。
『正面の扉の先が次のエリアになっているが、開くには鍵が必要。そしてその鍵は左右四つの通路のどこかの奥にある! ヒントは無し、純粋な運勝負だ!』
「なるほどー。どこから行こうかー? あっ、でも道が四つでアタシ達は四人、手分けすれば誰か一人が鍵に辿り着けるね?」
「で、でも敵が出ないとも限らないよ~。もし何かあったら危ないからやっぱり固まって行動した方がいいんじゃないかな~……」
純粋に運の勝負と言われている以上は敵は出ないと考えたくなるが、やはりボッツの言葉は信用出来ない。妖精二人では結論が出せず、彼女達はミサキとレンに視線を向けて助けを求めた。
慎重なミサキと臆病なレンがどちらを選ぶかは言うまでもなく明白……なのだが、その前にミサキがふと思いついた疑問を投げかける。
「……ボッツ先生、鍵を見つけず何らかの手段で突破した場合はどうなりますか」
『あ? 何らかの手段って何だ? 扉をブチ壊すのはお前等のレベルでは不可能だぞ。ダンジョンは基本的に不正を許さないからな、壁や扉はとにかく硬く作られている、基本的にな』
「……そうですか」
現代人のミサキはピッキング的な事を問いたかったのでボッツのはちょっとだけズレた回答ではあるのだが、不正が許されないという事は聞けたので充分な答えでもある。ダンジョンマスターが目を光らせている以上、ズルは必ず何かしらのペナルティを喰らう事になるという事だろう。
逆に言えばダンジョンマスターが不在なら好き放題できる可能性もあるのだが。
(何にせよ今回は正攻法で行こう。そもそも『この方法』は仮に可能だとしたらちょっとズルすぎる気がする。口に出す前にまずリオネーラに相談したい)
ミサキの考えていた『方法』はレンに協力してもらうというもの。身体を自在に変形させられるレンに鍵を作ってもらおうというものだ。
勿論簡単な道ではない。レンが錠前のギミックを理解し、対象の錠前の内部構造を理解し、その上で想像力を働かせる必要がある。だが鍵穴は目の前にあるのだ、そこにレンが液状化した自身の身体を流し込めば内側から型を取る感じでおそらく内部構造は理解できるはず。
であれば仕組みが簡単な錠前なら――現世で言うところのウォード錠(正しい鍵以外は回せないように内部に突起がある錠)くらいまでなら――レンの頑張り次第で何とかなるのでは、と考えたのだ。
実際、ダンジョンの錠前は現世のように仕組みに凝ってはいない。開錠する為にあちこち歩いたり敵を倒したり謎を解いたり、といった鍵を手に入れるまでの過程こそが重要視されているからだ。なので結論を言えばミサキのその考えは間違っていない。
そしてズルすぎるのではという危惧も間違っていない。過程こそが重要視されているのだからそこをスキップするなんてそんなの許される筈がないのだ。口に出していたら割と本気で怒られていただろう。そのあたりの線引きがちゃんと出来ていて本当に良かった。
なお結局後日リオネーラに馬鹿正直に相談してしまいマジトーンでちょっと怒られたりもするのだがそれは別の話。
「……私は固まって行動するのがいいと思う。どこから行くかは運の良い人が決めるとして。レン君は?」
「うん、ぼくもそれがいいと思う」
「……ギャグ?」
「うん? 何が?」
「…………なんでもない。ごめん、忘れて」
「う、うん……? そう?」
素でめっちゃ重ねてきやがる。無自覚恐るべし。
「……そんなことよりどこから行くか決めよう」
「えっと、運の良い人だっけ。誰か運に自信のある人は?」
「………」
「………」
「………」
「……だ、誰も無いの?」
「……そう言うレン君は?」
「まぁ、ぼくも無いけど……」
「………」
とはいえそれでは話が進まないのでそれぞれそう思った根拠をもう少し深く聞いてみる。
するとレンとリンデは「他人と比べて自信が持てるほど良いとは思っていないだけ。あくまで普通」程度の認識だった。一方ルビアは、
「ドジると大抵良くない事が起こるから運は悪いんじゃないかなぁ……」
そんな説得力のある理由でとても後ろ向き。とはいえ行き先を決めるだけならドジの介入の余地はなさそうなものだが……そこは今は保留。
「ミサキさんは? ぼくとしては結構運が良いんじゃないかと思ってるよ、前にも言ったけど」
「……でも私、この前街で死に掛けたし運が良いとは言えない気がする」
「「「街で!? な、なにがあったの!?」」」
「……いや、単にこの見た目のせいで誤解されて攻撃されただけ」
「「「あ、ああ~……それなら……うん……」」」
三人同時に身を乗り出して聞いてきたかと思えば三人同時に納得して引いていった。仲のいいことである。
なお既に和解して丸く収まっているのでミサキは詳しく語らなかったが、念の為に補足しておくとこれはご存知の通りマルレラの店でのゴタゴタの事だ。今のところあれ以外に攻撃はされていない。『まだ』されていないだけかもしれないが。
「……そんな事もあったけど、でも最初に出会ったリオネーラを始め、周囲の人には恵まれてるから運が極端に悪いとも思ってない。多分普通」
「「「ミサキさんっ……!」」」
唐突な良い話路線に不意打ちを受けたリオネーラが後ろで「んふっ」とか言っていたがそこはちゃんと皆スルーして感動しておいた。お優しいことである。
『……なんでもいいから早く決めやがれ。運の良い奴が居ないならもう誰でもいいだろうが。魔人、お前でいいだろもう』
「……私は運の良い人に任せると言いました。それにレン君達も同意してくれたのですから最後までそれを貫く義務があります」
『あァ? じゃあどうすんだ』
「……今から全員の運の良さを調べます」
そう言ってミサキは背中のリュックから財布を取り出し、一枚の硬貨を手に取り皆に見せる。この世界の硬貨は価値の低い物は雑な作りだが高くなるほど精密かつ凝った作りになっており、ミサキの見せたちょい高級な硬貨には日本のそれのように両面にそれぞれ違うものが描かれていた。数字と絵柄が。
「……数字の面を当たりとします。この硬貨を弾いて地面に落とし、より多く当たりを出した人が運が良い、という事で」
『コイントスか。普通に考えりゃ半半になる筈だから確かに運の良さはわかりそうだな』
「はい。という訳で一人百回ずつトスしてきます」
『…………は? 百回?』
「……やはり少ないですか?」
『逆だよアホが! 早くしろっつってんだろうがもっと減らせ!』
「……ですが確率というのはやっぱり偏りますし、試行回数を増やして正確なデータを取らないと……」
変なところでミサキの真面目さが発揮されている。彼女としては一度調べると決めたならなるべく正確な結果を導き出しておきたいのだ。ダンジョン内で黙々と一人百回コイントスを繰り返す光景がどんなにシュールなものになるかというのは彼女の計算に含まれてはいないのだ。
ちなみに一人百回と聞いてパーティーメンバーにも若干動揺が走っており、リンデあたりは「指が痛くなりそうだよー」とかちょっとズレた心配をしていた。
『ダメだダメだ、一人十回にしろ。それ以上は認めん時間の無駄だ。正確なデータが欲しければ帰ってから勝手にやっとけ』
「……わかりました。確かに百回計測している間、他の三人がどう時間を潰すかは問題でしたし」
『あ? 全員同時にやればいいだろうが』
「……ひとつの硬貨で全て計測しないと正確なデータにならないので」
『なんでこんなくだらねぇ事にそこまで本気なんだお前は……』
本人にとってはくだらなくないから……なのだが、まぁ正直ズレていると言わざるを得ない。
◆
で。
四人それぞれコインをコイーンと飛ばして計測したところ、結果は……
ミサキ:3/10
レン :4/10
ルビア:4/10(※一回直立してやり直した)
リンデ:6/10
……となった。
なんとリンデ以外みんな半分を割る結果に。運の悪いパーティーである。
「……この硬貨、こっちの面が出にくくなってるんじゃ……? リオネーラもやってみて」
「ええっ? うーん、まぁ手助けするわけじゃないし……いいですか、先生?」
『あーもう好きにしろ、それで魔人の気が済むならよ……』
で、結果は5/10。常識人のリオネーラがピッタリ半分を出した事で偏っている説は一応ではあるが否定された。
そもそも仮に偏っていたとしても結局はそれをものともせず良い結果を出した人の運が良い事に変わりはない。つまり既に結論は出ているのだ。出来れば全部当たりを出すとかせめてラッキー7を出すとかのネタになる要素が欲しかったところだがそれでも結論は出ているのだ。
「じゃーアタシで決定だねー? よーっし、みんなついてこーい!」
「「「おー」」」
『……たったこれだけの事にどんだけ時間掛けてんだこのパーティーは……魔人に意見できる奴がいねぇのも問題だな……』
日頃からツッコミ、ストッパー、解説役に先導役と幅広く手掛けているリオネーラの偉大さを改めて思い知るボッツだった。
ちなみに鍵は普通に二つ目の通路の奥で発見した。特に何事もなく。




