ゾンビなう。
短いです
――学院生活二日目の、朝。希望に満ち溢れた爽やかな朝……の、はずなのだが……
「お、おぉ……ぉ」
ミサキはゾンビのような声をあげながらゾンビのような歩き方をしていた。至って真面目に。
「だ、大丈夫? ミサキ……」
「ぅあぁ……ぉぉ……きつい……」
あえてゾンビと違う点を挙げるとするなら、彼女は今、ちゃんと満腹である点くらいだろうか。だから何だと言われても困るが。
朝起きた時点でミサキはこんなザマであり、今はリオネーラに支えられてどうにか朝食までは済ませた、というところである。
「ほら、部屋に着いたわよ」
「あ、ありがとう……ぐふっ」
「……まぁ、どう見ても筋肉痛の症状よね……」
部屋に着くや否や倒れ込むゾンビを見つつ、リオネーラは冷静に分析する。ここ数年ロクに運動をしていなかったミサキの筋肉は昨日一日の酷使で悲鳴どころか絶叫を上げていたのだ。
「……情けない……」
「そもそもが細すぎるんだからしょうがないわよ。気休めでよければマッサージしてあげるけど?」
「……お願い……」
「じゃあとりあえず真っ直ぐうつ伏せになって。いくわよ――って細ッ!? これ筋肉あるの!?」
「……今痛い肉は何肉なんだろう」
「ねぇ、これマッサージしたら折れたりしない…?」
「その時は回復魔法かけて……」
「あんまり得意じゃないのよね……」
もちろん優等生な彼女の「得意じゃない」はあくまで自分の中で・他と比べて、であり、レベルの低い人のそれと比べれば充分な効果を持つのだが。
まぁ、そのあたりの事情なんてリオネーラに何度も助けられ、信頼しきっているミサキには関係ない。
「リオネーラになら折られてもいいから……よろしく……」
「折らないわよ、折りたくないわよ。まったく……まさかマッサージでこんなに緊張する日が来るとは……」
かつてない程の緊張の中、リオネーラはそっと力を込める。
専門家ではないものの秀才であり、身体作りの為のトレーニングもこなしてきた彼女は正しいマッサージ知識を持っていた。よってガリガリのミサキにもそれは正しく効果を発揮する。
「あっ……気持ちいい……回復していく感じがする……」
(折れませんように折れませんように折れませんように)
精神的にも肉体的にも回復していくミサキとは対照的にリオネーラは気が気ではなかった。だがそんなの察せるはずもないコミュ力無しのゾンビは暢気な事を言い出す。
「……ねむくなってきた」
「寝るなー! これから学校でしょうが!」
「まだ時間ある……」
「寝たら起きないパターンよ、それ。そもそもそんなゾンビ歩きなんだから早めに寮を出ておかないと」
「……たしかに……」
「あたしも部屋に戻って着替えて準備してから行かないといけないし、一緒にこの部屋を出るくらいでちょうどいいんじゃない?」
「……そうかも……」
「ものすごい生返事ね……はい、一通りやってみたけど、どう? 立ってみて」
「……ん、さっきよりはだいぶマシかも。ありがとう」
「どういたしまして。でも急な運動すると痛むだろうから気をつけてね?」
「わかった」
「……着替えられる? 手伝おうか?」
「……大丈夫。自力で出来る事はなるべく一人でやりたいから」
「そっか」
返事がどこか残念そうにも聞こえるし、表情もどこかそう見える。リオネーラ、過保護の気があるのではないだろうか。
ともかくそんなこんなでミサキはなんとか着替えを終え、昨夜買い揃えた筆記用具等の荷物を持ち、二人で部屋を出た。今度は鍵をかけるのも忘れずに。
「じゃ、また教室で会いましょ」
ミサキは手を振ってその言葉に応え、歩き出した。