表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
141/186

こぼれ話その1

前回で一旦のシメとしてしまったせいで時系列からこぼれてしまったエピソード達です



・ミサキとルビアの初会話



 ――既に述べた通り、ミサキは未だルビアが自分を恐れていると思い込んでいる。故に彼女から話しかけようとする事はなかった。変に話しかけて相手をテンパらせるとややこしい事になるのは初期の頃のエミュリトスやレンから学んでいるからだ。

 なのでもし二人が話す機会があれば会話の口火を切るのはルビアの役割となる。実際彼女には妖精特有の子供らしさ・愛らしさに加え噂好き故のコミュ力もそこそこあり、適役だったといえよう。

 という訳でその日、ルビアは頑張って話しかけた。


「み、ミサキさーん、よろしくね~」

「……うん、よろしく」

「だ、ダンジョン怖いけど頑張ろうね~」

「……頑張って守るから。ルビアさんも頑張って」

「う、うん~、頑張る……」

「………」

「………」


 以上、会話終わり。

 元々口数の少ないミサキだが、そこに更に相手に恐れられているという思い込みまでもが加われば会話など弾む筈もないのだ。

 しかしルビアはちゃんと自覚していた、パーティーメンバーとしてミサキと絆を深める必要がある事を。昼食の時間は噂集めに飛び回ったりしているからこそ、こういう時に頑張らねばならない事を。

 なので彼女は意を決して喰らいつく。咄嗟に口をついた自分らしい言葉で場を繋ぐ。


 ……そう。咄嗟の、自分らしい言葉で。つまり彼女らしい話題で。


「み、ミサキさんっ! き、聞きたい事があるんだけどっ!」

「……何?」

「ま――」

(あ、嫌な予感がする)


 ミサキの感じた、僅か一文字目での予感。もはや直感と言えるレベルのそれであるが、そういうものほど当たるのがこの世の常。


「魔人ってどんな気持ちなのっ!?」


「……私は魔人じゃない」

「わ、わかってるよ~、ミサキさんは悪い魔人じゃなくて良い魔人なんでしょ? だから~、どんな感じなのかだけでも教えて欲しいな~って」

(わかってない……手強い……)


 かつて同じようにミサキが否定していた(最近はもう諦めた)相手にボッツがいるが、わかっていて聞き入れない彼と違いルビアは素でそう思いこんでいるようだ。

 まぁボッツに対して散々否定してきた所を見ていた上でのこの質問なのだ、当然といえば当然である。だがミサキとしても魔人疑惑に対しては否定する以外に何も出来ず。


「……魔人というところからして誤解。私は普通の人間族。他の人と何も変わらない」


 厳密にはスキルをひとつ持ってはいるが、それでも彼女は心構え的には普通の人のつもりなのだ。……周囲からどう見られているかは置いておいて。


「そ、そうなの~……? でもみんな魔人って言ってるよ~?」

「……こんな見た目だし、そう思われるのは仕方ない」

「う、う~ん……長生きしてる植物たちでも間違う事はあるのかなぁ……」

「……? 植物が間違うって……? ……まさか」

「あ、うん、言ってなかったっけ? 妖精族は時々植物の声が聴こえるんだけど~、わたしにはいつも植物たちの噂する声ばかり聴こえてくるの。いい事なのか悪い事なのかはわからないけど、楽しいよ~?」


 森の奥深くに生きる妖精族は共生する植物達の声を聞ける。というか、植物が訴える声を聞く事が出来る。

 そこまでならミサキも授業で習っていた。が、ルビアがその中でも珍しい体質である事は初耳である。『いつも』聴こえる体質で、『噂ばかり』聴こえる――もしくは『噂しか』聴こえない――体質なのは。

 そりゃ噂好きにもなるわな、と言いたくなる体質だが……ミサキにとってはそうツッコむよりも先に落ち込みたくなる話だった。


「……植物にも……自然にも魔人と思われているなんて……」


 人だけではなく自然にまで――その名の通りこの世界に自然と存在するモノにまで――避けられているとなれば流石に落ち込みたくもなろうというもの。世界そのものから嫌われている説もいよいよシャレにならなくなってきた。


「……ルビアさん、その誤解はどうにかして解けない……?」

「ど、どうかなぁ……植物たちは長生きしてるだけあって頑固だから……」

「そう……」


(お、落ち込んでる……のかな? 表情が変わらないからわからないよ~……。それに、誤解を解こうにも噂を流す事を禁止されてるわたしに出来る事はあまりなさそうだし~……)


 仮にルビアが真実を伝えたにしても、彼女自身が直前に言ったように植物達は頑固であり聞き入れる事はないだろう。小さな妖精一人に出来る事などたかが知れているのだ。

 ミサキとしても無理強いをするつもりはない。彼女がするのは事実を受け止め、言うべき事を言うだけ。


「……ルビアさん」

「は、はい?」

「……教えてくれてありがとう。出来る事は無さそうだけど……」

「あ、あはは~……」


「……それと、話しかけてくれてありがとう」

「っ……!」


 相変わらず無表情ではあったがそうやって自分の行動に礼を返してくれたミサキを見て、ルビアは――


(やっぱり、良い人だよ……ね? なら言ってることもホントなのかな。少なくとも恐ろしい魔人って噂は――いや、魔人って噂自体、誤解だったってことだよね)


 ルビアは自身の思い込みとしっかり向き合い、間違いを認めた。噂を流し他人の誤解を解く事は出来ずとも、自分の誤解を解く事は出来る。

 とはいえ、妖精族のアイデンティティとも言える植物の声を否定するのは本来ならかなり勇気の要る事でもあり。それをあっさり成し遂げる彼女は、やっぱり噂や情報に対して正しく真摯で誠実だと言えた。





・レンとリオネーラの秘密じゃない特訓



「――リオネーラさん! ぼくを……鍛えてください!」


 ある日、そんな感じに闘志を漲らせたレンがリオネーラの元に頭を下げに来た。

 大人しく争いを嫌う彼らしくもないお願いだ……と言えばそうなのだが、実は今回ばかりはしっかりとした理由がある。先日ボッツが「妖精二人を守るのはミサキの役目」と言った――つまりレンはいないもの扱いされた――のが流石に悔しかったのだ。

 一応ボッツはミサキの為にわざわざそんな言い回しをしただけでありレンをバカにするつもりは全く無かったのだが、まぁ言われた側からすれば同じ事である。このあたりに気を配れないのがガサツでデリカシーのないボッツのボッツたる所以だった。


「お願いします! ミサキさんの足を引っ張らない為にも!」

「ふっ、なるほどね……ミサキの為にもなるのなら断る理由はないわね。特別に鍛えてあげるわ!」


 そしてリオネーラはレンの心情を見抜いていた――訳ではないが、もし自分があんな扱いをされたら黙ってはいられないだろうという確信だけはあったのでレンの行動に疑問は抱かず、追求もせず受け入れた。

 なお特別とは言っているがそもそも彼女は闘志に溢れる相手を否定はしない。サーナスのように鬱陶しくない限りは否定しない。本人の言った通りミサキの為にもなるのなら尚更否定しない。鬱陶しくない限りは。


 よってこの瞬間、週末までというごくごく短期間ではあるがリオネーラとレンの間に師弟関係が成立したのだった。





「――そういうワケだからミサキ、たまにレンを借りるわよ。勿論しっかり鍛えて返してあげるから安心して」

「ご、ごめんねミサキさん。ミサキさんもリオネーラさんと話したい事がたくさんあると思うけど……今週だけは、ちょっとだけぼくの方を優先させて欲しいんだ……無理を言ってるのはわかるけど」


 という訳で師弟二人はミサキの許可を貰いにきた。

 どちらも自分が主体かのような口ぶりなのが上手いところだ。狙ってやった訳ではなく互いの本気っぷりの現れなのだが、こういう言い方をされるとなかなかNOとは言えない。まぁミサキとしてもレンの強くなりたいという想いに水を差す理由は無い――のだが、聞いておきたい事はある。


「……特訓自体に異論は無いけど、私達も一緒じゃいけないの?」

「え?」

「どんな特訓をするのか気になる。見たい」

「う、うーんと……」


 単純に興味津々なミサキの言葉を受けレンは考え込んでしまう。その様子を見、どう断ればいいか悩んでいるのではないかと考えたリオネーラが助け舟を出した。


「こらっミサキ、特訓なんて秘密でやってこっそり強くなった方がカッコイイに決まってるでしょ」

「……ん……なるほど」


 ミサキは割と堂々とそういう恥は晒していくタイプだがその気持ちはわからないでもない。何かとカッコ良さにこだわるこの世界の人達なら尚の事なのだろう。

 更に言うならカッコ良さに対するこだわりは基本的に女の子より男の子の方が強い筈でもあるし、何よりレンは暗黒騎士(ダークナイト)である。暗黒飛燕斬(ダークネスブレイバー)である。こだわりがない筈が無い。そう考えてのリオネーラの完璧すぎる助け舟だった。


「そうよね、レン?」


 だが……


「え? いや、ぼくは別にそういうのは気にしないけど……」


「えっ」


 出した助け舟はよりによって本人の手で沈められてしまった。

 暗黒騎士の時の記憶が無く、基本的には争いを嫌い臆病で、一族の王に言われるがまま男性を自称しているだけのレン(の本来の人格)にはそういう意識はまるで無かったのだ。素直で善いスライムである。ぷるぷる。

 ちなみにリオネーラはこの世界の人の例に漏れずカッコ良さを気にするタイプなので、暗黒騎士から「そんなんどうでもいいわ」と言われかなりのショックを受けていた。レンの記憶がないせいだと頭では理解しているのだが身体が動かない、そのくらいのショックを。

 そんなリオネーラに気付かずレンは考え込み続け、ようやくミサキの質問に対する答えを出す。


「うーん、ごめんねミサキさん。やっぱり恥ずかしいかも」

「……恥ずかしさは気にするの?」


 カッコ良さは気にしない、であれば特訓を見られてカッコ悪い=恥ずかしいという考え方もしそうにないものだが。そう思ったミサキのちょっと直球な問いに、しかしレンはごく自然に答える。


「うんとね、ミサキさんが見に来るという事はエミュリトスさんやリンデさん達も見に来そうじゃない?あ、ルビアさんも来るかな?もしかしたらあまり関係ないけどサーナスさんまで来るかも? とにかく、ミサキさんだけならまだしも人が増えてくるとさすがにちょっとね……」

「……そう。無理言ってごめん」

「こちらこそごめんね」


 カッコの良い悪いは関係なく、臆病なレンとしては大勢から注目される事自体が嫌で恥ずかしいのだろう。そう理解し、ミサキは素直に引き下がった。



 ……しかし、逆にリオネーラはその答えにぜんぜん納得出来てなかったりもする。


(レン、あんたもっと大人数に見られながらノリノリで暗黒騎士(ダークナイト)を演じきったでしょーが! あーもー、納得いかないっ!!!)


 確かにおかしな話ではあるが、記憶が無いんだからしょうがないね。



ご無沙汰しております。

こぼれ話は多分その2で終わります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ