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でも特に深い意味はなく第一部完する回


「……今夜、泊めてくれない?」

「………」

「だ、ダメならいいけど!」

「別に、断る理由はないけど……どうして? 相部屋の人は?」

「……気が合わない」


 それはまさしく精神的に疲れた人の顔であった。


「……リオネーラでもそういう相手がいるんだ」

「そりゃいるわよ。気が合う人がいるんだから合わない人もいないとおかしいでしょ。っていうかあたしでもって何よ」

「……レベルもコミュ力も高いから大体の事はなんとかなるかと思って」

「レベルは関係ないでしょ、力ずくで言う事聞かせたりするわけでもないし。あとコミュ力って?」

「……コミュニケーション能力の略」

「あぁ、なるほど……そりゃこっちから歩み寄ってなんとかなる相手なら頑張るけどさ……」

「……?」

「……まぁ、あまりグチグチ言うと陰口みたいで嫌だから止めとくわ。その人とあたしの会話を見る事があったらその時にその目で判断してよ。あたしが悪いなら改めたいし」

「……わかった」


 頷いた後、ミサキは自己紹介の時間を思い出す。

 リオネーラの次にレベルの高い女の子は……確か前から4番目、エルフ族のサーナスという女性だったはずだ。


(ハーフエルフは名前からして恐らく人間とエルフの混血。混血は迫害されやすいとはいえ、ボッツ先生の言い方からしてハーフエルフに対する差別は無くなってるはず……)


 差別が無くなったのなら、血が近しい種族が仲良く出来ない理由はないはずだが……


(……いや、変に先入観を持つのはやめよう。リオネーラの言う通り、この目で見てから判断、だ)


 客観的で公平な視点から物事を見る事は大切である。そもそも友達であるリオネーラがそれを望んだのだ、ミサキがそれに背く理由なんて皆無だった。


「……で、泊めてくれる?」

「……うん、拒む理由はないし……リオネーラの助けになるならいくらでも泊まっていって」

「ひとまずは今日だけで大丈夫よ、明日は……向こうで頑張ってみるから。……はぁ」

(リオネーラをここまで追い詰めるサーナスさん、何者だろう……逆に興味が湧いてくる)


 好奇心旺盛なのはいい事である。たぶん。



◆◆



 元々二人部屋なのでベッドも布団も初めから二人分あり、リオネーラは自室からパジャマと下着、タオルを持ってくるだけで泊まる事が出来た。……取りに戻った一瞬だけでまた疲弊していたような気がするが気のせいだろう。

 部屋に備え付けの風呂に交互に入り、パジャマに着替える。ちなみに、制服以外何も持っていなかったミサキのパジャマ――寝間着はというと。


「ジャージ」

「ジャージね」

「これしか売ってなかった」


 字面だけを見ると不満そうなミサキだが、しかしジャージ寝を初体験できるという事で僅かにワクワクしていたりもする。相変わらず顔には出ないし、そんな事でワクワクできるのは初日だけだろうが。

 なお、ジャージ自体はこの世界ではそこそこ新しいものであり現代のものより着心地はちょっと悪くなっていた。


「………」

「………」

「……する事もないし寝ましょうか」

「うん」


 何も持っていないミサキは元より、リオネーラも荷物をほとんど自室に置いてきているせいで夜にする事は何もなかった。

 そのままミサキが電気を消すと、部屋に夜の闇が広がる。ミサキは平気だったが、その闇はリオネーラを少し不安にさせた。

 カーテンの隙間から月明かりが差し込まなければ、言葉を発するのにもっと時間を要していただろうくらいに。


「……ミサキ」

「何?」

「……ありがとね、急な頼みだったのに聞いてくれて」


 少しの不安が、少しだけ彼女を素直にさせたようだ。


「……私の方こそ。リオネーラには今日一日だけで何度も助けてもらった。本当にありがとう」

「あたしは……そんな何度も礼を言われるような大層な事をした覚えはないわ。自分に出来る事をやっただけよ」

「……人助けって、きっとそういうもの。出来る人が、出来ない人を助ける。無理のない範囲で。助ける側も無理してはいけないんだと思う」

「……そうね、無理はよくないわよね、きっと」

「……その『無理のない範囲』がリオネーラは大きそうだから、尊敬する」

「尊敬は言い過ぎよ。でも強さを認めてもらえるのは嬉しいわね、今までの努力が認められるのは」

「うん、尊敬する」

「だ、だからぁ、言い過ぎだってば! それに、今のレベルなんて通過点でしかないんだから」

「……目標は?」

「とりあえずレベル測定器を振り切るくらいにはなりたいわね。その後は世界最強でも目指そうかしら?」

「なんでそこまで強さにこだわるの?」


 コミュ力に欠けるミサキらしい、若干失礼にも取れる聞き方だが、リオネーラは特に気分を害した様子もなく返事をする。


「楽しいじゃない、レベル上げるの」

「………」


 きっと顔に出るくらいミサキは驚いていたはずだが、暗い部屋の中ではその表情は誰にも見えない。


「……確かに、私も今日は楽しかった」

「でしょ? ふふっ、この感覚がわかるならミサキは今日からライバルでもあるわね!」

「友達兼ライバル?」

「そゆこと。ミサキは驚きのペースでレベル上げてくるし、追いつかれないようあたしも頑張らないと」

「今日のはリオネーラの教え方のおかげだって……」

「でも、ライバルよね?」

「……うん」


 暗い部屋の中で、きっと二人とも笑っていた。



というわけで第一部(というか一日目)完です

キリがいいし書き溜めが尽きそう(本音)なので一日あけます。どうやら私は遅筆だったらしい

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