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シリアスを一手に担う魔人

前回のあらすじ:バトル・オブ・セイザ



「いいでしょう勝負しましょう! 土下座も正座も練習したのは事実ですしね! 我が極めしは和の心!ワビサビ!ジャパニーズカルチャー! いざ、シュギョーの成果を見せましょう!」

「…………うん、ありがとう」


 正座はともかく土下座の修行をする神っていかがなものか、と思いつつもその土下座が自分に向けられていた以上ミサキからコメントする事は何も無い。

 受け入れてもらえた事に礼だけ伝えると、メーティスはノリノリでこの場、謎空間に謎パワーで畳(一畳だけ)をポンっと召喚し、その上に立った。同時に服装も一瞬で着物になっている。


「……見事な早着替え」

「これも神の力です。まぁ、着るの初めてなので神の力でズルして着るしか方法がなかったとも言えますが。ふふ、それにしても良い物ですねぇ着物って」

「……薄々思ってたけど、メーティスさん、もしかして日本好き?」

「どうでしょう? スシ、サシミ、フジヤマ、サムライ、ニンジャ、ユリ、オタクとか大好きですけど。バンザイ!」

「……コテコテに偏ってるように見せかけて一部少しおかしいような……」

「あと日本人の外見は私のドツボです。その程度には好きですよ。なのでこの世界――ミサキさんから見れば異世界ですね、ともかく此処は今のミサキさんには洋風な世界に見えるでしょうが、見聞を広めるにつれ日本をリスペクトした要素がちょくちょく見えてくるようになってますので。楽しんでくださいね」


 そう言われ、ミサキの頭にひとつの疑問が真っ先に浮かぶ。


「……という事は、伝承の魔人が黒髪黒眼をしているのも裏に何か良い意味が?」


 それは友としてメーティスの言葉を鵜呑みにしたが故の問い。話の流れで軽い気持ちで聞いてみただけの問い。外見で苦労してきたミサキだが、その問いに嫌味や当てつけなどの悪意は秘めてはいない。彼女はとっくに『この世界にたまたまそういった歴史があっただけ』だと、そういうものだと受け入れているのだ。

 しかし、それに対してメーティスは視線を泳がせた。痛いところを突かれた、と、そう言っているかのように。


「あー、あれは……その……」

「……?」

「……ミサキさんが迷惑している以上、問われたならば答えるのが礼儀でしょうね。あれは……魔人はイレギュラーです。私が意図したものではありません」

「え……」

「日本が好きだと言いながら、何も悪い事をしていない日本人(ミサキさん)の立場が悪くなるような世界を作る筈がないじゃないですか。まぁ、結局今はそんな世界になっちゃってますけど……」

「………」


 おかしな話だ、とミサキは思う。それはつまり全てを作れる神が自身の望む世界を作れていないという事だから。

 まぁおかしくはあるが有り得ない話ではない。何らかの理由で魔人を受け入れざるを得なかったのならば世界は自然とそうなるのだろうから。なので問題はその理由、なのだが……


「……どうしてそうなったのか聞いてもいい?」

「まぁ、私が甘いのでしょうね。私の世界に生きる魔人を私は否定しきれなかった。だから私は……そうですね、どうにかして彼女を救いたいと思っているんだと思います……」


 具体的な事は何一つ明確にしない独白。それの意味するところは、すなわちメーティスは自分だけの力でこの件を解決したがっているという事だ。

 もっとも、相変わらずコミュ力に欠けるミサキにそれがどのくらい伝わったかと言われれば……半分くらいなのだが。


「……何か私に手伝える事は?」


 全部伝わっていれば問い返しはせずに大人しく身を引いただろう。何も伝わっていなければ無神経に質問を重ねただろう。

 だが実際伝わったのは半分くらい。なのでこんな風に人の良さと余計なお世話感が同居した、ありがた迷惑というか、断りづらい善意というか、でも友達フィルター(強)を通せば思わず頬が緩んでしまうような事をのたまった。


「……ふふ、ありがとうございます。その気持ちは嬉しいですが、でもそうですね、ここはちゃんとハッキリ言っておきましょう。私はこの件を自分だけの力で解決したいと思ってますし、それに加えてミサキさんには魔人に絶対に近寄って欲しくないのです」

「……何故?」

「恐らく……いや、ほぼ間違いなくミサキさんの身に危険が及ぶから、です。理由は色々ありますが、一番シンプルでわかりやすいのはミサキさんが私の関係者だからですね。魔人は封印を施した私を恨んでいますから――」

「……私を痛めつけて間接的に復讐しかねない、と。……でも私が神の関係者だと魔人にわかるもの?」


 言わなければバレなさそうなものだが、しかしメーティスは即座に首を振り否定する。


「魔人であればわかります。あれは魔人とは言いますが本質は魔神。じんでありながらしんに限りなく近づいた、言わば狭間の人間――間人まじんでもあります。故にわかるんです」


 言葉遊びの様相を呈してきたが、宙空に文字を描きながらの説明であった為ミサキはしっかり理解した。

 まぁ、結局魔人が魔神だったところでどんな原理でバレるのかまではわからなかったが……質問に対する答えは貰えたので重ねて追及はしない。というか続くアツい言葉のせいでする暇がなかった。


「なので貴女を転生させた神として、魔人を滅ぼせなかった神として、そして友達として貴女を魔人に近づかせる訳にはいきません! ……と言ってもミサキさんの好奇心を止める事は難しいのでしょうが、いざとなれば神の力で遠ざけてみせますよ!!!」

「確かに気にはなるけど……危険だと言うのなら近づかない。心配はかけたくないから」

「あ、そ、そうですか。……聞き分けが良いのは助かりますが……なんか納得いかない……むぅ」


 重ねて言うがミサキは忠告()()耳を貸すのだ。そもそも日頃の奇行だって一応は勝算あっての行動で、未知なるものには考え無しに手は出さないし危険があるならちゃんと警戒はする。

 そのあたりを理解していなかったメーティスはせっかくカッコつけたのに肩透かしを食らった形になり、釈然としない気持ちを抱えたままふてくされた。それに対するミサキのフォローは……


「……じゃあ、勝負に戻る?」

「あっ、はい」


 特に無かった。



 ちなみに肝心(?)の正座勝負自体は途中でミサキが起こされた為引き分けとなっており、勝負自体も地味な絵面で全然面白くなかったので割愛する。





「――おはようございます、センパイ」

「……おはよう、エミュリトスさん」


 左手側から声をかけられ、少しだけ首を捻ってミサキは返事をする。そして次は反対、右手側に視線を向けると……


「…………んあ?」


 隣で気持ちよさそうに眠っていたらしきリオネーラが丁度目を開けたところだった。


「……おはよう、リオネーラ」

「ッ!? お、おはようっ!」


 がばっと勢いよく跳ね起き、そのまますごい勢いでそっぽを向くリオネーラ。跳ね起きた勢いをそのまま利用して首を背ける高度なテクニックである。そこまでして顔を隠した理由は言うまでもない。


(うあー、うっかり寝過ごした……間近で寝顔見られた……恥ずかしい……!)


 普段から何かと世話焼きポジションにいる人ほど、自分が世話を焼かれたり見守られたりする状況になると恥ずかしがるものだったりする。まぁ、付き合いの長さや深さによっても左右されたりするので誰しもが毎回そうだとは言えないが。


(こんな事ならエミュリトスに先に起こしてってしっかり頼んでおくべきだった……。あ、でもあの子に頼んだところで「センパイより優先される事などこの世に存在しない」って真顔で言われて却下されそうだし結局同じか)


 よくわかってらっしゃる。


(まあ、いいか……どーせミサキは何も気にしてないでしょうし……あたしが普通に接すれば済む話よね)


「……リオネーラ?」

「……なに?」


 ミサキの声に対し、リオネーラはひとつ深呼吸して平静を装って振り向いた。

 不自然な動きをしたのは事実だから何か聞かれるかもしれないが、平静を装ってさえいれば「何でもない」で貫き通せる。それが最善だ……と、そう考えて返事をしたのだが。しかし続くミサキの言葉は意外なものだった。


「……大丈夫、心配しないで」

「えっ……」


(まさかあたしの気持ちを察してくれたの……? あ、いや、でも察してるなら察してるで気付かないフリして欲しいんだけど!? 一体何がしたいの――)



「ヨダレは出てなかったから。大丈夫」



「誰もそんな心配なんてして――し、してないわよ!!!!」


 言われてちょっと心配になってしまったのでいまいちキレ方にキレのないリオネーラであった。



◆◆◆



 ――その後。

 今日の検証の結果エミュリトスが作るアクセサリーは睡眠耐性に重点を置いたものに決まったり、昼寝したせいでミサキは夜寝付けず苦労したり、ようやく寝たら寝たでメーティスから正座バトルの再戦を求められたりとかはあったものの大きな事件もなく一日は終わる。

 終わってみれば概ね平凡な、よくある学生の休日だったと言えよう。


 …………言えないか。




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