主人公属性
「あ、あの、どういうことなんですか? 使ってる金属も安物だし、効果もありがちなものばかりですよ?」
未だ信じられないといった感じでエミュリトスが食い下がるも、おっちゃん店長(ヒゲがすごいけど人間族)はガハハと笑い飛ばしながら説明してくれた。
「問題はそこじゃねえんだよ嬢ちゃん。言ったろ?「いい腕だ」って。刻印を入れた奴の腕がいいんだよ。で、腕がいいと効果が長続きする。わかるか?」
「え? アクセサリーの効果って永続では?」
「そんな事はねぇんだなぁ。刻印が機能しなくなったり、あと当然アクセサリー自体が壊れちまえばそれで終わりだ。そして腕の悪い奴の作ったアクセサリーではそんな事がザラに起こる。起こりやすくなるんだ」
詳しく話を聞くと、印の刻み方が浅いせいで磨り減って消えてしまったり、汚れがその浅い部分だけに詰まって刻印の紋様が変化してしまう等の『刻印が機能しない』現象というものがあるらしい。
逆に深く刻みすぎて一部分を脆くしてしまったり、そもそも刻む場所が悪くてアクセサリー全体の強度を落としてしまったりすると出来の良い物よりも早く『アクセサリーが壊れる』事に繋がってしまうとか。
「だがこのアクセサリーにはそれらが無ぇ。的確な場所に正確な深さで刻印されている。完璧な仕事だ。よって『同じ効果のアクセサリーと比べて高級品』になるという訳だ。長持ちするんだから当然だわな?」
「な、なるほど……」
高級品と言われた理由はわかったので一応エミュリトスは頷いた。理屈としてはわかるので頷いた。
が、あまり納得はしていない。おっちゃんの言う「完璧な仕事」がエミュリトスにとっては当然のものであり、というかむしろ最低限のラインだったからだ。師匠である祖父にそう教えられていたからだ。
田舎の山奥で暮らしていた内気な少女(一応本来は内気な少女なのだ)にとってはその教えが全てであり、故に自分の腕の優秀さに無自覚だった訳である。今この瞬間までは。
(もしかしておじいちゃんが厳しかっただけ……? いや、仮にそうだとしてもおじいちゃんの教え自体は間違ってないよね)
途中で効果が切れたり壊れたりしやすくなっているアクセサリーなどエミュリトスから見れば不良品にしか映らない。そして彼女は不良品を作るつもりはない。歳若い少女といえど心の中にしっかりと職人のハートは根付いていた。
(それよりもこれはチャンス! わたしの作るアクセサリーがお店の高級品と変わらないクオリティを持っているなら、それを理由にセンパイ用のアクセサリーを作って献上できる!)
隙あらば自分を売り込む商人のハートまで根付いていた。
とはいえ、彼女がこの考えに至る事自体は理解できなくもない。マルレラがミサキの為だけの装備を作ると宣言したところに立ち会っていたのだ、ミサキを敬愛する彼女が対抗心を燃やしたとしても何ら不思議ではないと言えるだろう。
「で、お嬢ちゃん、どうするんだ?」
「ぅぇ? な、何がです?」
「このアクセサリーだよ。売るって事でいいのか? これだけの腕の一品だ、親御さんからの入学祝いだったりするんじゃないか? お嬢ちゃん、あの学院の生徒だろう?」
荒々しいおっちゃん店長が意外にも繊細な気遣いを見せる。内容に一部勘違いこそあるがこのおっちゃんは良い人らしい。
良い人といえばこの結果を見る限り前のアクセサリー屋の店員の言った事も正しかった訳で、彼も純粋に親切な良い人だったという事になる。少しだけ疑っていた事をエミュリトスは内心で詫びた。
「大丈夫です、自分を高める為に使うなら売ってもいいと言われています。なので売ったお金でまだ何も刻まれてないアクセサリーを買いたいんですが、ありますか?」
「フッ、なるほどな。お嬢ちゃんもドワーフらしくこの道を極めんとする者か。良いだろう、金の許す限り買っていけ!」
勘違いを無理に訂正はせず話をわかりやすい方向に転がす。ミサキには到底出来ない芸当である。
ともあれ、そんなやり取りの果てにエミュリトスはいくつかのアクセサリーを売ってリオネーラが軽く引く程度の小金を手にし、直後それを盛大に使って彫金加工前のアクセサリーを大量に購入していた。
「なんか見てると金銭感覚狂うわねぇ……」
「……確かに」
「アクセサリーの売値に驚いてたし、こういう経験があまりあるとも思えないのに……なんであんな平然とした顔で……」
「……何かがエミュリトスさんの背中を押している?」
「あー、作りたい物があるって言ってたしそれかしら?」
遠巻きにそんな事を語り合う二人はエミュリトスの作りたい物とやらが既に変化している事を知らない。最初こそ自分の物を作るつもりだったが今やミサキの物を作る為に買い漁っているだなんて思っていない。知りようがないから仕方ない。
まぁエミュリトスも知られていないのをいい事に爆買いしているのだが。知られたら止められるであろう事は彼女も理解している、しかしミサキの為なら金に糸目をつけるつもりは一切無い、なので黙って買いまくる。推しメンに貢ぐ為の金は惜しまないのだ。
(たとえいくら払おうとセンパイのためになるのなら実質無料!!!)
そんな感じである。誰かが止めてあげるべき思考だが、しかしやっぱり今はまだ本人以外には知る由がなく止める者はいない。ミサキも他人事のようにリオネーラと会話を続けている。
「……そういえば、あの時私に貸してくれたペンダント……」
「ああ、サーナスと戦った時の……ミサキが強引に防御して守ったやつね」
「うん。恐らくあれもかなりの値段がつくと思う。守っておいてよかった……」
心の底からそう思うミサキであった。最初に差し出された時に受け取らずにいて本当に良かった、とも。
ちなみにそんなペンダントに関してのアレコレはほとんどミサキとエミュリトスの間だけで行われていたので、実はリオネーラは全てを正確に把握してはいない。
「そういえばあたしはあのペンダントの効果を正確には知らないんだけど、何だったの? 話の流れで状態異常対策の物だというのはわかったんだけど」
「確か……刻まれた紋様自体は毒避けの効果。でも素材が純銀だから他にも色々防げる、と言っていたはず」
……それを聞いた瞬間、リオネーラの整った可愛い顔が崩れたマヌケ面に変わった。
「……どうしたのリオネーラ、美少女がしちゃいけない顔してるけど」
「いや……うん、それはどう考えても高いわ。ひとつで複数の状態異常を防げるアクセサリーなんてそれだけで貴重だからね、相当な高級品よ。さっきのお店にも売ってなかったでしょ?」
「……確かに。……最低でも貴重な高級品、か……つくづく守っておいて良かった……」
いくつの状態異常を防げるかによってはさらに値段が上がり、それでなくともエミュリトスの正確な彫金技術のせいで値段は跳ね上がるだろう。借り物だからという理由だけで守ったのだがこの上なく結果オーライだったという事だ。
その時の事を思い出しながらミサキは胸を撫で下ろし……ついでにその日のボッツの言葉も思い出し、ふと疑問を抱く。
「……「状態異常対策は常日頃からしておけ」とボッツ先生は言っていた。だけど複数の対策が出来るアクセサリーは貴重で手に入りにくい。つまり普通は複数のアクセサリーを組み合わせて対策しているという事?」
「対人戦ならそうね。魔物や野生動物相手ならどんな攻撃をしてくるかは大体データが揃ってるから相手に合わせて選択するけど。何にせよひとつひとつ防いでいくのが主流よ。先生もペンダントひとつ装備しただけのミサキに向かって「何の状態異常を防ぐ物かはわからんが」って言ったでしょ? それひとつで複数、あるいは全部を防げるだなんて夢にも思ってなかったってワケね」
「なるほど……」
聞けば聞くほどあのペンダントの凄さが、そしてそれを作ってしまえるエミュリトスの凄さが明らかになっていく。
元々ミサキから見れば精巧な刻印を刻める凄い子という印象だったのだが、それが普通にアクセサリー業界でも通用する程の腕で、しかも本人は指摘されるまでその実力に無自覚で、更に前代未聞のブレスレットまで(偶然とはいえ)作ってしまったりもしていたとくれば、
(……まるでどこかの漫画の主人公みたいだ)
そう思えてくるのも無理からぬ事である。少なくともそれだけのスペックは秘めた人物なのだとミサキは改めてエミュリトスを尊敬するのだった。
……日頃の言動を見てるとついつい忘れがちになるが。
「……っていうかさ、ミサキ、しれっと美少女とか言うのやめてよ……」
「……そう言われても事実だし」
「だーかーらー!そういうのを止めてって――あぁ、いや、やめとこ……これムキになると余計畳み掛けられるやつだわ、多分……」
「……事実なのに……」
主人公属性(主人公に付くとは言っていない)




