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イマサラタウン


 今更だが、この街――多種多様な店が軒を争い、人ごみで溢れるこの商業都市――は大きく四つのエリアに分かれている。

 きっかりと線引きされて分かれている訳ではなくあくまで大体だが、街の中央を十字に貫くメインストリートに沿い東西南北それぞれで毛色の違う店舗が展開されているのだ。

 まず南側が鍛冶(武器防具)屋・道具屋・アクセサリー屋が建ち並ぶエリア。道具やアクセサリーといっても日頃の生活で使うような類ではなく戦闘用の物ばかりで、要するにここは戦う人達ご用達のエリアとなる。ミサキ達が二度足を運んだのはこちらだ。

 東側には酒場とハンターズギルド支部が存在し、一仕事する前と後にこちらを訪れる人が多い。一方で逆の西側には食亭や宿屋、オシャレな服屋があったり、他には日用品や食料品を扱う店舗も並ぶ。戦う人も戦わない人も訪れ、昼夜問わず人の多いエリアと言える。

 最後、北側エリアは主に居住区だ。店を持たない一般市民の家だったり、店を持っていても自宅はこちら、という人も居る。領主や富裕層もここに住んでおり、憲兵(国家憲兵隊)の拠点もあったり協会もあったりするが基本的には静かなエリアと言えた。なおカレント国際学院はこの北エリアの外れ、東寄りの場所に位置している。


 ……と、ここまでが先週街に詳しくない事を悔しく思ったリオネーラが一週間で調べ上げ、親友二人と共有した情報である。

 問題は何故それを今このタイミングで持ち出したのかという事だが――


「すいません、せっかくなのでアクセサリー屋も覗いてみたいんですけどいいですか?」


 マルレラの店を出てすぐ、同じ南エリアのアクセサリー屋についでに寄りたいとエミュリトスが言い出したから……だったら良かったのだが。実際はどう見ても彼女が逆方向を指差しながら言っているからである。


「まぁそっちは街の外だけどね」

「え゛」


 マルレラの店舗(レジェンドなんとか)は南の街外れギリギリに位置し、それより奥に少なくとも他の商店の姿は見えない。というかこの都市を囲う壁と門が遠目に見えているというのに何故そちらを堂々と指差せるのだろうか。彼女の方向音痴の根は深い。


(エミュリトスさんは街中でも迷ったと言っていたけど、一体どんなルートを辿って来たんだろうか……)


 カレント国際学院に続く登り坂への入口が多少わかり難いくらいで、街の作り自体は先述の通りメインストリートを中央に置いたわかりやすいものである。迷う要素はほとんどない。

 助けられてばかりの身だけど、この方向音痴に関してはしっかりフォローしてあげたいな……と、ナイフをどこにどう装備するか悩んだ挙句結局剣のように腰に装着し、来た時同様にマントを纏いながらミサキは思うのだった。



「――それで、アクセサリー屋に行って何を見るの? ミサキの装備?」

「あぁいえ、一応品揃えを見たりセンパイの装備を考えたりもしたいですけど、何よりもまずは持ってるアクセサリーを売ってお金にしようかと思いまして」


 彫金を得意とするエミュリトスは同時にそれを趣味にもしており、私物として多数の自作アクセサリーを学校に持ち込んでいた。ミサキに一度貸した毒避けのペンダントや常に身につけているブレスレット以外にもいろいろと。

 そしてこの世界ではだいぶユルい感じで中古品の買い取りが行われている。現代日本のように身分証明は必要無いし、店によってはジャンルの違う物も買い取ってくれたり(例:武器屋がアクセサリーを買い取る等)もする。買い取った物をどう転がすかも店主の手腕という事だ。

 なので不要な持ち物は割と簡単に買い取ってもらえる……とはいえやはり餅は餅屋で、アクセサリーを売るならアクセサリー屋に持ち込んだ方が正当な値段をつけてもらえる可能性は高い。エミュリトスもそのあたりはしっかりしていた。アクセサリー屋に行くまでに迷ったりするが考え方はしっかりしていた。


「ふーん。お金が足りないの?」

「そういう訳でもないのですが、持ってても使わないような安物アクセサリーは売ってしまってもいいかなと。わたしとしてはこういう労せず手に入れたお金はセンパイの借金返済の足しにして欲しいのですが――」


「……いらない」


「ですよねー。なので売って得たお金は新しくアクセサリーを作る元手にしようと考えてます。作りたい物があるので」

「なるほどねぇ。どんなのが出来るのか楽しみにしてるわ」


 そういう訳でリオネーラの先導に従って来た道を戻り、途中で見かけたアクセサリー屋に皆で入店する。看板を見る限りでは大衆向けの店のようだ。


「すいませーん、買い取りをお願いしたいんですが」


 入ってすぐ、エミュリトスは真っ直ぐカウンターに向かい買い取りを申し出た。店内では迷わないらしい。

 どのようにして査定するのかが気になるミサキだったが迂闊に近づいて顔を見られる訳にもいかず、結局リオネーラに手を引かれたまま店内をブラブラする事になった。勿論店内に居る他の客に近づきすぎないようにしながら。

 そうして5分ほど経過した頃だろうか。ようやく査定が終わったらしく、いかにも生真面目な堅物といった感じの男性店員がエミュリトスに告げる。


「……どうしても、というのであれば買い取りますが、他所の店に持ち込むのをオススメします」


 彼の口から淡々と発された言葉はまさかの実質買い取り拒否だった。

 もう一度言うが彼はいかにも生真面目な堅物といった感じの男性店員である。つまりその言葉には有無を言わせぬ重みとちょっとばかりの取っ付き辛さがあり、それを受けたエミュリトスもしおらしい反応しか出来ない。


「あ、そ、そうですか……そうですよね、こんなありきたりな性能のアクセサリーは需要ありませんよね」


 エミュリトスが売ろうとしたのは毒や麻痺などのメジャーな状態異常を防いだり、パラメータをほんの僅かだけ増減させる程度のアクセサリー達だった。その程度であれば大衆向けのこの店にも既に置いてあり、買い取り品としての需要はあまり無いとは言えるのだろう。

 彼女としてもそれらは片手間に軽い気持ちで作った物であるので、買い取りを拒否されても仕方ないと思える面はあった。大抵の物は買い取ってもらえる筈の世界とはいえ例外はあるのだろうと。よって彼女は大人しく引き下がろうとした……のだが。


「いえ、需要はあるでしょう。ただ当店のスタンスに合わないというだけです。当店は大衆向けであり、そこそこの品質の商品を安く売るスタンスですので。こちらの品は先程も言いましたがもう少し高級品を扱う店舗に持ち込むのをオススメします」

「…………は? 高級?」

「はい。……気づいていないのですか?」


 生真面目な堅物っぽい店員は生真面目な堅物っぽい疑惑の視線を投げかけてくる。どんな感じなのかと言われればつまり問われたエミュリトスがついつい正直に頷いてしまう程度の眼力のある真摯な視線である。


「でしたら尚更高級店に持ち込むべきですね。三軒隣のアクセサリー屋などはそれなりに名の知れた店舗です、正しい値段を付けてくれる筈ですよ」

「は、はぁ……」

「……どうしても、と仰られるのであれば当店で『大衆向け店舗らしい価格で』買い取りますが?」

「い、いえ……せっかくなので紹介されたお店に行ってみます……。あ、ありがとうございました?」

「またのお越しをお待ちしております」


 エミュリトスの謎の疑問形謝辞にツッコむ事もなく、男性店員は生真面目に堅苦しく頭を下げた。言っている事が本当なら親切なのだろうが……思い当たる節のないエミュリトスは少し考え込む。


(うーん、こんなのが高級品? この人が嘘を言っているようには見えないけど……)


 地味にエミュリトスは他人の『視線の裏に秘めた感情』に対して勘が良い。例えば図書館でのクエストの際、ディアンが(勝手な思い込みから)ミサキへの警戒度を引き上げた時も彼女だけはその視線と感情に気づいていたように。裏に秘めた感情が良くないものであればあるほど彼女の勘は鋭くなる。

 とはいえ所詮は勘、働かない可能性もある。働けば信用するが働かないからといって過信は出来ない。故に彼女はこの店員を完全に信用までは出来ずにいたのだが……それでもとりあえずは従ってみる事にした。とりあえず程度には自分の勘を信用しているし、そもそも本当に高く売れるならその方がいいに決まっているので。


「へー、それ、凄いものだったのねぇ」

「そんなはずはないんですけどね……まあ、紹介されたお店に行ってみます」


 しっかり話を聞いていたリオネーラが褒めるも、身に覚えのないエミュリトスはまだ困惑しか出来ない。とはいえ件の高級店に持ち込めば真偽はハッキリする訳で、悩みつつも足を止めることはなかった。

 ちなみに同様に話を聞いていたミサキは……


(……そういえば出会った頃のエミュリトスさんはあんな感じで大人しかったな……懐かしい)


 話の内容そっちのけでのんびりとマイペースにそんな事を思い出していた。何故か遠い遠い昔の出来事に思えるが気のせいだろう。



 そして紹介された高級店に皆で向かい、再度買い取りを申し出たところ……


「おう、コイツぁいい腕をした奴の一品だな! 作った奴は俺様と同等の腕を持っていると言っていいだろう。つまりは『店を出せるほどの腕』って事だ! ガハハ!」

「うそーん……」


 ゴツい体格の荒々しいおっちゃん店長(ヒゲがすごい)にも認められてしまった。どうやらマジらしい。


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