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戦いは数だよ

説明多めです


「まぁ簡単な事じゃよ。作業場を見た時に気づいたやもしれんが、儂は鍛造する際に木炭も石炭も使わん。炉もほとんど使わん。故にそれらのコストが浮いておるんじゃ」

「……炉が少ないのにはエミュリトスさんが気づいていたけど……」


 わざわざ仕切り直してから語られた真相は確かにシンプルなものではあった。とはいえ炉の件以外には誰も気づけていなかったのだが、先週の時点では作業場自体がロクに使われていなかったのでそこに燃料が無い事には気づけなくとも仕方ないだろう。

 よって先週のエミュリトスは真相に一番近い場所に居たという事になる。そんな彼女の反応を伺おうとミサキが彼女に視線をやってみると……


「なにそれズルい……超ズルい……」


 めっちゃ愕然としていた。

 元現代人のミサキは鍛治に関しては素人である。知識だけなら歳の割には知っている方だが素人の域は出ない。それでも燃料のコストをカット出来るというズルさはわかる……のだが、どうやらズルい程度ではなく超ズルいらしい。


「火を使わないって事ですか!? じゃあどうやって鉄とかを熱してるんですか!?」

「いやいや火は使うぞ? ただ儂らの使う火は好きな時に好きな所に好きな温度で好きなだけ、着火も消火も自由自在、というだけの話じゃ」

「そんな細かい制御は魔法でも無理な……あ! まさかドラゴンブレス!?」

「ぬっふっふ、その通りじゃ」


 ドラゴンブレス。ドラゴンの使うブレス。つまりミサキが先週喰らいかけたアレである。


「……私に飛ばしてきた時は火球のようになっていた筈だけど、そんな器用な事も出来るんだ」

「あっ、いや、その件はまことに申し訳なく……」


 ブレスで()()()()()身でありながら今はそれでドヤ顔をしている事に言われて気付いたマルレラはバツの悪そうな顔を見せるも、勿論ミサキにそんなイヤミな意図はない。


「……そういうつもりで言った訳じゃない。ただの疑問」

「う、うむ。あの時のは言わば溜めブレスじゃな。溜めなければブレスという名の通り吐息のように細く長く放射も出来る。炎と変わらぬ使い方が出来るという訳じゃ」

「へえ……便利」


 先週こそミサキに向けられたブレスだが、普段のマルレラはそれを上手く使って金属を熱しているらしい。

 人に向けるよりは正しく人の為になる良い使い方と言える。いや、どちらが正しい(本来の)使い方なのかと言われれば人に向ける方なのだろうが。


「なんてズルい! 鍛冶屋なら自然の炎で勝負するべきです!」

「えぇー、何じゃそのこだわり……どうせお主らだって最初の火は魔法で着けとるじゃろうが……」

「種火を使ってるところだってありますよ!」

「ぬ、そうか、それはすまぬ、偏見じゃったわ」

「謝らないでください!むきー!」

「ええ……。あ、あぁそうじゃ、ドワーフや人間の鍛冶師は時に優れた鍛冶道具も生み出すじゃろう? そういうのは儂らにはなかなか思いつかぬでな、凄いと思っとるぞ!」

「そうやって世間一般の鍛冶師はどうにかコストを下げようと日々戦っているというのに! 元ドラゴンってだけで燃料問題を一気に解決されちゃ立場が無いですよ!」

「そ、そんなにか……知らぬ事とはいえ済まんかった……」

「だから謝らないでください!むきー!」


 どうやら何を言っても無駄どころか逆効果のようである。それほどに燃料費というのは鍛冶屋にとって深刻な問題らしい。勿論技術が進歩する事で改善されつつはあるのだが、危険と隣り合わせのこの世界では武器防具の需要が多過ぎるのだ。

「わーすごーい!」程度の反応を想定していた世間知らずのドラゴニュートは予想だにしないエミュリトスの剣幕にすっかりタジタジになり、彼女の手綱を握っているミサキに泣きついた。目の前の戦いから逃げ出した。


「……助けとくれミサキ。これ、儂はどうすればいいんじゃ……?」


「……私としてはそのドラゴンブレスがどういう原理なのかがずっと気になってる。教えて欲しい」

「助けを求めた先で畳み掛けられるとは思わなんだ」


 しかし回り込まれてしまった。残念ながら飼い主の方も少々アレ(好奇心旺盛)なのだ。

 もっとも話を逸らすという意味では疑問に答えてもらうというのは悪くない流れであり、ついでにその疑問は先週から引き続いてのモノであり、更に言うならミサキだけでなくリオネーラも気になっていたりする。ので今回はリオネーラが素早く助け舟を出してくれた。


「あーその、ゴメンねマルレラ……エミュリトスも落ち着いて。でもブレスについては謎が多いから気になってる人は多いのよ、人族の間ではね。あたしもそうだし」

「ぬぅ。そう言われても原理などは儂自身にもわからんぞ? ブレスを吐く事を意識はするし、体内のマナを使っている自覚もあるが、どうやってるのかと言われると何というか身体が覚えておる感じじゃからのぅ。人族で言うなら……たぶん咳みたいなものじゃよ。普段から使うものではないのに何故か誰でも意識すれば出来るじゃろ?」

「咳って。合ってるのかもしれないけど咳って……」


 ものすごくしょうもなく聞こえる。

 脱力系ツッコミをしたリオネーラは言うまでもなく脱力しており、心なしかミサキもガッカリしてるように見え、さっきまで怒っていたエミュリトスもすっかり白けていた。


「なんじゃこの空気。儂が悪いのか?」

「あたし達人族にとって無詠唱の魔法は未知の領域だからね、憧れもあるのよ。だからそれと似たブレスの謎が解ければ……って思ってたんだけど」

「……んん? 未知の領域じゃと? 可能か不可能かの結論すら出とらんのか?」

「え? あたしはそう聞いてるけど……」

「……そうか。それは……おかしな話じゃな。彼奴等があれだけ研究しておったんじゃ、結論が出てない筈は無いんじゃがな。世間に広めておらぬだけか、お主らが知らぬだけかもしれんが……」


 訳知り顔で語るマルレラ。彼女は長寿故に何かを知っているのだろう。どうにもキナ臭い奇妙な空気になってきた。


「ちょ、ちょっとどういう事よ、あんた何を知ってんのよ……?」

「儂が知っておるのは無詠唱魔法を研究しておった奴等が居たという事実のみじゃ。奴等がどんな結論を出したのかまではわからぬ、故に余計な事は言えん。知りたければ直接聞くといいじゃろ、奴等――『賢者』と『魔女』にな」


 その名に三人は息を飲む。この世界では有名すぎるその名に。

『賢者』はミサキが先週二人から聞いた話の中にあった、現在消息不明の大戦期の英雄だ。数多の種族にその名を知られる有名人である。

『魔女』の方については先週までは知らなかったものの、丁度今週仕入れた知識の中にその名前があった。現在のハンターズギルドの頂点に名を連ねる三人、その中の一人として。つまりこれまた知らない方がおかしいほどの有名人という事だ。

 もっともギルドについてそこまで詳しくないミサキは今この瞬間まで『魔女』がどれほどの存在なのかまではピンと来ていなかったのだが、隣の二人の驚き様を見れば嫌でもわかる。雲の上の存在なのだと。


「賢者は行方不明だし、魔女はギルドのトップ。あたし達みたいな一般人には話せる機会なんて来ないと思うわ……」

「ふ、そうかの? 生きていれば何があるかわからんもんじゃて。儂もミサキみたいな存在に再び会える時が来るなど思っておらんかったしの」


 マルレラは勿論ミサキの性格も好んでいるが、今回はあえて「存在」と言った。それはすなわち永き時の果てに恩人である『スキル持ち(ホルダー)』と再び相見えた事を指している。

 その言葉の重みは理解しつつも永き時を生きていないリオネーラやエミュリトスでは真の意味で彼女に共感は出来ない……筈なのだが、しかし二人はミサキに少し視線をやった後に頷く。


「……確かにそうね、どこでどんな大事な出会いがあるかはわからないわ」

「ですね。センパイに出逢えた事を思えば、過去の偉人にもどこかでポロリと出会ってもおかしくないです」


 マルレラのように時は重ねていなくとも。命の恩人でなくとも、それでも二人がミサキとの邂逅を大切に思う気持ちは劣らないのだ。

 そして、そんな優しく嬉しそうな視線と言葉を向けられればミサキも黙ってはいない。負けてはいられない。


「……逆に私は出会える気がしない。かけがえのない恩人二人に既にこうして出会っているから、もう私の運は底を突いていてもおかしくない」


「ミサキ……」

「センパイ……!」



「……いや、感激しとる所悪いがミサキの言い分は話の流れには正面から逆らっとるからな? 賢者や魔女に会えなくていいのかお主ら」


「「それとこれとは話が別」」


「そうか」


 真顔で即答され、ドラゴニュートは潔く数の暴力に屈した。


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