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結局は怒らせたのが敗因な気もしないでもない

前回のあらすじ:

 負剣士←よわそう

 負けん士←強そう



「――はぁ、なるほど。そういう理由であたしを挑発したのね?」

「はい……。ほ、本気じゃありませんでしたのよ? 気分を害したのでしたら謝りますわ!」


 回復の時間を挟み、復活したサーナスの言い訳――もとい釈明タイムが始まった。

 とはいえ生徒の大半はあまりにあっけない決着に気まずさを覚えてさっさと帰ってしまっている。釈明を聞き届けようと残っているのはミサキ軍団と、剣を手にした理由が気になっていた接近戦バカ二人、それと教師陣だ。


「ま、何でもアリの決闘だったし。言われた事自体には怒ってないから別にいいけど……」

「ホッ……良かったですわ……」


(けど……ただ、こう、ミサキの名前を出されたせいで挑発に乗った、みたいに見られてないかしら……?)


 みたいも何も実際そうなのだが。本人にも自覚はあるっちゃああるのだが、しかしなんか恥ずかしいのでその事実からは目を背けていた。そして運の良い事にミサキは全然気付いておらず、周囲の者達もそこまで細かい事は気にしていなかった。っていうか今残っているメンバーの大半はそもそもそのあたりに興味の無い面子である。

 中でも特に興味が無いのはこの二人、トリーズとユーギルだ。


「なるほどなぁ、要するに筋肉不足だったから剣を持ったって事だな! でもサーナスさん、オレ達みたいな人種は剣を持たれたくらいじゃ止まらないぜ? なあユーギル?」

「お前と一緒にするなアホ。……だが確かにそうだな。結局勝つには近づくしかないのが俺達だ。相手の方から合わせてくれるのならむしろ好都合。罠の有無など迷うだけ時間の無駄だ」


 悪く言えば脳筋である。が、この割り切りの良さが接近戦バカの強みなのも確か。前回共闘していたにも関わらず接近戦バカの思考というものを理解しきれていなかったのもサーナスの敗因の一つと言えるだろう。


「……り、リオネーラさんもそのようなお考えでしたの?」

「いや、あたしは一応魔法も出来るからちょっと悩んだけどね? でもほんのちょっとだけよ。なんというかここまで露骨に誘われてるならむしろ乗っとかないとなーって。決闘を挑まれ、更に得意な接近戦まで挑まれたんだもの、逃げるなんてありえないでしょ?」


 挑発に関しては意地でもノーコメントを貫くリオネーラである。


「む、ぐぬぬ……そういう考え方をするのですのね、貴女達は……。ミサキさぁん、わたくしはどうすれば良かったんですのぉ……?」

「……え、私?」


 こちらは困ったらミサキに泣きつくクセがついてきつつあるサーナスである。

 しかしミサキに聞いたのは結果的に正解だったのかもしれない。彼らの答えはどうにも主観的・感情的でサーナスは納得しきれていなかったからだ。


「……私は……サーナスさんの考え方自体は間違ってないと思う。ただ、そういうはったり――ブラフは加減が難しい。相手の考え方を読んで、露骨すぎず、さりげなさすぎずの所を突かないといけない」

「む、むぅ……確かに、今回わたくしはリオネーラさんを挑発しすぎた結果負けたわけですしね」

「サーナスさんの得意距離は遠距離。それを避ける為にリオネーラは最初から接近するつもりだった筈だし……」

「もっとさりげない程度で良かったかも、という事ですか」

「多分。……あと、もうひとつ。リオネーラみたいに強い人は勘がいい。相手の強さや危険な攻撃を直感的に察してる」


 これはリオネーラの日頃の口ぶりと行動からの推測に過ぎないが、ミサキは確信を持っている。そのままリオネーラに視線を向けてみれば頷きが返ってきたのでこの推測は今この瞬間に真実となった。

 もっとも、その領域まで届いている者は少ない。ミサキもこの一週間でそこそこ強くなったがまだその領域までは達しておらず、そしてこの勘を計算に含めていなかったサーナスもまた届いていないのだ。


「つまり、その勘を『逆に働かせる』ような高度なブラフを仕掛ける事が出来たならわたくしに勝ち目もあったかも、という事ですか……どうすれば良いのか想像すら出来ませんわね……」

「……偉そうに言ったけど、私も具体的なやり方までは想像つかない。力になれなくてごめん」

「いえ、説明として納得のいくものだったので助かりましたわ。ありがとうございます……」


 しっかり礼を告げたサーナスだが、その声色には落ち込みの色がにじみ出ている。ミサキにわかりやすく説明されたからこそ、わかりやすく今回の結果が悔しいのだ。

 自身の戦闘経験の浅さ、心理的駆け引きに対する理解の浅さ。そのあたりが浮き彫りになり、ただただ悔しい。


 ……そんな彼女をフォローするのはミサキではなく、共に特訓したリンデでもなく、対戦相手のリオネーラでもなく、大人達だ。


「ミサキ・ブラックミストの言う通り、心理戦で弱点を補おうとした発想自体は悪くない。戦いは相手を自分のペースに引きずり込んだ方が勝つのが常。お前の場合、接近戦を避けるのにあらゆる手段を講じるのは当たり前の事だ。次に期待しているぞ」


 ミサキを何故かフルネームで呼ぶのは鳥先生、ゲイルである。サーナスに対する褒め方も教師として至極マトモで説得力がある。冷静沈着な彼らしい。この一週間で『ボッツが絡まなければ頼りになる』という彼の人格は充分に周知されている。


「えぇと、そもそもこうして近距離で向き合って始まる決闘の形式自体が前衛職の人達に有利とも言えるので……まあこれは決闘の歴史も関係してきちゃうので仕方ない面もあるのですが。とにかく、あまり気を落とさないで。次頑張れば良いんですから」


 慰めに徹するタイプなのはディアン。ミサキ相手にあたふたしてばかりでイマイチ良い印象が無いが、基本的には優しい人である。教職に不慣れ故の甘さも目立つが、今では生徒からも大分慕われているとか。

 そして最後の一人、ボッツは……


「おいサーナス、接近戦に備えるなら剣よりもナイフやナックル、爪などを選ぶべきだろ。何故剣にした? 俺の授業を忘れた訳ではないだろう?」


 もうフォローは充分だと勝手に判断して普通にダメ出しに走った。しかも割と当たりが強い。

 落ち込んでいるところに追い討ちのごとくキツい言葉をかけるのは流石に人としてどうなんだ、と周囲の誰もが思い、中でもゲイルなどは割って入ろうとさえしたのだが……それよりも早くサーナスが答えた。


「そんなの、剣がカッコイイから以外にありませんわ!!!」


 さっきまで肩を落としていたとは思えない堂々たる宣言であった。


「なら仕方ないな」


 ボッツもさっきまでサーナスの武器チョイスを責めていたとは思えないくらいアッサリ受け入れおった。

 もっともミサキからすれば、あまり深く追求されるとサーナスの言う「カッコイイ」に自分が絡んでいる(っていうか99%ミサキ成分である)事がバレかねないのでこれはこれで良い展開と言えるのだが。


(剣だから良かったんだろうな……他の武器だったらこんな理由では止められていた筈。ボッツ先生だからこそ)


 ミサキがそう断定する理由は今週受けてきたボッツの授業にある。

 今週の授業は先週末の彼の宣言通り様々な武器を使った模擬戦となっており、その結果ミサキも武器についてはそこそこ理解してきつつあった。中でも初回の剣での授業で習った事は彼女の胸に深く刻み込まれている。転生初日にリオネーラから剣を習っていた彼女だからこそ。


(「剣の技術は全ての近接武器に通じる。斬る、突く、払い、叩き、防ぐ。剣に出来る事――剣の持つ武器としての要素のいずれかに特化したのが他の近接武器であり、剣を学んでおく事は全ての近接武器で何かしらの形で活きる」……だったかな。リオネーラが真っ先に剣を教えてくれたのもそういう理由だった訳だ)


 授業内容自体もリオネーラから習った事の復習程度のものであり、本当にリオネーラは基本をしっかり教えてくれていたのだなぁ、とその時にミサキは再認識したのだった。


 ……と、少し話が逸れたがともかくそういう訳で剣を学ぶ事は大事だという話である。故にサーナスが「カッコイイから」というわかりやすい理由で武器を選んでもそれが剣ならボッツは許す、いやむしろ推奨する。そういう事だ。

 そもそも『好きこそ物の上手なれ』という言葉もある。もしかしたらサーナスはいずれ剣を極めてリオネーラの前に立ちはだかるのかもしれない。それはそれでサーナスにとっても当然良い事だし、リオネーラにとっても良い事だろう。そんな日が来るといいな、とミサキは思う。



(……でも『ブラック・オン・ザ・ダークネス』は無いと思う)


 名前として、文法からして怪しいあの魔剣(自称)のネーミングセンスだけはどうにかして欲しかったとも思った。


作者は異世界で剣を振るったことがないのでガバガバ理論でも許してちょんまげ

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