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まけんし!






 ――時は流れ、四日後。リオネーラとサーナスの決闘の時が訪れた。


 この週も相変わらず細々としたイベントはそこそこあったがそれは追々語るとして、一番大きなイベントはやはりこの決闘である。

 クラスメイト全員が興味を惹かれ、教師陣もそれなりに注目し、ミサキとしても純粋に両方を応援している、そんな好カードの一大イベント。盛り上がらない筈がない。



 ……ちゃんと戦えば。





 クラスメイト同士の決闘も二度目という事で流石にボッツも授業の時間を割いたりはせず、二人の決闘は放課後に行われた。

 グラウンドの中央で二人は対峙し、審判役にはレベルの高いユーギルとトリーズが割り振られ、他のクラスメイトとボッツ、ゲイル、ディアンの教師陣代表三人はそれを遠巻きに見守る形となる。

 なお教師陣が審判をしない理由はボッツ曰く「何事も経験だ。なァに、クラス長なら滅多な事にはならんだろうさ」とのこと。それっぽい事を言っているが要するにめんどくさいらしい。ゲイルとディアンはいざとなったら割って入れるよう構えているが、そのせいもあってボッツは完全にだらけきっていた。


「準備はいいか?」


 審判役二人のうちの一人、ユーギルが決闘者二人に問いかける。一匹狼の彼が大人しく審判役を引き受けているのは間近でリオネーラの戦いを見たいという目的があるからである。妥当リオネーラを目標としている以上、相手を観察出来る機会を逃す手は無いのだ。


「準備? フフフ……そんなのとっくの昔に出来ていましてよ。さあ、魔剣『ブラック・オン・ザ・ダークネス』、わたくし達の初陣ですわ!」


 問いかけられたサーナスはなんかテンション高く変な事を言いながら剣を抜き放った。魔剣と言うだけあってその剣は黒いオーラを纏って……はいない。っていうかいつも通り備品の剣から適当に一本選んだだけなのを全員が見てたので魔剣な訳がない。

 つまりこれは……レンの時と同じような『なりきり』である。どうしてこうなった。


「……なぁによ、それ……」


 困惑しきったリオネーラの問いに答える者はいない、が、サーナスはチーム戦の時もナイフすら手に取らなかった生粋の(または意地っ張りの)弓術士である。そんな彼女が剣を持つ、その事が別の答えを示してはいた。


「接近戦をするつもりか、エルフのその細い筋肉で! こいつは面白くなってきたなぁ、ユーギル!」

「審判があまり無駄話をするなアホ。だが確かに興味深くはあるな。この一週間で何か仕込んできたのかもしれん」


 筋肉バカのトリーズは勿論、身体能力に優れ、それを誇りとする獣人であるユーギルもまた接近戦バカではある。接近戦の予感にテンションが高揚するのも無理はない。外野でだらけきっていたボッツも同類であり、いつの間にか少しだけ前のめりな格好になっていた。


「ふふ、どうしましたリオネーラさん! わたくしと魔剣のコンビを恐れましたか!貴女の心意気はその程度ですか! そんな調子ではミサキさんも魔剣を使いこなすわたくしに靡いてしまいますわよ!?」

「あ゛? ……ふん、上等よ。付き合ってやろうじゃない!」


 剣士であるリオネーラの本領も当然接近戦だ。そんな彼女に接近戦を挑むという事はよほどの自信があるか――もしくは罠か。どちらかまでは読めなかったが、挑まれて(もっと言うなら煽られて)引くという選択肢はリオネーラという感情的な少女には無かった。

 なお、今回はハンデ無しの純粋な決闘になっている。他ならぬサーナスがそれを望んだのだ。その代わり彼女の今のレベル・パラメータは共に特訓していた妖精族の子達(と測定に協力していた教頭)以外には徹底して秘匿されており、一週間でどの程度育ったのかは当事者以外にはわからない。

 故にユーギルの言う通り、サーナスが何かを仕込んでいる可能性は高い。罠を張っている可能性は高い。それでもリオネーラはセリフと共に腰の左右から剣を引き抜き、姿勢を低くして構えた。言葉でも構えでも、サーナスの誘いに乗り正々堂々正面からぶつかり合う事を宣言したのだ。それを見てサーナスは笑みを浮かべ……それを受けたリオネーラもまた笑みで返す。


「………」


 そんな光景を見守るミサキは今回は普通に観客である。特に何の役も与えられていないし本人もするつもりが無い。普通に二人の戦いを見、普通に学ばせてもらうつもりだ。

 ……否、そのつもり()()()。今となっては正直そんな事を言っている場合ではない。戦い以前にサーナスの奇行が気になってしょうがない。得意とする弓を捨て、魔剣とか言い出したサーナスの奇行が。


「…………リンデさん、なにあれ」


 左隣に座る、今週一週間で更に仲良くなったリンデに問いかける。ちなみに右隣には当然エミュリトスが座っており両手に(幼女)状態で(ついでに真後ろにレンもいるが)、そのせいで決闘前のサーナスからネットリした視線を向けられたのはここだけの話……でもなく最近は大半のクラスメイトも気づいているのだが、とにかく今は置いておく。


「えぇっと、そのぉ……ごめん、しっかり鍛えておくって言ったのに……」

「……責めてる訳じゃない。手伝えなかった私にそんな権利は無い。ただ何があったのか知りたいだけ。教えて」


 リンデ側から見ればサーナスの特訓相手に名乗り出た形になるため責任を感じているのだろうが、ミサキから見れば自分に出来ない事を丸投げして任せた形になるので責めたりなどする筈もない。そもそもサーナスもなんか得意気に魔剣とかほざいてるので特訓には満足していると思われ、外野のミサキが文句を言うのは筋違いにも程があるのだ。

 ただ、どうしてこうなったのかがわからない。ミサキはその経緯を知りたいだけである。


「えっと……防御力を上げる特訓って事で、最初は妖精族みんなで剣を持ってサーナスの相手をしてたんだー……」

「うん。妥当だと思う」

「そしたらある時サーナスが突然「やっぱり剣を持った女の子って最高ですわ!わたくしも剣を持ちたいですわ!」って叫んで……」

「……まぁ……剣は防御にも使えるし、持つのは悪い事ではないと思う……」


「やっぱり」のあたりに不安を感じるが気のせいだろう。きっと前々からリオネーラの姿を見て憧れていたんだろう。


「そして剣を手に取って「魔剣ってカッコいいですわよね、魔王が持ってそうで!黒って良いですわよね、魔王っぽくて!」とか言い出して」


「…………原因、私か…………」


 ミサキは頭を抱えた、が、すぐに気を取り直す。

 原因が自分にあった以上、次に気にすべきなのは魔剣士(サーナス)に勝算があるのかどうかだ。自分の姿を見たせいで勝負を捨ててでも魔剣士をやりたくなった、とかだったらなんかちょっと申し訳なくなってしまう。

 だがそれが杞憂なら――勝負を捨ててさえいなければ、何の憂いもなく両方を公平に応援できる訳で。ここは明確にしておかないといけない。


「……それで、勝ち目はあるの?」

「一応、レベルが2上がるくらい防御力は育ったよー。ノリノリで魔剣士やってたのが良かったみたいー」

「……ちゃんと育ってる。すごい」

「にへー」


 謝る必要などどこにも無かったくらいに育っていた。なのでミサキは素直に賞賛し、リンデも素直に喜ぶ。

 ただ、それでもサーナスのレベルは31。リオネーラは50。その差は19レベル分にも及ぶ。普通にやったのでは到底勝ち目はない。その事はリンデも理解していた。


「あっ、でも、それでもやっぱり勝ち目があるとは言い難いんだよねー……レベルも防御力も上がって、サーナスにはバリアーの魔法もあるけど、それでもリオネーラの攻撃力の前じゃ……」

「……リオネーラはどうやら『双剣士(デュアル)』で戦うようだし、尚更」


 今まで剣一本で戦ったり二本で戦ったりしていたリオネーラだが、ミサキが先日聞いてみたところ彼女は剣に力が込めやすく攻守バランスの良い一刀流の剣士(プライム)モードと、攻撃偏重の二刀流である双剣士(デュアル)モードを相手や状況によって使い分けて戦うスタイルとのこと。ミサキに明かして以降はクラスメイト達にも聞かれれば明かし、そのスタイルはあっという間に周知される事となった。

 もっとも、見てればわかる人にはわかるのだろうが。だが彼女曰く「モードに名前があるのが大事なのよ、それを知られているかどうかが大事なのよ、気分的に」という事らしい。なおモード名は自分で考えたそうな。


 まぁそれは今はいいとして。今問題なのはサーナスが勝利を狙いに行っているのかどうかだ。この絶望的な状況で。


「サーナスも勝ち目が薄いのは理解してたよー。だから勝つ為に狙いを絞るって言ってた。剣を持ったのもその為だってー」

「……というと?」


 どうやら勝負を諦めて剣を取った訳ではなく、剣を活かした戦い方をするつもりらしい。ミサキはホッとしつつ、話の続きを促す。


「どうせ近づかれたら負けだから、近づかれる前に最強魔法を全力で一発撃ち込む、ってさ。もちろん普通なら魔法を唱えてる余裕はない、だからあの手この手でリオネーラを近づかせないようにする、ってー」

「……あぁ、なるほど……一見意味のわからない行動も全部……」


 どうせ普通にやっても勝ち目は無いのだ、ならば攻撃面では全力の一撃に全てを賭けるのは当然――というかそれ以外に選択肢は無い。

 今回サーナスに選択肢があったのはその前段階。「あの手この手で」の部分だ。そう考えて彼女の行動を振り返れば一応理解できなくはない行動を取っている。相手にパラメータがバレない決闘の形式を選んだ事、日頃からエルフらしさにこだわっているのに今回だけは弓を捨て剣を手に取った事、リオネーラを挑発した事、どれも『露骨に罠っぽく見せて接近を躊躇させる』のが狙いだとすれば筋は通るのだ。

 それは言わば心理戦。読み合いで有利を取るのが狙い。強者相手にレベルの関係しない所での勝ちを狙う、その考え方は恐らく間違っていない。……のだが……


「……でも、リオネーラをやる気にさせてしまったら元も子もないような」

「……だよねー……」


 その為の行動がどれもこれもリオネーラに対して逆効果だったのが運の尽きというか。特に最後の一言(挑発)が思いっきり火をつけてしまっており、その結果どうなるかなんて火を見るよりも明らかである。

 まぁ、それでも試合を見届けない訳にはいかず……


「ぎゃふーん!」


「「「………」」」


 決闘開始直後に面白い格好で吹っ飛んでいくサーナスを、ミサキは皆と一緒に無表情で眺めたのだった。



今月もよろしくお願いします。

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