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初心者救済要素は大切

説明回です



『はぁーい』


「……………」


『あの、ちょっと、その露骨に失望したかのような睨むような据わった視線のようなそれは本気で怖いのでやめてくれませんか……」

「……そこまではしてないけど……」


「まだ聞かない」と宣言したのは女神にも聞こえていた筈なのにこうして呼び出されたのだ、物言いたげな視線にもなろうというもの。

 とはいえ別件の可能性もある。というか聞こえていたなら別件の可能性のほうが高い筈だ。早とちりして視線に出してしまった自分を恥じつつ、ミサキは問う。


「……ごめん、用件も聞いてないのに。何?」

『あ、良かったいつもの眼に戻った。といっても見た目はいつもとそんなに変わらないんですけどね、眼の面積的にはね。あぁ、それで用件でしたっけ、ええと、ミサキさんのレベルが上がりやすい理由についてなんですけど』

「………………」

『ヒィッ』


 さっきより強い視線になっているのは言うまでもない。


『ま、待って、落ち着いてください! ミサキさんが気高き信念から知る事を拒否したのは知っています、見てましたから! その上で、その信念に抵触しない範囲で、私という神の立場からしか言えない事があるんです!』

「………。わかった、聞かせて欲しい」

『あ、い、いいんですか? 私がこう言うのも変な話ですけど』

「いい。友達がそう言うなら信じる」


 ミサキとしては何の説明もなかったから強い視線を向けていただけで、説明されればひとまずは信じる。この微妙にポンコツな女神をここまで早々に信用するのはちょっとリスキーだが、そこは最初に事情も聞かず冷たい視線を向けてしまったお詫びというやつだ。

 そのあたりを察した訳ではないが友達と言われればやる気も元気も出るチョロい女神は、ミサキを怒らせぬよう慎重に言葉を選びつつ説明する。


『……ミサキさんのレベル――というかパラメータが上がりやすい理由について、今私の口から言える事は三つあります。あ、一応言っておきますが、レベルが上がってパラメータが上がるのではなく逆ですからね。人の『強さ』をパラメータとして数値化して、そこから更に総合力として算出したものがレベルです。ここまでは大丈夫でしたか?』

「うん。その『強さ』というものに肉体的な強さと知識を含むという事までは知ってる。それ以上は――」

『わかってます、あの世界で研究してる人が明らかにするかもしれないから言わないで、ですよね。大丈夫です、今から語る理由はその二つにしか関係しませんから』

「……ありがとう」

『どういたしまして! では……まず一つ目はミサキさんが頑張っているからです。前世で勉強慣れしているから頑張れば頑張るほど主に知識面での吸収が早くなるんですね、えらい!』

「……あ、ありがとう……?」

『どういたしまして! この世界の人だって生きる為に必死に学んでいますが、ミサキさんはそれに上乗せする形で勉強好き故の貪欲さがあります。だから伸びます。これからも変わらない貴女でいてください。以上です』

「わ、わかった……」


 なんか神の立場からとか神の口からとか言われた割にフツーに褒められるだけで終わった。

 これには流石のミサキも多少反応に困っていたが……女神としては最初のひとつはシンプルに、という考えがあっただけの事。つまり、次は多少複雑な話となる。


『次、二つ目ですが……この世界にはマナがあります。が、実は魔法の無いミサキさんの世界にもあったんですねぇ、これが。大気中に。大気の成分比率は神のコミュニティの中でテンプレがありまして、基本的に人間の存在する世界はどこもそれを使い回してるんですよ』

「テンプレ……テンプレート、雛形という事? マナが私の世界にもあったというのは意外……意外すぎる」

『はい。あったのです……が、有体に言えば休眠中でした。スリープ状態で大気中に存在してました。神が魔法のない世界に設定する場合、何にも反応せず、知られる事も無いようにそうするのがセオリーなんですよ。マニュアルにもそう載ってます。見ます?』

「……いや、いい」

『そうですか? 遠慮しなくていいのに』


 興味が無いとは言わないが、テンプレとか設定とかマニュアルとか言われるとその世界に住んでる(住んでた)人としてはすごくビミョーな気持ちになるのだ。ミサキでなければ表情に出ていただろう。


『えーとそれで、つまりミサキさんの前世でも大気中にマナはあり、呼吸によってミサキさんの体内にも取り込まれていました。そしてミサキさんの身体を『そのまま』こちらの世界に転生させた時、こちらの生きたマナに刺激されてミサキさんの体内にそのままあったマナも活動を開始しました。こちらの世界に合わせるために』

「……再起動した、と」

『そんな認識で大丈夫です。で、生きたマナというものは魔法の発動ともうひとつ、身体能力の上昇にも影響しています。身体能力です。身体に関して、ミサキさんもこちらの世界で何か不思議に思った事があるのではないですか?』

「……前より体力がつきやすいとは思っていた。まだまだ細いのに普通に動けているし……それと細いと言えば、リオネーラ達の細い身体のどこにあんな力があるのかも疑問だった」

『だいたいマナのせいです。あ、違った、マナのおかげです。身体を動かし、マナを全身に行き渡らせ、馴染ませる。そうすれば身体が強くなりパラメータが上がります。体内のマナを消費する分、ミサキさんの前世の見た目基準より格段と、ね』


 パラメータの上がるシステムの中の未だに明かされていない部分に当たる話ではあるが、ミサキの信念には抵触しない。この世界ではここまで含めて『肉体的に強くなる』事だからだ。これがこの世界の『普通』だからだ。

 更に言うならこの『普通』が揺らぐ事も絶対に無い。この世界の人達はマナが休眠している世界が存在する事すら知らない。万が一想像が出来ても観測が出来ず、身体能力の成長に差があるというデータが取れない。マナの有無にも成長の差にも気づけず、ならば正解も導き出せない。それこそ神の視点でなければ無理なのだ。


『まぁ、そのせいで魔法で体内のマナを使い果たすとものすごい虚脱感で動けなくなるデメリットもありますが』

「……魔力切れ?」

『はい、ミサキさんは初日に体験してましたね。まぁあれは本当の魔力切れではなく初めて魔法を使った人に身体が警告を出してるだけなんですけど。使いすぎるとこうなるぞぉ~、って。あ、意識を失う人はガチで切れてます』

「サラッと言う……」

『で、話を戻しますと、ミサキさんの年齢相応――よりはだいぶ細いですが……えっと、まぁそのそんな身体には前世で使われる事なく溜め込まれてきた大量のマナがあったんですよ。だから魔法を使っても魔力切れにならなかった……というのはもういいですね、ともかく、そのマナがフル回転してるうちは身体もガンガン育つんですねー。これが二つ目です』

「……転生者特有の現象――ブーストで、それも最初のうちだけ、と」

『はい、今はまだこの世界にはミサキさんしか転生者は居ませんが、もし私がミサキさんと同じ条件で二人目を転生させたとしたら同じブーストがかかります。ただ、同じブーストでも初日からこんなにレベルが上がる可能性は恐らく低いかと』

「……それは、三つ目の理由に関係してる?」

『イエス、そういう事です』


 正確には一つ目の理由も多少関係してくるのだろうが、それでも話の流れからミサキはそう察した。コミュ力の無い彼女だが、『自分ならそういう風に話を組み立てる』という根拠からそう推察する事は出来るのだ。

 そんなミサキの察しの良さを女神は喜び、話を続ける。


『私は先程、ミサキさんの中の休眠状態のマナが生きたマナに触れる事で活性化した、と言いましたが、ではその触れた『生きたマナ』とは何か?という話なんですよ』

「それは……」


 普通に考えれば大気中のマナである。が、そんな普通の事でわざわざこんな持って回った言い方はしないだろう。

 ならば先程の「次の転生者は初日から同じだけのブースト効果が出るとは言い切れない」という台詞を紐解けばいい。「初日から」というところから恐らくは初日の時点の出来事で、尚且つ「言い切れない」という表現から運の絡んでいる出来事だと思われる。とはいえ、神なら運さえも弄れる可能性はあるが……少なくともミサキ視点からは『女神の手の加わっていないラッキーイベント』にしか見えないという意味だろう。

 まとめると、ミサキは初日……女神の手を離れた後、どこかで運良く生きたマナに触れる機会があった、という事になり――


「……もしかして、マジックパン?」


 初日の出来事を時系列順に思い出せば、それっぽいものがいきなり出てくるのだ。


『ご明察。あれは魔法を使う人達が好んで食す魔力補充用の食料でして。効果こそ魔力回復薬には劣りますがお腹も膨れて何より美味しさと日持ちの良さが両立されているのが長所です』

「……確かに美味しかった」


 名前とは裏腹に普通のパンの食感だったので当時は少し拍子抜けしたが、味が美味しかったのは事実。ボッツから貰ったパンは味も食感もなんというか保存食って感じだったので尚更だ。

 まぁ実際ボッツのパンは後で聞いたところ彼が常に携帯している保存食だったのだが、結果として遠い田舎から出てきて入学式に臨んだ筈のリオネーラが持っていたパンの方が美味しいという不思議な体験になり、今となってはマジックパンは美味しいものとしてミサキの脳裏に刻まれているのだった。


『魔力補充用の食品という点からわかる通り、あれにはマナが沢山含まれてまして。だから日持ちして美味しく感じるのですが、あの時はそれ以上にミサキさんの体内のマナを活性化させる作用が大きかった訳です。その結果ミサキさんの体内のマナは初日からエンジン全開フルスロットル、しかもマジックパン本来の効果で更に増量されるというオマケ付き!』

「……呼吸で生きたマナに触れるだけではこうはならなかった、と」

『そうですね、ゆっくりエンジンがかかってた筈です。冬場のバイクみたいなものですよ』

「……免許取った事ないからわからないけど……とりあえず、こんなところでもリオネーラのおかげ、か。本当に助けられてばかりだ……」


 どれだけ彼女に助けられているのだろうか。どれだけ借りがあるのだろうか。本人は気にするなと言ってくれているが、ならばせめてライバルとして期待に応える事で借りを返したい。

 そんなミサキにとって、レベルアップブーストにリオネーラが一役買っていたのは何と言うか物事が上手く回っているなぁと嬉しい反面、ほんの少しだけ……ブーストは一切無しで、素の自分だけで彼女と競い合いたかった気持ちもある。もっとも、強くなるのが最優先だし、ブーストだって自分が前世の続きとしての転生生活を望んだが故の結果なので本気で望んだ訳ではないのだが、正々堂々という綺麗事を捨てきれないのもまたミサキなのだ。

 だから、その次の女神の言葉は正直――嬉しかった。


『あ、ちなみに二つ目のスタートダッシュボーナスですけど、あれは大体レベル10前後で終わる計算でした。10あれば非戦闘員の人達よりは強いので充分かなーと』

「……え?」


 確かにレンやリンデ達のような争いを嫌う人達のレベルは10に満たない。ミサキ自身はあまり実感出来ていないものの、既に一般市民よりは強いのだ。……今のミサキにとって大切なのはそこではないが。


『三つ目のマジックパンの効果も当然とっくに切れてます。でも今のミサキさんのレベルは13。転生者特有のブーストやラッキーイベントがなくてもミサキさんは充分早いペースで育っていますよ』

「…………心を読んだ?」

『まさか、そんなミサキさんに嫌われそうな事はしませんよ。でもミサキさんが喜びそうな事は言いますよ、友達ですから! 人は努力を褒められると嬉しいというのは見ていて知ってますからね!』

「……参った。ありがとう、確かに嬉しかった」


 そう言い、ミサキは素直に頭を下げて感謝の意を示した。……常にミサキ達を観察している女神としては頭を下げる姿よりも彼女の笑顔が見たかったのでちょっぴり不服だったのだが。


「………。女神さん」


 そんな女神の考えなど知る由もないし知った事ではないミサキは、少し考え込んでから問い掛ける。


『……何ですか?』

「……貴女の名前、教えて欲しい」

『………………はい?』

「……友達なのに名前を知らないのは失礼だと思うから。あと呼びにくい」


 女神は目を点にしているが、ミサキの言い分自体はもっともである。珍しくすごく普通の事を言っている。

 にも関わらず言われた側の女神が目を点にしている理由はというと、不満でふくれているところに不意打ちを受けたからというのもあるのだが、それに加え『答えにくい質問』だからというのもあった。


『えぇと、その……』

「……ごめん、勉強不足で。貴女を崇める女神教が存在する事は知ってるんだけど」

『いえ、謝らないでくださ――ってあぁ、許してしまったら素直に白状しないといけなくなる! ダメです許しません!自分で調べてきてください!ぷんぷん!』

「わ、わかった……何か理由があるのなら無理には聞かない」


 好奇心に振り回されていない限り、人の嫌がる事はするべきではないという常識的な自制心はミサキの中でちゃんと働く。あっさりと彼女は引き下がった。

 そして、そんな聞き分けの良さを発揮されると今度は女神が罪悪感を覚えてしまう。何せ実のところ答えにくい理由は「恥ずかしいから」以外には無いのだから。


『……ごめんなさい、嘘です、正直に言います。でもノーコメントでお願いします。っていうか言ったらすぐ私は逃げるのでそこんとこヨロシク』

「……いや、無理してるなら別に……」

『恥ずかしいだけで無理ではないです。ただし前提として、ミサキさんの世界の神話がこの世界には存在していないって事は頭に入れておいてください。こちらの世界の人達が何も知らず私をそう名付けただけだという事は理解してください』

「……はい」


 つまり前世の神話の存在と名前が被っているという事なのだろう、とミサキは正確に推察する。それの何がどう恥ずかしいのかは聞いてみなくてはわからないが……


『……メーティスと呼ばれています。ではサヨナラ』


 それだけ言い残し、本当に女神はこの謎空間から姿を消してしまった。一人ぽつんと残されたミサキはなんとなく聞き覚えのあるその名前について記憶を掘り起こす。


「……メーティス……メティス? あぁ、ギリシャ神話か何かの……知恵の女神だったっけ……?」


 その名が知恵という意味を持つとか知恵を司る女神だとか言われており、まぁそういう事である。

 偶然とはいえ、よりによってあの微妙にアホ――もとい間の抜けた――いや迂闊な――詰めの甘い――とにかく残念感ある女神によりによってそんな偉大な名前がついているという事である。名前負けである。

 っていうか恥ずかしがっていたという事は自分でも名前負けしている自覚があるという事になる訳で……


「……メーティスさん、もし名前を変えたくなったら呼んで。この世界に広められる自信は無いけど、私はその名で呼ぶようにするから」


 ちょっとだけ可哀想になったミサキは、聞こえているかはわからないがそれだけ言い残して謎空間を後にしたのだった。



この回で四章は終わりとなります。お疲れ様でした。ありがとうございます。どういたしまして。

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