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記憶喪失キャラ予備軍


◆◆



 ――その後、軽く回復魔法をかけたらレンはいつもの姿で復活した……のだが、自分が暗黒騎士になりきっていた間の事は全く覚えていなかった。


「えっと……何があったの?」


「「「「……………」」」」


 その問いに対し、事実を正確に語り聞かせようとする者はいない。彼の暴走っぷりは比較的空気を読まないミサキでさえ伝えるべきか悩む程であり、他の優しい皆の考えは『これは隠蔽すべき不幸な事故』で一致していたのだ。


(……レン君の優しい性格を考えれば、自分が暴走してサーナスさんのシナリオを台無しにした、なんて事は知らない方がいいか。自分を責めかねない。サーナスさんが怒っているなら別だけど……)


 台無しにされたサーナスが怒っているならばレンには謝ってもらわねばならない。それが筋を通すという事だ。勿論レンを止められなかった自分も一緒に。

 そのあたりはキッチリしているミサキはサーナスの顔色を窺ってみるも、賢きエルフは苦笑しつつ人差し指を立てて口に当て、「しーっ」と言ってくれた。なんだかんだで防御力を上げる為に攻撃を受けるという目的は達成したし、ごっこ遊びも楽しかったのでサーナス的にも問題は無いのだ。最後はまぁ……ちょっとしまらなかったが。

 それよりも彼女としては今回の特訓の成果の方が大事である。レンの質問を全員で息を合わせて黙殺し続けた後、タイミングを見計らって職員室への移動をサーナスは提案した。





「パラメータの測定をお願いしますわ!!!!」


 サーナスが職員室の引き戸を思いっきり激しく開け放ちながら叫ぶ。扉が開いたという事は中に誰か居る訳で、当然その誰かは教師でありそんな行いを注意せねばならない立場な訳だが、


「……壊したら弁償ですからね。せっかく直したんですから。私が」

「あ、も、申し訳ありませんですわ……」


 教頭であれば溜息と共に呟くだけで効果は抜群なのだ。なんかもう日頃から苦労しているのがわかりきっているので。何なら今も何故か職員室の床で大の字になって寝ている校長の姿が見えるので。


「あの、教頭先生? 校長先生は生きていらしてますの? ってお酒臭っ!?」

「骨が生きているかどうかとは哲学的な問いですが、先程仕事を終えて命の水を飲んだ結果がソレですよ」

「ああ……お疲れ様です」

「どうも。それよりもパラメータ測定でしたか? ずいぶんとたくさん居ますが……あまり時間も無いので早めに終わらせてくださいね」


 察してくれたサーナスの背後に視線を向けながら教頭が言う。確かにもう陽が落ちようかという時間な上、結局あの場に居た者は全員ついてきてしまっているので大所帯といえば大所帯であり教頭の懸念はもっともだ。

 だが全員がパラメータを測りたい訳ではない。っていうか極端に乗り気なのはサーナスだけである。


「問題ありませんわ、そこまで時間は取らせませんので」

「そうですか、ではどうぞ」


 ミサキ達が測った時と同様、円錐台が光を放ち、サーナスがその上に乗る。そのまま30秒弱くらいで全ての数値は出揃い――


「ふむ……」

「な、何ですの!?」


 教頭が意味深に頷いたのを見、サーナスも台上から跳び降りる。斜面の部分に数値が表示されている関係で上からは少々見難いのだ。

 そんな訳で教頭の反応を受けてちょっぴりワクワクしながら――もしかしたらレベルまで上がってるのではないかと期待しながら――数値を見たサーナスだったが、レベルは変化なく29のままだった。がっかり。


「くっ……ま、まだですわ、まだ防御力のパラメータが――」


 そこでサーナスは絶句する。そこには彼女の思考を一時停止させる程の結果があったからだ。……勿論、良い意味で。


「……お、おおぉ……! 防御力がどちらも2上がってますわぁぁぁぁあ!」

「良かったですね、おめでとうございます」


 教頭が拍手しながらにこやかに言う。意味深に頷きながらもそれ以上は口に出さない、という細やかな気配りが出来る彼は当然生徒の努力も正当に評価するのだ。

 なお余談だがこの装置、前回の数値との比較まで丁寧に表示してくれている訳ではない。不特定多数の人が乗る装置でそんな事は出来ず、したがって数値は自分で覚えておく必要がある。

 ……つまり数値を見て即座に頷けた教頭はしっかりサーナスの前回測定時の数値を覚えていたという事である。っていうか全生徒の数値を覚えている。すげぇ。


「やりましたわ! これぞ特訓の成果! 皆さんご協力ありがとうございます! ありがとうございますっ!! これからも頑張ります! 今後とも応援よろしくお願いしますわ!」

「「「お、おめでとー」」」


「……リオネーラ、この短期間に2上がるのは凄い事なの?」


 選挙に当選したかのような盛り上がりを見せるサーナスを尻目に(祝う気持ちはあるので拍手はしながら)、ミサキはいつの間にか隣に居たリオネーラに小声で聞いてみた。彼女は一日でレベルが4上がった事があるのでイマイチ感覚がわからないのだ。


「そうねぇ……レベルが上がるにつれてパラメータも徐々に上がりにくくなるからね。サーナスが防御力の低そうな後衛タイプだというのを差し引いても、あのレベルで、そしてあの安全な特訓方法で短時間に上がる数値として見れば上々じゃないかしら。正直驚いてるもの」

「なるほど……。でも驚いてると言う割にはまだ余裕が見える」

「ふふ、そうね、侮ってる訳ではないけど負けるつもりもないし。あたしを焦らせるのは…………きっとミサキ、あなたの方よ」


 どこか確信を持っている、そんな瞳と声色でリオネーラは唐突に断言した。サーナスの半分にも満たないレベルの、今まで散々ワンパンでKOしてきたミサキに向かって、だ。

 ……念の為言っておくが日常の奇行で焦らせるという意味ではない、念の為。


「……買い被りすぎ。リオネーラの背中は遠すぎる」

「どうかしら、ミサキもレベル測ってみたら? あれから測ってないでしょ、きっと2か3くらい上がってるわよ」


 再び、確信を持った声色で。

 リオネーラに勝てる気はまるでしないが強くなりたいのは確かだし、何よりそうやって自信満々で言われると確かめたくなってしまう。

 ミサキはまんまと乗せられ――いやリオネーラは確信があっただけであって別にミサキを乗せようという意図は無かったのだが結果的にそうなり――、測定器に向けて足を踏み出した。


「……私もいい?」

「あらミサキさん、どうぞどうぞ! そうですわね、特訓を手伝ってくれたミサキさんも育ってる筈ですわよね。レベルも上がってるんじゃないでしょうか、わたくしをあれだけボコボコにしたのですから!」


 示し合わせた訳でもないのにリオネーラと同じ結論を出すサーナス。頭のいい二人がこう言うならやはり上がっているのだろうか、と考えながらミサキは測定器に乗った。

 一方でサーナスの言葉に疑問を抱いた者も居る。もっとも、疑問を抱いた箇所は今までの話の流れとは少し違う所なのだが。


「……ミサキさんがサーナスさんをボコボコに? 一体どんな特訓をしていたんですか、貴女達は」

「あれ、教頭先生、もしかしてわたくし説明していませんでしたか? 施設を借りたいと告げた時に」

「特に聞いていませんね。流石に逐一生徒の休日の行動を監視するような真似をするのもどうかと思うので尋ねませんでしたが、今になって興味が湧いてきました」

「では説明いたしますわ。まず前半はミサキさん達三人を除いたここに居る皆が全員でわたくしをボコボコにし、後半はミサキさんとエミュリトスさんとレン君がわたくしをボコボコにしたのです」

「…………貴女、皆から恨まれてるんですか?」

「ち、違いますわよ!? どうか攻撃してくださいとわたくしがお願いしたのです!」

「………………そういう趣味なのですか?」

「違います! 防御力を上げたかったのです! その為に攻撃を受けたかったのです!!」

「あ、あぁ、そういう理由が。申し訳ありません、誤解するところでした。……昼間に引き続き」


 精神的疲れから小声になった最後の一言は誰の耳にも届かなかったが皆の幸せを考えればそれで良かったのだろう。

 それよりも問題は事情を理解し、誤解についても謝罪した教頭がその上で頭を抱えている事の方である。


「……しかし、そうですね……今度からはそういう見栄えの良くない特訓をする時は事前に相談してくれると助かります。効果はあったようなのでダメとは言いませんが、誤解されてもおかしくない光景ですから」

「確かに、誰かに目撃される可能性を考慮していなかったのは軽率でした。わたくしの落ち度です、次からは気をつけますわ」


(……目撃……誤解……うぅっ、恥ずかしい記憶が)


 目撃し、誤解し、乱入までしたリオネーラは後ろを向いて密かに頭を抱えていた。



「……特訓の後半に参加した記憶がない……」


 その隣でレンも頭を抱えていた。


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