SDK(スライムダークナイト)
「……魔王は独りぼっちじゃないといけないと怒られたので、レン君の方は魔王と仲良しではなくあくまで同志という設定で作ろうと思う」
「う、うん、よろしくお願いします」
のっけからいきなり当てつけっぽくも聞こえるがミサキにとってはただの事実確認と事情説明である。つまり特に深い意味はない素の発言である。
なのだがそれが聞く人に正しく伝わっているとは限らない。いつも通り言葉足らずで配慮に欠けているので。例えば……ミサキに演技とはいえ冷酷な役を強いている負い目のある人などには当てつけに聞こえかねない。
(あ、あれ? もしかしてミサキさん怒ってます……? やはり演技とはいえ仲良しのエミュリトスさんに対して残酷に接しろというのは酷でしたでしょうか……?)
勿論実際はそんな事は無い。が、比較的ミサキと話す方だとはいえミサキの感情を正しく察せるほど親密な訳でもないサーナスは不安を抱く。まぁ実は親密なリオネーラやエミュリトスでさえミサキの感情を変化に乏しい表情から毎回正確に読み取れる訳ではないのだが、それはそれ。友達が少ないサーナスは意外と不安になりやすいのだ。趣味嗜好のせいで相手が少女だと特に極端に。
そんな風に不安に包まれ、謝るべきか悩んでいたサーナスに一人の妖精族が近寄ってくる。先程サーナスにダメ出しをしつつミサキに対して失言もしたあの子だ。
「……サーナスー、ミサキさんを怒らせたんじゃない?」
「や、やっぱりそう思います? 謝るべきでしょうか? もしミサキさんに嫌われたらわたくし教室に居場所が無くなってもう死ぬしかなくなりますわ!」
「大袈裟じゃないー? っていうか言っといてなんだけど怒ってると決まったわけじゃないけどねー。でもアタシもさっきのこと謝ろうと思ってるからさー、行くなら一緒に行かない?」
「……そうですわね、怒ってるなら謝るべきですし怒ってなければそれで良し、行ってみればわかる事ですわ。二人なら勢いで行けるでしょうし。助かりますわ」
少女に対しては割と誠実で素直なサーナスはともかく、ミサキが全然気にしてなさそうな失言について謝ろうとする妖精族の子も根は悪い子ではないようだ。
なお当然こんな会話は大声では為されない。二人だけの秘密の会話だ。もっともミサキはレンの設定を考えるという慣れない行いに集中していたので二人が何かを話し込んでいる事にすら気付いていなかったのだが。
「……レン君、ある程度は普段の性格を反映するべき?」
「で、出来れば。魔王軍って時点で難しそうだけど……難しいからさっきまでは上手く演じられなかった訳だし」
「ふむ……じゃあ、魔王軍に属する不定形族で、本当は心優しく争いを嫌う、仲間想いの子……という設定で」
「そ、それじゃ戦えなくない……?」
「『本当は』だから」
つまりその部分の性格設定は表には出ないという事。レンがそう理解すると同時にミサキは一呼吸置き、視線を落として『ここではないどこかのレンの話』を始めた。
「……魔王の治める土地は極寒の地。食べ物も少ない厳しい環境の地で、多くの仲間が貧しさを嘆き、飢えに苦しみ、世界を憎んだ」
「………」
「心優しく仲間想いで争いを嫌うレン君は彼らを励まし続けた、誰よりも。その行動は確かに仲間の憎しみを和らげたけど、でも大局的に見れば憎しみは募る一方。次第にレン君の優しさは彼らを助けたいという直接的な願いに変わり、その願いがレン君の中で張り裂けそうな程に大きくなった頃……魔王が侵略開始を宣言した」
「……!」
「仲間の為に、同胞の為に人間領を奪う。人のいない地を開拓するのではなく既に人の住む地を奪うという、その強引かつ非道なやり方は本来の優しいレン君なら到底認められるものではない――筈だった。でもその時のレン君は気づいていた。それしか方法がない程に自分達が追い詰められている事に。いろんな人を励まし続けたレン君だからこそ理解していた、自分達はもう限界なのだと」
現代人らしい心理面に訴えかけるバックグラウンド。それと対称的なミサキの淡々とした語り口。まるで慣れ親しんでいないそれらの合わせ技に異世界人は抗えず、聴く者は皆、ミサキの作る世界に飲み込まれていた。それぞれの出来は現代人からすれば特筆すべき程ではないのに。
特にそのストーリーの登場人物であるレンの入れ込みよう(飲み込まれよう)は凄く、気のせいか瞳から光が消えている気さえする。
しかしミサキはその事に気付かない。何故ならこの後が彼女のとっての大一番、なけなしの厨二力を発揮しなければならない勝負所だからだ。
「……そんなレン君は誰よりも早く兵士として魔王の下へ馳せ参じ、仲間を助ける為に力を振るう事を誓った。漆黒の全身鎧でかつての優しさを覆い隠し、昔と変わらぬ願いの為に闇色の剣を振るう『暗黒騎士』レン……魔王軍最古参にして最強の戦士であるその名を、今では知らない者は居ない」
「………」
大一番だった筈なのに割と普通の二つ名になってしまったが……それをレンがどう思ったかは彼の姿を見れば多少は察せる。
「……わぁ、流石はセンパイ」
いつの間にやらレンの姿はミサキの話の中の彼と同じ格好――黒の鎧に身を包んだ騎士になっていた。彼ら不定形族の変身は正確さも速度も共にイメージに依存する。つまりレンはそれだけミサキの話に想像力を刺激されたという事だ。
「……魔王様、ご命令を」
「あ、あれ? あなた中身レン君ですよね? なんか声が低くなってますけど……」
「………」
「……あの……おーい?」
「………………」
(ダメだこりゃ)
想像力を刺激されるを通り越して既に想像上の人物になりきっているようだった。
イメージで自身の肉体を形作る不定形族は確かに集中力の高い種族ではあるのだが……こんな方向に発揮されてしまっては話しかけたエミュリトスとしてはなんというか融通が利かないと言わざるを得ない。フツーにシカトされてる訳だし。
しかしそれを招いたのがミサキの作り上げたストーリーである事を思い出し、エミュリトスはすぐに誇らしげな気持ちになり自身もノリノリで演じ始めた。
「暗黒騎士、魔王様に最も近しいわたしの言葉を無視とは良い度胸じゃないですか」
「……俺に必要なのは魔王様の命令のみ。俺はただあのお方の剣となり……俺達の平和を掴み取るだけだ」
「ふふ、良い心がけです。無視されたのは腹立ちますが、確かにわたし達には魔王様さえ居ればそれで良い。我等は言わば同志ですからね、許しましょう」
「……そうか」
(……エミュリトスさんの演技は普段と変わらないけど、レン君の方は声を作って一人称まで変える程になりきってる……大丈夫かな……)
その魔王様は部下の様子にうまく言えない不安を覚えていたりするのだが。
(あと話し方が若干暗い)
それはお前が言うな。




