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セカイ(に嫌われてる)系




「――あー、ついでに教えておくが、レベルはコレで計れるぞ」


 教室の入り口でボッツが指し示したソレは……教室の入り口というだけあって、教室の入り口のドアだった。

 そう、教室の入り口のドアなのである。どう見ても教室の入り口のドアなので、ミサキは問う。


「……ただのドアにしか見えませんが」

「普段はな。教員の誰かが国民証を通して測定機能を起動させればこうなる」


 ボッツが何か操作すると、引き戸の枠の部分が全て緑色の光を放ち始める。

 ミサキは(顔には出てなくとも)驚いていたが、リオネーラは既に知っていたようだ。他のクラスメイト達はユーギルを除いて大なり小なり顔に出して驚いている。


「お前ら三人も驚いてくれよ、教え甲斐が無ぇ」

「僅かではありますけど魔力の流れを感じましたから、何かに使うんだろうなとは思ってました」

「この優等生め」


「私は驚いてますよ」

「わからん、もっと顔に出せ」


「何故驚く必要があるんだ? ここで計れるなら便利だろう」

「お前はお前でどこかズレてるな」


 順にリオネーラ、ミサキ、ユーギルの反応である。

 これが異文化交流の難しさか、とボッツは呟くが、どう考えてもそれ以前の問題であった。


「まァいい。おい魔人、こっち来い」

「……魔人じゃないです」


「ミサキ、大丈夫? もう歩ける?」

「なんとか」


 心配されながらも歩き始めたミサキは、皆から向けられる視線に少し妙なものを感じた。

 皆の視線のうち、あくまで一部からではあるが、リオネーラと同じ心配するような感じを受けたのだ。気のせいかもしれないが。

 気のせいかもしれないとは思いつつも、もしも誤解が解けているのなら嬉しいと思う。ファイヤーボールを顔面で受けて無様に昏倒した事が良かったのだろうか。


(……まさに『怪我の功名』かな)


 そんな事を考えながら、ドアの前に立つ。


「ほら、通ってみろ。レベル50とあれだけ長時間戦っていろいろ教えてもらったんだ、レベル2にはなってるはずだ」

「……はい」


 そうは言うが、リオネーラは3まで上げると言ってくれた上にミサキ自身の目標は4だ。もし2止まりだったらボッツ以外誰も得しない展開である。

 自己紹介や模擬戦の時も不安や恐れとは無縁だったクソ度胸のミサキであるが、リオネーラの優しさを裏切るのは怖かった。彼女なりに全力で『学習』したつもりではあるが、結果まではわからない。

 内心ドキドキしながらドアをくぐる。そうして表示された結果は――


「……ぁン?」


 ボッツが目を細める。

 視線の先、ドアの上の部分に浮かぶ光は『5』となっていた。


「……よかった、レベル5か」


 目標を達成してミサキは内心ホッとしていた。さっきのドキドキも今回のホッもミサキにしては大きな感情の揺れなのだが、相変わらず表情には出ていない。


 それが良くなかったのだろうか。せめて表情に出ていれば――


「マジかよ……」「信じられないわ」「怖っ……」

「い、陰謀だよ陰謀! だから言っただろ!」

「壊れてるんじゃないのかそれ! おかしいだろ!」


「……?」


 ――表情に出ていれば、こうしてクラスメイトから再び恐れの視線を向けられる事も無かったのだろうか。


「壊れてる筈はねぇんだがなー……」


「……あの、リオネーラ?」

「うーん、確かにこんな短期間にレベルが4も上がるのは稀なケースよねー……っていうかあたしも初めて見た」


 たかが1から5に上がったくらいでそんなに恐れるものなのだろうか、とミサキは思うがどうやらそういうものらしい。それほどまでにレベルというものは上がりにくいようだ。

 それでもクラスの中で未だ一番レベルが低い事には変わりないのだが、問題はそこではない。

 あり得ない外見をしたあり得ないレベルだった少女は、あり得ないレベルの上がり方をする少女でもあった、という事になる。これでは前以上に恐れられても仕方ない。

 どれもが生前の黒霧御崎を引き継いだ結果に過ぎないのがなんとも不憫である。でもそういう世界なので仕方ない。


(……私、この世界に嫌われてる?)


 そう思ってしまっても仕方ない。

 ただ、そんな中で――


「ま、レベルが上がるのはいい事よ。ミサキがちゃんと頑張った結果じゃないの」

「……ありがとう、リオネーラ」


 一人だけでも味方がいてくれるのは、ミサキにとって本当に心強かった。



◆◆



 だが、彼女に降りかかる不幸はまだ終わらない。


 入学初日という事もあり本格的な授業はまだ行われず、ボッツから解散の指示が出た後は全員で寮に移動する事となった。

 この学校は全寮制(男女別棟)であり、これからそれぞれの寮長の指示に従って部屋割を決めたり荷解きしたりしろ、との事だったのだが……


「えー、部屋割は成績順で基本的に二人で一部屋……でいいでしょうか?」


 寮長と名乗った女性が遠慮がちに問いかける。……ミサキをチラチラ見ながら。

 反対意見は出ない。成績順で尚且つクラスの人数は男女共に偶数、だが女子だけ今は奇数。という事で必然的にミサキが一人だけ余るようになるからだ。

 ミサキ自身も恐れられている自覚はあるので、それ自体は構わない。ただ……


(一つ前の席の子はクラス全員から半ば強制的に私を押し付けられるカタチになってしまうけど、いいのかな) 


 前の席の子がどんな子かはわからないが、ミサキを恐れる可能性は大いにある。そうだった場合に同室が嫌だと言ったところで既に逃げ場は無い、という事である。

 成績順なので仕方ないとはいえ下手すりゃイジメだ。そんなのはミサキの望む所ではない。そうなるくらいならずっと一人部屋で構わない。一人には慣れている。

 そう告げようと思っていた所だったが、やはりというかリオネーラが寮長に意見した。


「とりあえずはそれでいいと思いますけど、止むを得ない場合や個人的な事情による不都合が今後出てくるかもしれません。一週間くらいは変更可能な『お試し期間』という事には出来ませんか?」

「そうですね……そうしましょうか。女子寮の事は私に一任されているので、私が何とかします」

「ご迷惑おかけします」

「いえいえ。ではとりあえず今日のところは成績順でお願いしますね」


(リオネーラのコミュ力は凄いな……)


 寮長も皆と同様ミサキを恐れており、彼女の部屋割に不安を覚えていたが故にリオネーラの提案に乗った部分もある。だがそれを抜きにしてもコミュ力はミサキと比べて雲泥の差だ。


(もしかして、コミュ力もレベルに関係していたりする?)


 それはない。



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