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※目覚めてはいません、まだ




「恥ずかしい……」


 誰よりも足の遅いミサキがようやく辿り着いた頃にはどうやら既に事情説明は終わっていたらしく、そこにはしゃがみ込んで頭を抱えるリオネーラの姿があった。ミサキの考えていた通り荒事なんかではなく、つまりはリオネーラの早とちりだったという事だ。

 よってここはリオネーラには触れず放置しておくのが優しさというものだろう。ミサキは珍しく空気を読み、側に立つエミュリトスの方に確認を取る事にした。

 しかし――


「……結局どういう状況だったの?」

「え、ええと、それが大したことじゃなかったんですよね……」

「それはわかってたけど――」


 残念ながら運よく空気が読めたところでミサキのコミュ力は打ち止めだったようで、その後すぐに彼女はうっかり禁句を口にしてしまった。


「ちょっとミサキ!「わかってた」って何よ!? あたしの勘違いならそうと言って止めてよ!恥ずかしかったんだからぁ!!」

「ぉふっ」


 誰であろうと見逃しちゃう程の速さで立ち上がり、ミサキの両肩あたりを掴んでガックガックするリオネーラ。

 それに対し、僅か二言目で自爆するという高等テクを披露したミサキは揺さぶられながらも言い訳を試みようとする。


「いや……だって止める間もなかったし……ぉぇっ、あの時はまだ確証までは持ててなくて……ぐふっ

、エミュリトスさんが頑張って追いかけてた筈だけど……うっぷ……ごめん……助けて……」

「り、リオネーラさんストップ!ストップです! センパイがまた戻しちゃう!!!」


(……「また」?)

(戻したの?)

(戻しちゃったの?)


 周囲の人達からちょっぴり気まずくなる疑惑を持たれてしまったがその言葉による制止の効果は抜群で、暴走気味だったリオネーラはすぐに我に返った。疑惑が代償として相応しかったかは不明だが。


「っ、そ、そうね、あたしが勝手に突っ走ったのがそもそも悪いといえばそうなのよね……ごめん、ミサキ。八つ当たりだったわ」

「ぅぷっ……ううん、私の判断が遅かったのも確かだから……」


「わたしも間に合いませんでした……任されておきながら申し訳ありません、センパイ」

「……そっちもリオネーラに追いつけだなんて無理難題を言った私が悪い。気にしないで」


 こういうのはそれぞれが無理矢理にでも自身の非を認め合えば手っ取り早く丸く収まるものだ。仲良し三人組ならではの解決法を披露した後、ミサキは改めてここで何が行われていたのかを尋ねる。それに答えたのはフルボッコ被害者(仮)のサーナスだった。


「ふっふっふ、他ならぬミサキさんの質問ですしわたくし自ら教えて差し上げましょう。ズバリこれはわたくしが考え出したスペシャルでデリシャスでパーフェクトな…………特訓ですわ!」


「………」

「………」


「…………」

「…………」


「……出来ればもう少し詳しく」

「んもぅ、お察しが悪いですわねぇ。とはいえスペシャルでデリシャスでパーフェクトなわたくしの考えたスペシャルでデリシャスでパーフェクトな特訓です、なかなか理解して貰えないのは仕方のない事なのでしょう!」

「…………うん。で、どういう理由でリオネーラが心配するようなスペシャルでデリシャスでパーフェクトな光景の特訓になったの?」


(あ、センパイちょっとイラッとしてる)

(サーナス、怖いもの知らずね……そこは尊敬するわ。っていうか何かテンションおかしくない?)


 自身を恐れず接してくれる人はミサキにとっても貴重で嬉しい存在の筈なのだが、イラッとしないかはまた別問題である。

 しかしサーナス側もミサキが相手だからこそのこのテンションとノリだったりもする。今回は特にしっかりとした理由があるのだ。リオネーラ達にはざっくりとしか語らなかったがミサキにはしっかり語っておきたい、そんな理由が。


「ミサキさん、先日の貴女の勇姿を見ての事ですのよ」

「……ゆうし?」


 残念ながら本人にはまっっったく身に覚えが無いものだったりもするのだが。


「貴女、リオネーラさんの攻撃を受けて立ち上がったではないですか。その結果リオネーラさんはペースを乱され、わたくし達のチームの作戦に踊らされ負けた。わたくしはそれを見て確信したのです、リオネーラさんとの決闘に勝つには防御力を鍛え、彼女の裏をかくのが最善だと!」

「……それは……どうだろう。ペースを乱して勝つというのはわかるけど、リオネーラ相手だと生半可な防御力では耐えられそうにないと思う」


 チーム戦の時にミサキが立ち上がれたのはリオネーラの手加減のおかげにすぎない。それを理解出来ていない者はクラスに存在しない。


「わかっていますわ。そして当然、決闘を挑んだからにはリオネーラさんに手加減を求めるつもりもありません。であればやる事は一つ。ミサキさんの言う「生半可な防御力」ではない所まで鍛えれば済む話ですわ!」

「……でも、それで仮に立ち上がったとしても、勝つ手段が無ければ結局勝ち目も無い。防御力より攻撃面を伸ばした方が――」

「いいえ、立ち上がりさえすれば負けは無い。負けが無いという事はいつかは勝てるという事ですわ!」


 少年向けバトル漫画の主人公みたいな理論を展開するサーナス。本当に賢いのか若干怪しくなってきたものの、その前向きさと屈しない心が大事という部分にはミサキも共感は出来た。リオネーラも共感した。エミュリトスは白けた視線で見ていた。

 まぁともかく、話していたミサキが共感したのでひとまず方向性に関しては置いておく、ひとまず。問題はその後だ。その方法だ。


「そんな領域に届くまで防御力を上げる、その為の特訓方法がコレなのです!」

「……ん……その……周りの人達を悪く言う訳では決して無いんだけど…………防御力を上げるのならもっと強い人に攻撃してもらった方が……」


 そう、先程も言った通り、サーナスをボコす側の面子は教室でミサキの列やその隣の列に座っている程度のレベルの者達ばかりである。彼女達には悪いがこのレベル差ではダメージもロクに通らなさそうであり、あまり効果的には思えないというのがミサキの考えだ。

 その考えには結構自信を持っているが、言い方が正しかったかには自信が持てていなかったりもするのでミサキは先んじて皆に頭を下げた。


「……気を悪くしたならごめん」

「う、ううん、大丈夫だよミサキさん。正直ぼく達もそう思ってたし……あ、サーナスさんはどうかわからないけど、こっち側のぼく達はね。そうだよね?」


 レンがフォローに入り、他の皆に同意を求める。レベルの低い子の中にはミサキを恐れている者も多いのでその反応は極端に二分された(めっちゃ頷く子と視線を逸らす子の二通り)が、どちらにせよレンを否定はしなかったので事実なのだろう。

 というわけで、問題は何故サーナスがこんな人選をしたのかに集約されたのだが……


「……――……ですわ」

「……?」


 何か言ったようだが小声すぎて聞き取れない。ミサキは歩み寄って耳を澄ませ、その動きを察知したサーナスももう一度口を開く。



「……どうせなら可愛い子達から攻撃を受けたいと思った次第ですわ」



 聞かなきゃよかった。



「いえ、違いますわね……むしろそれ以外は許せないと言った方が正しいかもしれませんわ!!!」

「………………そう」

「ふふっ、不思議ですわね。ミサキさん、貴女には何故かついついこういう本音の話をしてしまう……やはり貴女には何かがあるのでしょうね」

「………………」


 なんか良い話風に言っているが肝心の『本音の話』の内容が幼女趣味全開なので全然良い話ではない。


「……ねぇリオネーラさん、センパイとサーナスさん、何を話してるのかはわかりませんけどなんかいい雰囲気になってません?」

「そうね、サーナスってあんな隙のある表情も出来たのね……相手がミサキだからかしら……」


 重ねて言うがそんな良い話ではない。彼女達は立ち位置的にサーナスの表情しか見えないからそんな事が言えるだけである。仮に良い雰囲気だとしてもそれは完全に一方通行である。

 まぁそれはさておき、そういう理由なら人選には納得できる……というか納得するしかない。どうしてもレベルが上がってくると性別的には男性が増えるし、強い女性がいたとしてもカッコいい系だったりアネゴ系だったりでサーナス(幼女趣味)の守備範囲ではないのだろう。強さと可愛さを兼ね備えているリオネーラが例外なだけだ。


「……でもレン君は男の子だと思うけど」

「不定形族の性別に大した意味がない事くらいは知っていますわ、賢きエルフですもの。まぁ、女の子であるに越した事は無いのですが……集めた人達の中に物理攻撃が得意そうな子がいなかったんですもの、しょうがないじゃありませんか!」

「……私に言われても……」

「しょうがなかったんですの!!!」

「………」


 逆ギレはスルーしてもう一度攻撃側の子達の顔ぶれを見渡してみれば、なるほど確かに魔法を得意としそうな後衛職風の子が多い。あとはそもそも戦いを嫌う子達。前衛職の方が経験を積みやすくレベルも上がりやすい、という現実の現れだ。

 ではレンは前衛職なのかと言われれば勿論本来はそんな事は無く戦いを嫌う組なのだが、今回はサーナスによって『不定形族の特徴を上手く利用した前衛』を強いられていた。その戦いっぷりはミサキも見ていたので知っている。


「……レン君、お疲れ様。珍しいものを見せてもらった」

「あ、あはは……どうも。まぁ戦える不定形族の間では有名な戦法なんだけどね、『体の一部を武器に変えて戦う』っていうのは。でもまさかサーナスさんがそれを知ってるなんて」


 特訓の最中、レンは自らの両腕を重ねて一本のハンマーの形に変形させたり、あるいは大剣にしたりして戦っていた。自身のイメージ通りに体を変身、というか変形させる事が出来る不定形族ならではの戦法と言える。


「ふふ、森の賢人たるエルフの知識を甘く見ないでくださいまし。実際悪くない戦法でしょう?」

「まぁ、うん、そうだね。効いたかは怪しいし、ぼく自身としてはやっぱり前に出たくはないけど、戦い方としては」


 本人のレベル不足ゆえに硬さも切れ味も本物には遠く及ばないただの柔らかい打撃でしかなかったのだが、変幻自在の戦い方としては大いにアリだ。レン自身も、喰らったサーナスも、見ていたミサキもそれは理解出来ていた。


「ふふふ、そうでしょうそうでしょう、流石はわたくし。……あっ、そうですわミサキさん、戦いに慣れてなさそうな子達ばかり集めたのはこうして彼女達の特訓にもなると見越しての事ですのよ!」


 いかにも今思いついたって感じではあるが、実際そういった面は結果だけ見れば多少は、いや少しは、いやもしかしたら気休め程度にはあったのかもしれず、ミサキは「…………そう」とだけ言っておいた。あまりツッコむのも面倒だし。



ブクマがじわじわ増えてきております、ありがとうございます。うへへ

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