サッカーしようぜ、お前の頭ボールな
102話目の投稿時に言うのもアレですがいつの間にか100話越えていました。そんなザマなので記念とかは何もありませんがここまで来れたのは応援してくれる皆様方のおかげです、ありがとうございます。
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――という訳で長々と店名が長々しい店にお邪魔し続けた少女達だったが、今度こそ本当に帰ろうという事になり……マルレラに一つだけ最終確認をしてから店を出た。
その確認の内容というのは――
「まぁそうよね、クエスト中のトラブルだものね、依頼主に報告した方がいいわよね……」
「……それでなくとも相手は先生だし、何かあったなら心配をかけない為にも言っておくべき、言える範囲で」
今回の一件を校長に報告していいか、という確認である。
基本的には報告すべきだとミサキは考えているが、友達となったマルレラに言わないでくれと請われたなら悩むところであった。しかしそこは漢気ある一面もたまに垣間見せるマルレラだ、隠さず報告してくれて構わないと言ってのけた。
「儂に非があるのじゃから当然じゃ」と言い張るその姿にホッとしつつも、しかし一切を包み隠さず報告するとなると今度はスキルを使ったミサキの方が困ってしまう。
結果、マルレラに攻撃されたが二人が助けてくれた、という風に口裏を合わせる方向で話は纏まった。マルレラは正々堂々としているのに自分は隠し事をするというのはどうなんだ、とミサキは後ろめたく思ったが事情が事情だから仕方が無いと三人から説得されれば諦めるしかない。
(せめてマルレラ店長があまり怒られる事の無い様に会話を運ぶ努力はしよう。具体的には……すぐに仲良くなった事を前面に押し出していくのがいいか)
マルレラに攻撃されたおかげで脅すというクエストを達成できた面もあるので、そこを捻じ曲げる事も不可能。よって後ろめたいミサキに出来る事はそのくらいだった。
「ところでエミュリトス、酒樽重くない? 疲れたら言いなさいよ?」
「大丈夫ですよこのくらい、へーきです」
「……私のクエストなのに、持たせてごめん」
「へーきですって、気にしないでください。わたしが手伝いたくてやってるんですから」
そんな会話をしながら来た道を戻っている彼女達の今の隊列だが、先頭がミサキ(人避け)、二番目がエミュリトス(荷物持ち)、最後尾がリオネーラ(周囲警戒)となっている。
レベルの高いリオネーラは警戒に適任で、エミュリトスもブレスレットを外せば腕力を発揮できるので荷物持ちに適任。そして何よりどちらも出来ない役立たずのミサキはその外見を活かして道を作るのが適任という訳だ。ミサキに関してはそれしか出来ないとも言えるが。
実際来る時もミサキは人避けとして大活躍だった訳で、親友二人の助けになっているという意味でも納得はしている。親友の為とはいえ周囲の人達には少し悪い気もするので出来るだけ邪魔にならないよう端の方を通って。
ともかくそんなこんなで理想の隊列を維持したまま彼女達は歩き続け、何事も無く学校へ帰還した。
……この隊列が後日、街の方で『魔人とその従者達の行進を見た』という噂が流れる元になるのだが流石に彼女達にそれを知る由はない。
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「――お、おお、酒じゃ、酒じゃあ……!」
「まだ飲むのは許しませんよ校長。さて、三人ともありがとうございます。早いお帰りですが何事もありませんでしたか?」
「……嬉しい事がありました」
「ほう、それは良い事です。一体何が?」
「店主の攻撃を受けて仲良くなりました」
「「……うん???」」
途中経過をバッサリ省いたせいで被虐趣味の人みたいになっとる。
「ごめんミサキ、あたしが説明するわ。っていうか説明させて」
親友が誤解されかねない状況に頭を抱えたリオネーラが割って入った。そんな状況になっているとは気付かないミサキは一瞬渋ろうとするも、ここから先は誰が説明しても大差ないと考え、頷く。
ミサキとしては先に結論を述べる事でマルレラと仲良くなった事を強く印象付けたかっただけであり、後は普通に説明するだけだからだ。よって誰が説明しても大差ない……どころかコミュ力に長けるリオネーラが説明した方がむしろ良い。
当のリオネーラはミサキのそんなトーク術には気付いてはいなかったが彼女がマルレラを庇いたがっているのは当然察しており、既に円満に解決している事を強調しつつ順を追って説明していく。それにより、ミサキの訳のわからない発言に対し頭上にハテナマークを浮かべるばかりだった教師二人もすぐに納得した。
「成程。攻撃されたというのであれば本来なら一大事ですが……」
「当人達が問題にしとらんならワシらが口出しする事ではないじゃろ。ミサキ君なりにケリをつけたんじゃからな、ここはその手腕を評価し、敬意を払うべき所じゃ」
「……校長がそう言うなら」
教頭もマルレラとは顔見知りではある。が、元々は校長の友人であり、そこから知り合ったに過ぎない。よって校長の判断に口を挟むことはしなかった。
しかしそれでも教師として生徒を危険な目に合わせた負い目はあるようで、
「ですが私達がクエストを依頼したせいでミサキさんがトラブルに巻き込まれたのも事実です」
「それはそうじゃな、こうなる事を予測出来なかったワシらの責任と言えよう。ミサキ君、すまなかった」
そんな事を言い、二人が同時に頭を下げる。
しかしミサキはそう考えてはいない。死にかけたとはいえ、責任が依頼主側にあるなどとは考えすらしなかった。
「……やめてください。むしろクエストを任せて貰った身でありながらトラブルを起こしてしまい、信頼に背いてしまった私の方こそ申し訳ない気持ちです」
「……それは考えすぎですよ、ミサキさん。貴女はクエストはしっかり完遂しているので信頼には充分応えてくれています。そうですよね、校長?」
「おお、そうじゃぞ。まぁ実はワシとしてはミサキ君がマルレラの奴をどう脅すかを楽しみにしておったので平和的に解決してしまった事については信頼に背いたと言えなくもな――」
そこまで喋ったところで骨の顔は横からめり込んだ教頭の鉄拳によって吹っ飛ばされ、転がっていった。
そして教頭は特にそれにコメントする事もなく咳払いをひとつ。
「……ミサキさん、貴女はクエストはしっかり完遂しているので信頼には充分応えてくれています」
(あ、やり直した)
「何故か校長はここにはいませんが、彼も同じ気持ちでしょう。よって代表してお礼を。今回は本当にありがとうございました」
「……はい。お役に立てたなら何よりです」
何かいろいろあった気もするが、人助けをしたいミサキにとっては結局こうして最後に「ありがとう」と言ってもらえるだけで充分なのだった。
ググったらサッカーじゃなくてバスケという説もあるそうで。




