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「うわ気持ち悪っ!!!」


 検証の為に剣(念のため鞘に入れたまま)での軽い攻撃を受け流してもらったリオネーラの第一声がこれだった。


「………」

「あ、いや、ごめんねミサキ、変な意味じゃなくってね、こう、ヌルリと受け流される感触がなんとも言えず気持ち悪くて……」

「……わかってる、大丈夫」


 訂正されずとも最初からちゃんと理解しているのだが何故か気を遣われるミサキの図。

 なお、スキルの感触についてはミサキ本人には何の感触もないのでわからない。『受け』流しの筈なのに受けた感触すらないというのは強力無比なスキルらしいなと思う反面、実感が持てずに不便だな、とも思う。


「ちょっと気になりますね……わたしもやってみていいですか?」

「うん」


 愛用のロッドを構えたエミュリトスに向けてミサキは手を突き出す。手のひらで受け流すイメージを頭の中で作りながら。

『何処で受け流すかを意識する』、それがスキルの発動条件だ――と女神から教わったからだ。そのミサキの手のひらに向けてエミュリトスはロッドを振り……


「じゃあいきますよー……うわっすごい! 何これ!? 何かに当たった感触はないのに攻撃が変に逸れる!」

「気持ち悪いわよね」

「気持ち悪いですね!――って何言わせるんですか!わたしがセンパイに関する何かを気持ち悪いなんて言うわけないじゃないですか!逆です!気持ちいいです!」

「スキルを使われて気持ちいいってそれはそれで意味わかんないわよ」


「……エミュリトスさん、感想も貴重なデータだから正直に言っても大丈夫」

「そ、そうですか……。まぁ……ちょっと気持ち悪かったですね、ちょっとだけ。こう、違和感がすごいです」

「……なるほど。という事は近距離戦で使ったらバレバレか」


 女神は隠匿性までは考慮しなかったようだ。むしろガンガン使ってドヤって欲しかったのかもしれない、スキルを与える時の口ぶりから察するに。


「ミサキ、次はもう少し強くやってみていい?」

「うん」


 再びリオネーラの方に手のひらを向ける。

 そこに先程より鋭い攻撃が飛んでくるも、先程と同様にその剣先(鞘)はヌルリと逸れる。そのまま二度、三度とリオネーラは攻撃を繰り出し、その威力も徐々に強くなってくるのだがミサキの手のひらは全てを逸らし、受け流してみせた。

 最後の一撃はミサキの今のレベルでは軌道を予測するだけで精一杯で目にも映らない、到底反応など出来ない速さの攻撃である。そんなものを容易く受け流してしまうこのスキルはやはり強力だと言えよう。っていうかズルい。


「あっ、センパイセンパイ、面攻撃はどうでしょう?」

「……大丈夫だと思うけど、やってみようか」


 先程マルレラのドデカいブレスを難なく受け流したので試してみるまでもなさそうだが、せっかくエミュリトスが乗り気になっているところに水を差すのも悪いと考えたミサキはそのまま受ける事にした。

 しかし面攻撃ってどうやるんだろうか、というミサキの疑問はエミュリトスを見てすぐに解ける。ミサキが手のひらを向けているのと同じように彼女も手のひらを向けていたからだ。手のひらのサイズに差こそあれどなかなかわかりやすい面攻撃だと言える。普通に手の大きさ比べにしか見えないという難点はあるが。


「な、なんかちょっと恥ずかしいですね! いきますよー……うわっと!?」


 手のひらを重ね合わせる寸前に不自然極まりない勢いでエミュリトスの手が逸れ、彼女はつんのめってしまう。流石のミサキもそれを黙って見届ける理由はなく咄嗟に受け止め、支えた。


「……大丈夫?」

「は、はい、びっくりしました……。距離が近ければ近いほど違和感すごいですね」

「……至近距離ならバランス崩しに使えなくもない、か。勿論スキルを使ったことはバレるけど」


 格闘攻撃や体当たり等に有効な対処法となる可能性は大いにある。極端な話、頭突きで有名な前世の某恐竜(の一説)のように頭から突っ込んでくる敵だった場合はこれで受け流した時点で首の骨がグキッといく可能性すらある。魔物や動物ならスキルだとバレても問題ないし、そういう時こそ真価を発揮するのかもしれない。

 ……そんな風に絶賛考え込み中のミサキはその腕の中にエミュリトスがいる事を割と忘れていたりする。というか全く気にしていない。エミュリトスとしても振り払う訳にもいかず――ぶっちゃけ嬉しいので振り払う理由もなく――されるがままなのだが……眺めているリオネーラとしてはあまり面白い光景でもなかったようで、


「……ちょっとー、あたしも混ぜなさいよー」

「ほべっ」


 彼女もミサキを挟むように背後からもたれかかる。それを喰らったミサキが潰れたような声を出したのはまぁなんというかノリであり実際は大したダメージではない。リオネーラの珍しい行動に驚いたのはあるが。


「……どうしたの? リオネーラ」

「んー、べつにー。なんか今日は二人がやたらくっついてるような気がしてね、さびしーなぁーって」

「……仲間外れにするつもりはなかった、ごめん」

「あ、いや、ごめん、謝らせようとかそういうんじゃなくてね。からかい半分っていうか、話しかける口実っていうか、ね? 本気じゃないからあんまりマジメに受け止めないで? ……って言ってもミサキは受け止めちゃうか。むぅ、失敗したなぁ……」


 リオネーラ的にはせっかく軽いノリで、かつ大袈裟に「寂しい」と言ってみせたのだからもっと軽いノリで返して欲しかった訳だが、コミュ力に欠けていて変な所で真面目なミサキにそれを望むのは無茶を通り越して無理ゲーである。ダイヤグラム10:0である。

 コミュ力に長けているリオネーラがこんなミスをするのは珍しいが……ようは本人も気づいていないのだ。吐露した感情が大袈裟でも何でもない本心だった事に。


「………」


 ミサキはそんなリオネーラの胸中を察した――訳がない。そんな事が出来る筈がない。ただ、リオネーラは言い訳をしながらも本心のせいか無意識にミサキにくっついたままで、ミサキとしてもそんな彼女を振り払う理由も特にないため結局そのままにしておいた。何も言わずに、されるがままに。


 つまり、現状はリオネーラにされるがままのミサキにされるがままのエミュリトス、という構図になっている訳で。しばらくは特に何事もない無言の時間が続いたが、その後には――



(((……これ、誰が最初に動くの?)))

 


 三人ピッタリ密着した状態で機を窺い合うという異様な光景が成立していた。



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