静かな砂浜で……
さて、どうしたものか。夏休みで人はある程度いるだろうとは思っていたが、まさかこんなにもいるとは思っていなかったのだ。
それだけでも困るのに、西条先輩のあまりの美貌に周りからの視線はとてつもないもの。僕だけでどうにかできるのか?
「先輩、ちょっと場所移動しませんか? さすがにこの人の量だと泳ぐのも無理があるんで」
「そ、そうだね。……久弥くん」
……………どうでもよいが、
「あの、呼び捨てはやめたんですか?」
別に構わないが、なんかこう、離れられた感があり少し寂しい。……いや、べ、別にいいんだけどね?!
「だ、だって! …久弥くん、私を名前で呼んでくれないし……」
あ、拗ねてる。可愛い。
「な! なにニヤニヤしてるの!」
「怒った顔も可愛いなあと…」
「ッ!! も、もう! そういうのはいいから! 私も名前で呼んでもらいたいの」
頬を膨らませながら両手を胸の前に持ってきているこの先輩。………目の癒しだなあ。
「だからニヤニヤするなっ!!」
「イテッ!! 痛いですって!! 先輩」
思いっきり頭を引っ叩かれた。
怒っている先輩だがすぐ気を取り直すと今度は真逆の笑顔になり、
「私の名前を呼んで?」
「………いや、そんな笑顔で言われても…」
「呼んで?」
「いやだからこういうのにはまだ抵抗が……」
「………お願い」
笑顔から今度はまるで欲しいものをねだる子供! これはずるい! 可愛すぎる。いーやだがしかし僕は負けないぞ。
「………久弥くん……だめ?……」
「哀歌」
「ありがとう! んふっ!」
仕方ない可愛いは正義だから。
…………ん?
何だろう、凄く視線を感じる。そう思って後ろを向くと、
「………哀歌さん。あっちの方に行きましょう」
「ん? 久弥くんどうしたの? 顔色が――」
「ちょっといろいろ危ない視線を感じるので」
主に男子が多いな。
はい、この人僕の彼女なんです。だからそんな目しないでよ。
僕はその男子たちから逃げるように先輩の手を引き、あまり人のいない岩場の方に向かった。手を繋ぎながら先輩の方を見ると、顔が赤かった。
「哀歌さん。大丈夫ですか? 顔、赤いですよ?」
「えっ?! あ、だ、大丈夫………へへっ!」
気のせいだろうか、先輩、下を向いてすごくニヤニヤしてる。見なかったことにしておこう。
そう思い、先輩と夏の砂浜を歩いた。
歩き始めて10分
「だいぶ来ましたね。…………てか人いないし」
「そ、そうだね! 人、全然いないね」
「哀歌さん……もしかして緊張してる?」
「きき、緊張なんて! してなあいよ!」
「声裏がえってるし、顔赤いですよ」
「………意地悪」
これ以上惚気るわけにはいかない。それに、ここは海だ。こんなことに時間を割いていては……それもそれでありかもしれない。いやいや、それはさすがに作品的にもまずい、クレームが来るしタイトル詐欺になる。あ、もうすでにそうか、
「わけの分からないこと考えてないで泳ごうよ」
「………聞こえてたんですか?」
「何が?」
「とぼけないでくださいよ。あずささんといい美千留さんといい、なんで僕の心の声が聞こえるんですか?」
「デート中に他の女の名前を出すなんて…ひどいわ!」
「じゃあ僕の心読まないでくださいよ!」
「………久弥くんのバカ」
ズッキュ―――ン!
「ぐはっ!!」
「久弥くん?!」
「め、女神がいました」
「もういいから泳ぐよ!」
おう、もう恥ずかしがったりしないのか。あっさり海の方へ行ってしまった。
じゃあ僕も泳ぐか、先輩の可愛い顔も見たし、それに水着だし。
そう思い海に歩き出したとき、
バタン
静かな砂浜に先輩の倒れる音が響いた。
「………………哀歌さん!!!」
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