大好き宣言!
みなさん、初デートの時の気持ちってどんなものなのでしょうか? 僕はそのような経験がありませんが、みなさんはどうお思いですか? 現在、少なくとも僕には分かりません。デートとは恋人同士が行うものであり、非リアの僕にはあり得ない行事だとばかり思っていました。ところがどうでしょう、気が付けば四方八方とまではいきませんがそれなりの数の美女たちに囲まれ、果てには我が校のアイドル的存在の西条先輩にデートに誘われるという実にラノベチックな展開です。
…………はあ、とりあえずデートの誘いをもらった直後まで遡りますか。…え? 浮かれてんな? いや、そうは言いますけど、もしあなたが僕と同じ立場同じ展開になったら浮かれると思いますよ。まあ清純な男子はたぶん全員が――。
『私と、デートしてほしいの!!』
電話越しに西条先輩のその言葉を聞いた瞬間、僕は手に持ったスマホを床に落とした。
「久弥さん?」
直前、拗ねて知らんぷりをしていたあずささんが僕に顔を覗かせる。
そこで瞬間に我に返り、慌ててスマホを拾う。
「ああ! 何でもないです。 すいません」
「何かあったんですか?」
挙動不審の僕に対してあずささんが聞いてくる。
「いや、本当に何でもないんです。心配かけてすいません」
あずささんにそういうと、再びスマホを耳に当てる。
「すいません。ちょっとスマホを落として。えっと、デ、デートですか? その…僕と」
西条先輩に言ったその瞬間、目の前のあずささんのキャラが、優しいお姉さんから怒り狂う魔女へとジョブチェンジした。笑みを絶やさないがその笑みに輝きがない。
大量の汗を流しながら、会話を続ける。
『そ、そう! いや、もちろん久弥くんが嫌なら別に構わないんだけど……だめ…かな?』
「いやそんな! 全然大丈夫ですよ」
その刹那、今度は可愛い美少女からホラー映画に出てきそうな人形と化した亜美が不気味な笑みで僕を見ている。
あ! そうだったホラーだよホラー。何普通にラブコメやってんだよ! 亜美の登場シーン的なあの要素はどこに行ったんだよクソ! あのまま続けてればこんな修羅場にならなくて済んだのに。
よくわからないことを考えつつ全神経を耳に集中させた。
『よかった! ありがとう久弥くん!!』
こちらこそ。
『正直、あずささんとか亜美ちゃんが何というか怖かったんだよね。私、手伝うとか言って結局入院で何もできなかったから申し訳なくて』
確かに、まだ、何もいってません…。
「その件は大丈夫ですよ、二人とも優しいですから」
目の前の二人に優しさのかけらも感じないけれど。
『じゃあ、行く場所とかの詳細は私が決めちゃっていいかな?』
「はい、お任せします」
『了解、じゃあ決まったらまた連絡するね』
「ありがとうございます」
『そんな、私のセリフだよ』
「いえ僕が西条先輩みたいな綺麗な人とデートなんて考えられませんでしたから」
ただいま、目を瞑っております。
『ふふ、そういってもらえるとうれしいなあ』
「……じゃあまた、楽しみにしてますね」
『うん、また…………ひ、久弥くん!』
目を開けても異世界には飛んでませんでした。いや、一様幽霊が見れてる時点で結構ファンタジーな体験はできてるのか。
目の前のあずささんと亜美に恐怖しながらも、平常心を保つが、
「なんですか?」
次の瞬間その平常心は爆風のごとく空の果てに消えていくこととなった。
『大好き!』
西条先輩が言った直後電話が切れた。
そして現在に至ります。
…………はあ。と、一つため息をし、何となく正座する。
自分でもどうかと思うもん。このあり得ない展開。
「久弥君、私はここらへんで失礼する。亜美さんパワーも補充できたことだしな! ではまた!」
ずっと死んでいた浩司さんが何かを察知してそそくさと逃げる。
「あっ! じゃあ私もそろそろ。またね、久弥君。……その………た、楽しんで!」
「何をですか!?」
美千留さんにも逃げられてしまった。実質普通の人間は僕一人。…どうしよう。
「久弥さん」
「はい」
さあ、説教ですか?
「説教なんてしませんよ」
にこっと笑いながらあずささんが言う。
いや、むしろこっちの方が怖いのだが。
「ただ久弥さん?」
「な、なんでしょうか」
「どうして先ほどからずっとにやけているんですか?」
な、なんということか! 僕としたことが、うれしくて気づかぬうちににやけてしまっていた。
「……はあ…わかりました」
深い溜め息をつきながらあずささんが言ってきた。
「どうぞ、行ってきてください」
「えっ? いいんですか?」
「いいというか、私も一様分かっていましたから」
「何をです?」
「幽霊の私とでは無理です。そんな事とっくに亜美ちゃんも私も気づいてます」
「言ってる事がよくわかんないんだけど」
「分からなくていいです。久弥さんには幸せになってもらいたいので」
うん、わからん。
とにかく一つ言えることは、気づいていたのなら一々する嫉妬などのとっくみもやめてもらいたかった。
「それとこれとでは別です!」
「だからなんで聞こえてるんですか?!」
「と、とにかくです! もう私にはけじめがついたので! その…い、行ってきてください」
どこか寂しそうに言うあずささん。
すっっごく気まずいんですけど!
「わ、わかりました。ありがとうございます」
僕が言った瞬間あずささんの瞳が潤んだ。
「いやいや! 本当に行っていいんですよね?! 大丈夫ですか!」
「ええ、だいじょうぶでず………グスン…」
やばいどうしよう! 泣いちゃった! え? これ僕が悪いの?
「分かりました! デート終わったら何でもしてあげますから!」
「本当ですか?!」
とっさに笑顔で見つめてくる。
うわあ~アニメに出てきそうなテンプレキャラだよ。視聴者に「こんな女許せない!」とか言われるキャラだ。
まあとにかく、あずささんの説得には成功。亜美はもういいらしくそそくさとトランプをしている。
「はあ~、じゃあ日曜日に行ってきますね」
呆れながらも二人に対して言った。
…………やべえ~、あの西条先輩とデート?! すごいな、これが主人公になったらできる事その1か。
そんなくだらないことを考えつつも、ゆっくりと我が家への帰り道を歩く。
そして先ほどから何度も思っていることをもう一度呟いた。
「楽しみだなあ~」
もはやホラーのかけらもない件。
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