響く恋声
「君みたいな人って言ったらどうする?」
大人びた笑みを浮かべながら首を傾げ、美千留さんはそんなことを言ってきた。
え? なにこれ、どういうイベントですか?
僕が返答に困っていると、
「ふふ、なーんてね。冗談だよ」
「えっ?」
「本気に聞こえた?」
笑顔で聞いてくる美千留さん。
なんか、深く考えていた自分が恥ずかしい。おそらく、今顔赤いな。
「すごい本気に聞こえました」
素直に思ったことを言った。美千留さんが意外な表情で見てくる。
「君って意外と素直なんだね。普通の男の子なら強がるところなのに」
普通の男の子がどういうものなのかが分からない。
そんなことを思いつつ、
「別に強がる理由もないですし」
そう答えた。
とそこで視線を向けられていることに気付く。
「……」
あ、やばい。あの無言で睨むような目は本当にやばい。
睨んでいるのは勿論あずささんと亜美だ。
「な、なにか?」
恐る恐る声をかける。
するとあずささんが口を開けてくれた。
「別に何もないです。ただ、楽しそうだなあと思っただけです」
ああ、ただの嫉妬でしたか。
「いや、楽しんでなんて…」
「ずいぶん、楽しそうだった。笑ってた」
そういって亜美が睨んでくる。
ああ、たぶん気づかぬうちに楽しんでたんだろうな。だがそこに関してはしょうがないと思う。
そう、付き合ってもいないヒロインに他の女と少し仲良くしただけで嫉妬や因縁をつけられる。そんなの女の都合がいいだけだと、どこかの偉いラノベ主人公様が言っていた。
「認めよう」
素直に答えた。
どうせ面倒なことになりそうだし。
すると亜美が頬を膨らませ睨んできた。うん、いつも通り可愛い。
「まあ、私たちは何を言ってもしょうがないですから別にいいです」
「…どうしたんですか? あずささん」
「何がですか?」
「いや、何でもないです」
さすがに自分から妬かないんですかとは言えない。
しかし珍しい。いつもなら真っ先にはにかんでくるのに、まあこっちとしてはありがたい。
と、少し膨れるあずささんを可愛いなと見ていると、
「随分好かれてるんだ」
ずっと僕たちの様子を見ていた美千留さんが微笑みながら言ってきた。
「まあ……」
「でも二人とも久弥君のストライクゾーンじゃないの?」
「……いきなり何を言い出すんですか」
「「違うの?!」」
「なぜそこで二人がハモる!」
僕の言葉に、なぜか反応した亜美とあずささんをおかしく思いつつ、
「前も言ったけど二人とも可愛いし、いい人だってのも分かってます」
美千留さんは椅子に腰かけ、二人は床に正座して聞いている。浩司さんは……いや、何でもない。
「でも、やっぱり幽霊っていうことがどうしても僕を縛るんです。そりゃあ二人とも人間だったら大歓迎ですよ」
「えっ?! 二股?!」
「そういう事じゃないです!!」
美千留さんがあらぬ誤解をしたようで、危うくクズ人間扱いされるとこだった。
ことは慎重にだな。
「でも、やっぱりダメかなって! 本当、亜美もあずささんも大好きだし、この数か月すごい楽しかったし、とても感謝してるんです! でも――」
「もういいです!」
僕の言葉を遮るようにあずささんが言葉を発した。
「えっ?」
疑問の声を出す。あずささんは続けて言う。
「もう分かってますから」
「何がですか」
「久弥さんの気持ちは亜美ちゃんも私も十分に分かってますから」
分かってるんなら無理やりこういう空気を作るのはやめてほしい。こっちはそのたび恥ずかしい思いをしてるのに。
「大丈夫、久弥のことはずっと好き」
困惑してるところで、亜美の追い打ちを食らう。
「ははは! 面白いハーレムだね、久弥君」
美千留さんが笑いながら言ってくる。
仮にも大人の女性がハーレムなんて言葉を使うの初めて見たんだけど…。
「あの、本当に幽霊と結婚とかないですから」
「結婚?! は…い、いいですねえもてる男はいう事が違う……う…うぅ…」
「み、美千留さん? まだ20前半なんですから大丈夫だと思いますよ? だから泣かないでください」
完全に最初会った時とキャラが変わってる美千留さんを慰める。
「いいもん! どうせ恋愛沙汰とは無縁だもん! もういい、ずっと仕事して生きていく!」
「そ、そうですか。頑張ってください」
「なんで止めないの?! そこはまだチャンスはあるとか言ってよ! そうですか! 年上の女より美人美少女の幽霊ですか! 学園アイドル悲運のヒロインですか!!!」
…………
その場の誰もが黙り込んだ。
長い沈黙、そして最初に口を開いたのはあずささんだった。
「あ、あの、なんか申し訳ありません」
ごもっとも。
「そうですね、ちょっと私たち、浮かれてたかもしれません。気分悪かったですよね、ごめんなさい」
あずささんの言葉にようやく自分が勢いで言ったことを理解した美千留さん。みるみる顔が赤くなっていき。
「ご、ごめんなさいごめんなさい! 私、思っていたこと全部吐いちゃって。何でもないんです。今のは流してください。本当私は大丈夫ですから!」
ペコペコ頭を下げる。そのあとで、
「(お幸せに…)」
小声でそんなことを言った。
だめだ、壊れてる。自分が行き遅れたとひどく落ち込んでらっしゃる! いやでもまだ大丈夫だって、美千留さん案外モテると思うよ? むしろ僕、結構タイプだったりすr――
「久弥さん、今思ったこと、口に出して言ってください」
聞かれていましたか。……エスパーか何かかな?
「ごめんなさい」
謝るのが一番いい。謝ればきっとあずささんなら――
「何を謝っているのですか? 私は思ったことを口に出していってくださいと言ったのです。さあ言ってください」
不敵に笑みを浮かべ言ってくる。
「マジでごめんなさい。本当、何でもするんでこれだけは勘弁してください」
「久弥君、なにしたの?」
不思議そうに美千留さんが聞いてくる。
ああ、こっちは元に戻っていましたか。立ち直り早いですね。
「立ち直ってはいないわよ。もうどうでもいいって思っただけです」
あれぇえ? こっちにもエスパーがいます。僕もう何も思わない方がいいですか? ああでもそれじゃあ語り手がいなくなってしまう。ここは続けなくては。
「久弥君、もう誰でもいいから、だから久弥君のハーレムにいれてー!!」
「余計悪化してるじゃないですか!! 何ですか僕のハーレムって! 好きでハーレムしてるわけじゃないです!」
「酷いですよ久弥さん! まるで私たちが邪魔みたいな言い方して…」
「ち、違いますよあずささん? そういう意味じゃないです。 僕はみんなの事が大好きですよ」
「ほ、本当ですか? 私の事もですか?!」
「はい、あずささんも亜美もみんな大好きです」
僕とあずささんが見詰め合ってると、
「うわあ、浮気性の男ってどうなの? 私無理」
外野がうるさい、ていうか
「無理って、さっきハーレムにいれてって言ってたじゃないですか」
「幽霊にしか好かれないかわいそうな子ねえ」
開き直った美千留さん。もはや最初に会った時の面影もない。
とその時、僕のポケットにあるスマホが鳴った。画面には西条先輩の番号が載っていた。
何の用だろう。
「ちょっとすいません」
「女ですか?」
「どういう意味ですか?」
「いえ何でもないです。出てください」
あずささんも拗ねてしまった。亜美は僕たちの話に飽きたのか、先ほどから毎度おなじみのトランプでまたおなじみのあれを作っていた。
飽きないなと思いつつ電話に出る。
「はい」
『もしもし、久弥くん?』
「はいそうですよ。なにか用ですか?」
『あ、う、うん。えっと、久弥くん、今度の日曜日って開いてる?』
「開いてますけど、先輩、退院できたんですか?」
『うん、今はだいぶ元気。それでじゃあ日曜日は予定ないってことでいい?』
「はい、大丈夫です。それで、日曜日になにか」
『う、うん……久弥くん!』
少し間をあけて、西条先輩が言う。
『私と! デートしてほしいの!!』
うん、もちろん僕はスマホを落とした。
平日に投稿です! 死ぬ気で頑張りいつもの倍書いてましたw
次は土曜か日曜日だと思います。
感想、誤字などありましたら気軽にお願いします。読んでくれて感謝です。